第五章 レオ帝国剣客拾遺譚 29話
ヤマトがムサシの家につくや否や、倒れ込むように眠りについた。
そんな彼が目を覚ましたのは翌日のことであった。
ヤマトはムサシに用意してもらった焼き魚を持ちながらわなわなと震えていた。
「コブラの奴! 何を考えているんだ」
「ほ、本当にね……」
怒り心頭のヤマトと呆れているキヨ。ケラケラと笑うムサシをにこやかに見つめながら部屋の掃除をアステリオスとロロンが行っている。
「まぁ、コブラにも考えがあるんだろう」
ムサシは歯ぎしりを立ててイラついているヤマトをなだめるように言いながら、魚をカッ喰らう。
ヤマトも心を落ち着かせるために一度大きく深呼吸をする。
「そういえば、倒れる前にミコトがいたと思うのだが」
「ミコトさんなら、ヤマトを介抱した後、帰ったわよ。今日もホムラさんのところで補佐の仕事をしているんじゃないかな」
「そうか。ならミコトがまた立ちふさがるかもしれなのか」
「そうねぇ。なんかミコトさん考え事していたみたいだけど」
「今日向かうのでしたら、私はいけますよ」
ロロンはグッと拳を作って意気込んでみせている。
アステリオスはそんなロロンさんを心配そうに見つめている。
ホムラのハバキリで全身を焼かれているのだ。ドラゴンの回復力が高いと言ってもまだ闘うのには不安が残る。
「城に入って我々に立ちはだかるのはハヤテと、その部下隠密部隊。そして補佐のミコトと、王であるホムラ。そして、コブラと言うことか」
「そうなるな。俺はこの領地から出れねえから城で助けてやることはできない」
「えぇ。それは重々承知しております」
「となると城への侵入は私とヤマト、ロロンとアステリオスになるわね」
「頑張ります!」
ロロンは大きな声で返事をする。
掃除道具を片付けて戻ってきたアステリオスも彼女の横に立ち、頷く。
「ヤマト、ロロンさんのやる気は応援してあげたいけど、まだ傷が完治したわけじゃない。あまり前線には出さないって言える?」
アステリオスは心配槍にヤマトに問いかけた。
「あぁ。もとよりこの国で十分働いてもらっている。それにこれは私の喧嘩、コブラの星巡りだ。手伝ってもらうことがあっても、ロロンにホムラの相手はもうさせない」
「ですが!」
納得のいかない様子でロロンはヤマトに食い下がった。強い敵を相手なら、ドラゴンである自分が挑むべきだと考えているのだ。
それに、ホムラのハバキリの炎を浴びた自分だからこそわかる。あれはドラゴンでもなんでもないただの人間が喰らえば命を落とす危険を孕んでいる。
せっかく出会えたヤマトを命の危険に晒すことをロロンは良しとしなかった。
そんな彼女を、アステリオスがなだめる。
「ロロンさん。もう少し自分を大事にして。ヤマト。僕らは城の前でハヤテさんの部下、隠密部隊や侍の対処に当たればいいかい?」
「あぁ。その二点も十分危険で、なおかつ自分たちが城へ入るには必ず対処しなければならない問題だ」
「うん。ロロンさんと僕で彼らの注意を反らせばいいんだよね」
「そうだな。そうすれば私とキヨで城に入る。警戒して城から出てこないのはおそらくコブラと同行しているハヤテと、ホムラ、そしてミコトの四人だろう。その二人を私とキヨでなんとかしないといけないが」
「四人って言っても、一人はコブラでしょう? 説得したら三対三よ。ミコトさんも本気でこちらを責めてはこないと考えればむしろ数の利はこちらにあるはず」
キヨが冷静に状況を考えて答える。その様子にムサシは思わず豪快に笑う。
「数の利つったって、お前ら全員ボロボロじゃねぇか。対して向こうのコブラとハヤテは見たところ無傷。ホムラも当然としてミコトも大した怪我はしていない」
ムサシの言葉にヤマトとキヨは自分の身体に刻まれた傷をそっと撫でる。
しばらくの沈黙の後、ヤマトがそっと口を開いた。
