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第五章 レオ帝国剣客拾遺譚 4話

 木製の巨大な扉を前に立ち尽くすコブラたち四人。目の前の兵士も変わった姿をしている。

「ここの奴らは槍を使うんだな」

「まぁ、槍の方が剣よりも扱いやすい場合が多いし」

 コブラとキヨは、アステリオスと兵士が話している後ろでそのように話していた。

「けれど、私のところに来ていたレオ帝国の方々は刀を使っていましたよ?」

「人によるんじゃない?」

 この場にいる全員が槍を使うものではなかったが故に推測でしか話せなかったが、三人とも特にそのことに不自由はない。アステリオスが話しを終えるまでの暇つぶしでしかなかったからだ。

「みんなぁー。入っていいって」

 アステリオスが呼ぶので全員で門の中に入る。コブラたちはレオ帝国の男たちの黒髪に興味を持ち、じろじろと見つめる。それはレオ帝国の男も同じようで、髪色がまったく違う四人の男女を怪訝そうに見つめてくる。

「なんか、不思議な国ね」

 入ってすぐにキヨが呟く。地面がまず湿ってる。そもそもオフィックスやアリエス、ジェミ共和国や、キャンス王国は地面に石を敷き詰めている。故にコブラたちにとっては新鮮であった。

「タウラスも地面は土だったけれど、ここほどぬめりけはなかったからなぁ」

 アステリオスはしゃがんで地面から土を直接つかむ。

「良い野菜とか育ちそう……」

「土でわかんのか」

「まぁね」

「えっと、皆さん。町の皆さんが稀有な目で私達を見るので、どこか宿でも探しませんか?」

 周りをきょろきょろとしながらロロンは話しているコブラとアステリオスに提案する。

 その様子を見たキヨがクスクスと笑っている。

「どの国言ってもこんなものよ。落ち着いて」

「ああ。はい。なんか、たくさんの人に見られるのって慣れていなくて」

「でも、宿は探さないとなぁ」

「その前にお城に行くべきじゃない?」

 皆が各々話す中、アステリオスが言った言葉に全員が納得して頷く。

「にしてもあの城、変な形だな」

「あんまりそういうことを大声で言わないの」

 コブラの言葉にキヨが彼の脇腹を軽く小突く。

 レオ帝国中央にそびえ立つ城は石を高く積まれ、その上で木製の城を乗せているような形状になっている。その城も上に行くに従って小さくなってゆく三角形型になるように積み重ねられているような形をしており、その節目にも屋根のような突起がある。

 コブラはその城を見つめて嫌そうに眉を細めた。

「なんつーか。侵入しづらそうだな。なんか登りづらそうだし、一番上に宝があるとすりゃ、入って見つからないようにするのなんざ無理に近いし、降りるのにもさらっと時間がかかりそう……」

