食事会
シャンデリアの光が照らす部屋。しかしあまりにも広すぎる部屋故、全体で見れば暗い部屋に見える。
そんな部屋の中心、シャンデリアの真下には丸い大きめのテーブル。真っ白なテーブルクロスの上には絵の具がまだ乗っているパレット、火のついていない新品の蝋燭、冷めきったステーキ、倒れたワイングラスが置いてあった。
その部屋にはナイフが皿に当たった甲高い音と、二人の男の会話が響いていた。
「僕、食欲が湧いたことないんだよね。でも何も食べないと死んじゃうから食べてる。生存本能?って言うのかな、結局生きる為に食べてるだけで、食欲が沸いて食べてる訳じゃないんだよね」
「君は馬鹿だね。それが食欲だよ。生存本能なんかじゃない。そもそも生存本能なんてないんだよ。人が勝手に大層な名前をつけただけだよ、その欲望に」
「はあ?でもそれ、逆にしても同じじゃない?」
「そうだね。逆にしても同じさ。ただ、僕は生存本能なんてなく、欲望しかないと思ってるだけだよ。そしてそう思っていない人を馬鹿にする。ただそれだけさ」
「つまらなそうな人生だね」
「なんとでも言えばいいよ。俺は楽しい」
両者とも食事を食べる手を止める事もなく、淡々と会話を続ける。言葉にしてみれば違和感のある光景なのだろうが、この光景を眼前でみれば、あまりの自然さに違和感なんてきっと感じないだろう。
向き合って会話をする二人の男。片や行儀良く綺麗に食べているのに対して、片や椅子に片足を乗せてナイフも使わずフォークで刺したステーキに齧りついている。何とも対照的な二人だ。
そんな、出会う事すらなさそうな二人が食事をしている。そんな奇妙な部屋。
「あんた気持ち悪い性格してるね。僕あんたのこと大嫌いだ」
「残念。俺は君のこと好きなんだけどな。そうだ、少し聞きたいことがあるんだけど、君は死ぬ時はどうやって死にたい?」
「くだらない質問だね。僕が死ぬ時は一人だよ。歳取ったら好きな事を名一杯して、海に飛び込んで死にたいな。今は死にたくないや。まだ人に沢山迷惑かけてないからね」
「君も十分な性格をしてるよ。一人で死にたいとか、でも今の子は一人で死にたい子とか多いんだろうね」
「僕を他の奴等と一緒にするなよ。俺は最期に一人で死にたいんだ。それと、あんたも俺とそんなに歳変わらないだろうが」
「そうだったかな」
「⋯⋯相変わらず訳の分からない奴だな」
呆れた目をしながらも、口と手はずっと変わらず、会話か、ステーキを食べるかのどちらにしか使わない。
もう一人の男も、それは同様だ。目は楽しそうなのに、口と手は先程から動きの変化がない。
ふと、上に吊り下げられていたシャンデリアが落下してきた。
シャンデリアはテービルに思い切り落下し高い音を鳴らして粉々に砕ける。原型は保っているものの、見るも無残な光景だ。
しかし、そんな事が起こっても二人はステーキを食べる手を止めることはない。小さいガラスの破片がステーキに落ちていようとも、それを意に返さずにステーキを食べ続ける。
「なあ、あんたはどうやって死にたいんだ?」
「俺か?俺は⋯⋯そう言えば考えた事もなかったな」
「人に聞いておいてか?」
「まあ、死ぬ、なんて俺とは縁遠い話だからね。俺は退屈を凌ぐ術をいつでも探してるだけだから」
「あんたのことは嫌いだけど、それだけは同情するよ」
「嬉しいなあ、同情してくれるのか、君は。久しぶりだね、同情なんてしてくれる人は」
目の前にシャンデリアが落下してきたと言うのに、この二人はそれを意に返すことすらもしない。
ステーキを、二人同時に食べ終わる。皿の上には、もう何も残ってはいない。肉の油も、ソースも、何もない。真っ白な皿が、二人の目の前に置かれていた。
行儀の悪い方が、フォークを持ち、そして真っ白で綺麗な皿にそれを振り下ろした。皿はあまりにも綺麗に、真っ二つに割れ、彼はフォークを割れた皿の間に綺麗においた。
行儀の良い方は、フォークとナイフを壁に投げ、皿を裏返した。フォークとナイフは壁に綺麗に突き刺さり、裏返した皿は灰になって崩れた。
二人は、倒れていたワイングラスを持ち、乾杯、と言うようにグラスを鳴らした。
「おはよう」
「おやすみ」
「朝はあんたで、夜は僕」
「何者にもなれない俺には命を」
「何者にでもなれる僕には剣を」
「それじゃあまた明日」
「世界が裏返しになったときに」
それは二人の男の食事会。
ただし、そこには一人の男しか座ってはいない。
雰囲気重視で、話の設定とか整合性とかもなんも考えずに書きました。後、ノリで。たまにこんな感じの趣味全開の短編書くのもいいかもしれない。