「そこはやるしかありません」
横に置かれたクサナギをそっと撫でながら覚悟を孕ませた声と共にムサシの目を睨んだ。
「あぁ。そうだな。良い目だ。シュンスイの奴はお前に刀を渡した段階で、この喧嘩から降りるだろう。それが唯一の救いだな。こういった喧嘩事にシュンスイが絡めばあいつがついた側がかっちまうからな」
ケラケラとヤマトが笑う。それにつられてヤマトも笑う。
昔、ヤマトとハヤテが喧嘩していた時、シュンスイが割って入って両方に拳骨を喰らわせ、二人とも喧嘩をする気力を奪ったときのことを思い出したのだ。
あの時は喧嘩が鬱陶しかったホムラがシュンスイを呼んで止めさせていた。つまり、喧嘩に勝つにはシュンスイを味方につける。それがヘラクロス家での喧嘩処世術だったのを思い出したのだ。
親子二人でケラケラと笑う様子をキヨは穏やかな顔で見つめる。
「ヤマト。私はどうしよう」
「そうだな。ハヤテの牽制を頼みたい。コブラが敵となった今、ハヤテの動きについていけるのはキヨしかいない。ハヤテにも伝えたいことはあるが、この喧嘩が終わってからでもいいだろう。だから頼んでよいか」
「えぇ。任せて」
「アステリオスとロロンには城塞前で警備にあたっているであろう侍と隠密部隊の対応をお願いしたい」
「任せてよ! こんなこともあろうかと装備はたくさん用意しているんだから!」
「そうなのか?」
アステリオスの頼もしい言葉にヤマトは驚いて目を丸くした。
「うん。コブラがホムラに喧嘩を売った後、どうせ城を攻め込むことになるのはわかっていたからね。そのための準備を色々とね。ヤマトが色んなところに散歩している間に」
「あぁ。この民家の一室が完全にアステリオスの私物となってやがったな」
ムサシがアステリオスの作業部屋と化した部屋のことを思い出して溜息を吐く。
しかし、溜息とは違い、表情はさほど暗くなっていなかった。
「ロロンさんもわざわざドラゴンにならなくても大丈夫だよ。ただ、ちょっと装備が重いから一緒に背負ってもらうけれど」
「えぇ! えぇ! もちろん手伝いますよ。アステリオス」
嬉しそうに何度も頷くロロンにアステリオスも誇らしげであった。
「ロロンももちろんだが、アステリオス。君も随分と傷ついている。あまり無茶をするなよ」
「大丈夫! こんなのものは人を傷つけない道具さ。僕らしい喧嘩の仕方をしてやろうかと」
アステリオスはニヤリと笑っている。これにはずっと眠っていたロロンや、ミコトの家にいたキヨは理由がわからず首を傾げている。一人だけ何か知っているようでムサシもまたニヤニヤと笑っている。
「そういうことだから完璧に任せてよ!」
アステリオスは自信満々だと言わんばかりに胸を強く叩く。
小さな身体ではあるが、彼の自信にあふれた態度は何よりも頼もしいとヤマトは感じた。
「では、出発するか」
ヤマトは立ち上がり、横に置いているクサナギを掴み、腰に携える。
そしてこれからの喧嘩への決意を固めるために大きく深呼吸をする。
キヨも立ち上がり、支度をする。
「僕らは道具もあるから先に出発するね。ヤマト。いいかい? 城下町で騒ぎがあるまでは城の近くで身を隠しておいてね。行こう。ロロンさん」
そういってアステリオスはロロンを連れて部屋へ移動していった。ヤマトはその言葉を聞き終えると、身支度を始める。
これから、一度も勝てなかった兄。ホムラと闘う。
一度は逃げた相手。今でもホムラはタケルを捕らえた時のことを思い出すと手が震えてしまう。そんなヤマトの肩をキヨがそっと手を添える。
「ヤマト、大丈夫よ。私もコブラも、アステリオスたちもついている。それにその刀は、シュンスイさんが貴方を認めた証拠でしょう? 自信持って」
「キヨ。済まない。最後の最後に怖気づいてしまうとは、クサナギにも、君たちにも失礼だったな。私は本当にこの旅で良い友に恵まれたよ」