「コブラさんは盗人目線であの城を見るんですね」

 コブラの不機嫌そうな顔を見て苦笑いをするロロン。彼女の横でキヨは考え込むように顎に手を当てて城を見つめる。

「けど、あの建て方なら、城下を見渡しやすそうよね。あの頂上の部屋に常に兵士を二、三人は配置したら、全方位見渡せる」

「キヨは流石王様目線だね」

「そこもまたやりづらいんだよなぁ」

 キヨの言葉を聞いて納得したアステリオスと、その言葉でさらに頭を唸らせるコブラ。

 その様子に三人はケラケラと笑った。

「コブラ、あんたあそこに侵入するつもりだったの?」

「城があったら入れるかどうか目利きするのは盗人の常識だ。キャンス王国とかなんの工夫もしなくても入れるくらい雑な城だったんだがなぁ」

「なんか、キャンスの元守護竜としてお恥ずかしいご意見ですね……」

「ロロンさんは悪くないよー」

 四人はそんな会話をしながら城に向かって歩いてゆく。

 キヨは何かを見つけて、コブラの肩を大きく叩く。

「見てあれ! 美味しそう!」

「あぁ?」

「本当だ。すっごい香ばしい匂いがする」

 四人はキヨが指を指した方角にある屋台を見つける。串に何やら丸めた何かを焦げ目がつくまで焼いていた。

「これ、なんですか?」

 キヨは興味が湧いて焼いている男に問いかける。男は不思議そうにコブラたち四人を見つめるが、全員の態度から珍しい旅人であることを理解してニッカリとわらう。

「嬢ちゃんたち旅人かい? これは団子って食べ物さ」

「僕としてはその団子もだけど、この香ばしい匂いをさせているそこの液体が気になる!」

 団子を焼いているものの横に置かれている大きな器に入っているどろっとした液体にアステリオスは目を輝かせている。

「これはしょうゆっつってな。みそを作るときに出る液体なんだが――」

「みそってなんですか!」

 アステリオスはさらに身を乗り出して店の男に問いかける。男はあまりに問い詰めてくるアステリオスに少々戸惑っていた。

「あっ、すみません。実は僕も他国で料理人をやっていたもので。この国の食べ物は独自の文化があるんですね!」

「あ、あぁ。そういうことかい。まあみそについては後で教えてやるから、ちょっと見てな」

 店の男はそういうと団子が焦げ目がついた当たりで取り出し、しょうゆと呼ばれて液体を満たした器に突っ込む。

 団子にしょうゆがべったりとまとわりつく。香ばしい匂いも相まって、四人は全員生唾を飲む。

「このしょうゆってやつに砂糖とカタクリを削って出した粉を出すと、どろっとした舌触りになってうまいんだ。ほらよ。金はあるかい?」

「えっと、どうぞ!」

 アステリオスは慌てて財布を取り出す。店の男が値段を答えて、アステリオスはその金額を出す。

「こんなに文化圏が違うのに、貨幣は一緒なんだな。今までもちょっと思ったが」

「まぁ、周辺の12の国はヘラクロスがいた時代からあったわけだし、オフィックス建国時辺りに統一したんでしょう?」

「えぇ、確かそうだったと思いますよ。ヘラクロスが全ての国を見てまわり、中央国オフィックスが建設される時に各国の王が集まったので、その時に恐らく」

「ロロンさんは物知りですねぇ」

「伊達に長生きしていないので」

 アステリオスが購入している間に談笑に花を咲かせている四人にアステリオスは一本ずつ団子を渡す。

「いただきます!」

 四人がべっとりとしょうゆがついた団子を頬張る。

「ほほのあたりがべたべたするから気を付けろよ」

 店の男は新鮮な反応を見せる四人を見てケラケラと笑いながらはなしてくれる。確かに、頬がしょうゆだれのせいでべたべたである。しかし、そんなことが気にならないほどに――

「うまい!」

 全員が叫んだ。その言葉に店の男は嬉しそうにゲラゲラと笑う。

「そうかいそうかい! そりゃよかったよ!」

「この団子って何を使っているんですか?」

 キヨがもちもちとした食感の団子を咀嚼してゆっくりと飲み込んだ後、店の男に問いかける。

「あぁ? イネって植物から取れる米って奴だ。これを炊くとものすっごくうまい! この団子はその米をさらにすり潰して丸めたものさ」

「へぇ」

「もっと聞かせてください! この国の食べ物について!」

 アステリオスが目を輝かせて店の男に話しかけている。コブラは事の重大さに気づいて慌ててアステリオスの肩を掴む。

「アステリオス! 落ち着け! 俺達はまず王様に会わないといけねえだろ!」

「待って! せっかくの機会なんだ! ゆっくり話を――」

「キャンス王国の時の二の舞じゃねぇか!」

「あ、あの……二の舞と言うのは――」

「アステリオス、キャンス王国の時も、武器加工技術がすごいだのなんだのと、店のおじさん捕まえて話し込んだせいで、私とコブラだけで、王様のところ行かなくちゃいけなくなってね」

 キヨは呆れたようにコブラとアステリオスを見つめながらロロンに説明をする。ロロンはこの短い期間でも、その時のアステリオスの様子が目に浮かび、思わず笑みがこぼれそうになるが、キヨとコブラの手前。その笑みをぐっと答え苦笑いをする。

「まだ宿も決まっていねえんだぞ!」

「だってー! だってー!」

「まぁまぁ。兄ちゃん。この子が可哀想だから引っ張ってやるな」

 二人の喧嘩を仲裁する店の男はこの光景が滑稽で笑みがこぼれている。

 その様子を見つめているキヨは、目の色を変えて辺りをきょろきょろと見渡す。

「どうしたのですか? キヨ」

「誰か来る。私達に向かって」

 キヨは気配の辺りを見つめると、遠くから男が数名飛んできて、キヨが見つめていた辺りに着地する。

 四人の黒い恰好で顔も隠している男と、その四人の前に立つ、爽やかそうな表情をした少年がキヨの方を見て驚いたような表情をしていた。

「君、拙者たちが来ることをわかっていたのかい?」

「……気配がしたから」

「こう見えても、そういうのかき消してきているつもりだったんだけどなぁ」

 キヨは少年の言葉にさらに警戒心を強める。確かに、彼らは建物の屋根伝いに走ってきた様子だが、その音が一切聞こえなかった。コブラも音を立てずに屋根などを駆けることが出来るが、目の前の男たちはそれよりも上かもしれないとキヨは少年を睨んだ。

 キヨの様子に気づいてコブラとアステリオスも喧嘩をやめてキヨが睨んでいる少年の方をじっと見つめる。

 町の人達もこの状況に気付いたらしく、何やら賑やかに騒ぎ始める。

「ハヤテ様よ! なぜこのような城下に!」

「あの旅の者達に用かしら?」

「おぉ! ハヤテの旦那! 団子持ってくかい?」

 店の男も目の前の少年の顔を見て喜び彼に向かって話しかけていた。少年はそんな男ににこやかに笑って手を振って対応した。

「貴方何者?」

 突然のことに驚いて後ろに隠れたロロンのことを気にせず、キヨは少年を睨み、問いかける。

 すると目の前の少年と四人の男は片膝をついて頭を下げる。

「拙者はこの国で隠密部隊隊長をやっているハヤテと言う者です。貴方がたが星巡りにやってきたオフィックスからの使者ですね? 門番から聞いております。貴方たちを王の元へお迎えするために参上仕りました」

 顔を上げ、ニッカリと笑う少年の顔を見て、キヨと、コブラと、アステリオスの三人はなぜか彼、ハヤテがヤマトに似ていると感じてしまった。


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