「コブラも?」
キヨが意地悪そうにヤマトの顔を覗き込んだ。
ヤマトの脳裏には憎らしい顏でこちらを揶揄っているコブラの姿であり、思わず嘲笑してしまう。
「そうだな。あんなのもいい悪友だろう。あいつには私から直々に金的を喰わらせてやる」
「その息ね。私も久々に奴に金的食わらせてやろうかしら」
「ハハハ。一度に二度もされたら奴も男で入れなくなるかもな」
「女のコブラとか想像するだけで面白いんだけど」
「そうだな。今度絵にして書いてみるといい」
「それいいね。絶対に笑える絵にしてやろう」
ヤマトとキヨはケラケラと会話を弾ませている。
こうしていると、アステリオスと出会う前、アリエス王国までの旅をしていた頃の何気ない会話を思い出してヤマトの心が温かくなる。
同時にここにコブラがいないことへの一抹の寂しさを拭いきれずにいた。
「コブラは、なんだかんだ無意味なことはしないと思うからさ」
一通り笑い終えたキヨが俯いてヤマトに語りかける。
「あぁ。わかっている。あいつがハヤテに付くというなら何か理由があるのだろう。それを聞くためにも私はコブラとも闘わないといけない」
ヤマトは部屋の端に立てかけてある木刀を一本握る。
「父上。こちらの木刀一本いただいてもよろしいか?」
「あぁ。かまわねえぜ。俺が彫った最高の木刀だ。ぜひ使ってくれ」
ムサシの了承を得て手にした木刀をクサナギと並べて携える。
「では、キヨ。我々も向かおうか」
「えぇ。今日でこの国での星巡りも終わるのね」
「描きたい絵は描いたのか?」
ヤマトはニヤニヤしながら問いかける。
「えぇ、それはもう済ませたわ」
すっきりとした表情をしながら扉まで歩くキヨとヤマトの背をムサシは見つめる。
「じゃ、二人とも。いってらっしゃい」
「はい。行って参ります」
「行ってきます」
そして二人はアステリオスとロロンに続いて、ムサシの家を出た。
獅子城の王室。そこに鎮座するホムラはえらく不機嫌な様相であった。
その横に立っているミコトもその様子には問いかけて良いものか判断に迷った。
「ミコトよ」
「なんでしょうか?」
「先日。あのオフィックスの王の娘。キヨと言ったか。奴を追って以降、貴様は何をしていた」
ホムラはミコトの方を見つめていない。ミコトは表情に出ない自分の体質に感謝する。
こちらを見ていないが、ホムラがミコトに対して放っている殺気は本来なら怯えて声を震わせてしまうほどの恐怖を煽るものだったからだ。
「処刑妨害の罪人と言えど、彼女は中央国オフィックスの王の娘です。命を取ることは問題かと判断し、致命傷を受けたキヨ様を、我がツクヨミ邸へ招き、治療を施しました」
「ほぉ。確かに、ツクヨミ邸はこの国でもっとも薬学に精通している場所だ。傷を癒すならば、あそこほど適任の場所はない。しかしミコト、命を取らぬように治療したキヨ嬢は、なぜここにいない? 治療した後、こちらに連行すれば、ヤマトをここへ誘き出し、再び処刑を実行出来たはずだが?」
ミコトは何も答えず、ゆっくりと腰を曲げ、頭を下げ、謝罪の意を示す。
「申し訳ございません。王よ。キヨ様は、今朝我がツクヨミ邸を逃亡致しました。私やハヤテにも負けず劣らずの脚力を持つ少女です。ツクヨミ邸の者達ではとても対抗できず」
淡々と嘘を並べる。それでも表情を一切崩すことはない。
「そうか。今朝キヨ嬢逃亡したとなると、ヤマトと合流している可能性は少ない……が」
ホムラがギロリとこちらを睨んできた。ミコトも流石にその威圧感に負け、少し驚いた表情をしてしまう。
「今朝に逃亡したのであれば、昨晩にはツクヨミ邸に連れていっていたのであろう? なぜそれを俺に報告しない? それとも、報告するには不都合なことでもあったのか?」
ミコトはすぐにホムラが自分を疑っていると理解した。言葉を間違えればヤマトとの関係全てが気づかれてしまう。
「ツクヨミ邸に帰った際、姉マコトの体調も悪化いたしまして、その看病に当たっているうちに陽も落ちたので、そのまま我が家で過ごしたと言うことです」
ホムラがミコトから視線を外し、少し威圧を解いた。ミコトは心の中で安堵する。
「ミコトよ。私は君を信用している。それははっきり言葉にしておこう」
「ありがたいお言葉です」
「親友のタケルが処刑された後だと言うのに君は私の命に従ってくれている。非常に合理的な人間だ。感情は感情。合理は合理。罪を犯せば罰を受けねばなるまい。君の在り方は私に通ずると考えていた。何事にも表情を変えず、己の使命をこなすことの出来る者。そのものこそが力を使役する王にふさわしい」
ミコトに語りかけているが、今もなおミコトの方など見ていない。
「突然どうしたのですか? ホムラ様」
「あぁ。済まない。私にもしも何かあった時に、次の王はヘラクロスの者ではなく、君にお願いしようと考えていると言う話さ」
ミコトはそのような答えが来るとは思っておらず、唖然としていた。
「ホムラ様らしくありませんね。貴方に限って「もしも」などと言う言葉を使うなんて」
「使いたくもなる。私も可能な限り可能性は全て抹消しておきたかったがな」
ホムラは憂いた表情で溜息を吐く。
「昔、父に言われた。お前はいつかヤマトに負けると。私もそれは理解していた。ヤマトにはいつか負ける。奴は、この国の大化となる可能性を孕ませている。だからこそ。摘まねばならぬ――」
そう言っているホムラの目は殺気だっていて、ミコトはその目を直視することが出来なかった。
「そうだ。だからこそ。私は君を信用していた。そしてヤマトの親友でもあった君を私の隣に置いておきたかったのだ。君は本当に優秀だったよ。ミコト」
外から侍たちがガヤガヤと騒ぎ始めている。ミコトは外に向けて視線を向ける。
「なんでしょうか?」
「君は本当に何も知らないのか? 城下町で異変が起きている。隠密部隊から事前に聞いていない情報だ。『今朝』キヨ嬢が脱走したのなら、この襲撃は些か早すぎるのではないか? どうかね? ミコト」
ミコトはそれでも表情を崩さないことを徹底した。
ホムラの手がハバキリの柄をそっと握っている。
ミコトはそれでも表情を崩さない。
「王よ! 報告が!」
ハヤテが王室へ入ってくる。ホムラは仕方なく柄を離す。
「どうしたハヤテ。外の喧噪の詳細か?」
「えぇ。城下で出店をやっているやつがいるらしく、えらく繁盛しておりまして……。止めにはいるために橋を降ろして良いでしょうか?」
ハヤテは今日ヤマトたちが攻めてくるのはわかりきっていた。だからこそ橋を降ろすことに躊躇していた。悩んだ末の王への使用許可である。
「うむ。仕方あるまい。降ろせ。仮にヤマトたちが襲いかかってきても返り討ちにすれば良い」
「御意!」
ハヤテはその言葉と共に王室を出ていった。
「さて、ミコト。弁明はあるか?」
「弁明? なんのことでしょうか?」
「下の出店。おそらく奴らであろう。この城に侵入する橋を降ろすための作戦だ」
「そうでしょうか? 私なら、そのようなことをせず、堀からゆっくりとよじ登り侵入致します。それに私よりも疑うべきものがいるでしょう」
ミコトは冷たい声で言う。ミコトもホムラの方など見ていない。彼女の視線は王室の柱の陰をじっと見つめていた。
「ありゃ、流石王様の補佐だ。お気づきだったか」
影から姿を見せたのはコブラであった。
それでもホムラもミコトも驚いたような表情をしていない。二人ともコブラが隠れていたのに気づいている様子であった。
「なんだよ。もっと、いたのか!? みたいな反応が欲しかったんだがねぇ」
「最初から気づいていたからな。むしろミコトを挑発して、彼女の危機を感じた貴様が助けに入れば、ミコトが裏切り者だと判断出来たのだが、やはり君は優秀な補佐だと言うことだな」
ホムラは安心しきったように大きく息を吐いた。ミコトも安堵の息を吐く。
「いくら私と言えども、二日続けて優秀な民を斬るのは少々気が滅入るのでな」
「二日続けて……ですか?」
自分への疑いが晴れた。ミコトが思わずホムラに対して問いかけてしまう。
「あぁ。シュンスイだ。あの者。こともあろうが、ヤマトに国宝を渡したそうだ。私と互角にさせるためと言っていたが、立派な反逆行為だ。だから私が斬った」
「斬ったとは……シュンスイ様をですか?」
「あぁ。元々、気に食わん弟であったよ。力があるのに心が弱すぎる。勿体ない実に非合理的な奴だった」
ホムラの言葉にミコトは思わず目を丸くして驚いている。
そしてそれを聞いていたコブラはホムラを睨みつけながら怒りで握りこぶしを作る。
「じゃ、かくれんぼも失敗したし、俺は元の配置へ戻ります。ホムラ王よ。貴方の考えだと、この後、橋を渡ってヤマトがやってくるのでしょう? この俺が見事奴を成敗してみせましょう」
コブラは恭しく、しかしわざとらしく従順な口調で頭を下げた後、王室を出ていった。
城下町では不思議な食感の『爆ぜもろこし』の屋台に人だかりが出来ていた。
ただでさえ不思議な見た目の食べ物に興味津々の町の者たちに、屋台の主、アステリオスはレオ帝国では流通していないバターと、レオ帝国独自の調味料醤油を組み合わせた液体を爆ぜもろこしにまぶした。知らない食べ物と、慣れ親しんだ匂いが合わさり、独自の香りを放つそれに町民たちは心を奪われ、一つ口に入れれば、その不思議な食感と味に舌が喜び、興奮の悲鳴を上げる。侍や隠密部隊がその屋台をやっている者がヤマトの仲間であるアステリオスとロロンであることを確信して止めに入るも、興奮した町民たちに阻止される。
町民たちは閻魔橋の闘いの時に彼ら二人の顔を見ていない。侍たちが警告の声をあげようにも町人たちの会話でかき消され、刀を抜こうにも人だかりがアステリオスたちを守る壁となり、罪なき人を斬るわけにもいかず、侍たちは手をこまねいていた。
その混乱に乗じて、ヤマトとキヨは布で顔を隠しながら町人のふりをして、城への橋をそそくさとわたる。
「アステリオスの作戦ってあれだったのね」
「あぁ。本当にあの子は頼もしいよ」
「あとで私たちの分もあるかな?」
「どうだろうなぁ」
囁き合うように二人で話しながら城の中への入っていく。
「よオ。お二人さん。やっぱり侵入してきたな」
城に入り、辿りついた広間で二人を呼ぶ声がした。
最初にコブラたちとホムラが話した広間だ。
ヤマトとキヨは目の前の男たちを見て、もはや隠す必要なしと、顔を隠していた布を外す。
「よっ。ヤマト。久々だな」
「コブラ。貴様どういうつもりだ」
ヤマトが睨むと、コブラはニカっと笑いながらハヤテの肩に腕を回す。
「何って、俺はこのハヤテ様に仕えることにした隠密部隊の新人さ」
「キヨさん。そして兄さん。王を斬るつもりでしょうか。拙者が防いでみせますよ」
ニヤニヤと笑うコブラと真剣な表情で見つめるハヤテに対して、ヤマトとキヨは臨戦態勢を取る。
最初に動いたのはキヨであった。キヨはムサシの家から拝借したクナイをハヤテに向けて投げる。ハヤテはそれを防ぐも、すぐにキヨが大回りでこの広間を抜けようとするので、キヨを追いかけて彼女の攻撃を受け止める。
ヤマトは木刀を握り、真正面から広間を抜けようと画策する。
しかし、広間の扉の前で、コブラがヤマトの前に立ちはだかる。
「おいおいヤマト! 俺ともしっかり喧嘩しようぜ!」
「コブラ! 貴様!」
ヤマトは手に握っている木刀でコブラを攻撃を開始する。
獅子城での闘いを合図に、レオ帝国最後の一日の火蓋が切って落とされた。