前世の因縁
「何でこんな所にいるの!?」
「口調が完全に崩れてますよ」
あっ…
「……リオン、何故このような場にいらっしゃるのです?」
こらっ、顔を背けない。怒らないから、私に笑うのを堪えているであろう顔を見せないさい(怒)
少しの間そうしていたが、再び私をみたリオンは、きりっとした顔に戻っていた。…釈然としないのは私だけ?
「…俺がいる理由は簡単ですよ。イグルイ様が明日から来日するので、色々準備があるのです。今日は城の下見ついでに偵察してました。」
「さらっと偵察ゆーな。」
こいつ私にさらっと偵察って言ったど?おお、通報して捕まえてもいいですかね?
少し身長が伸びたリオンを睨みつける。…くっそ、もう少し身長が欲しい!
「ところでいつまで俺の前で猫被るんですか?いい加減諦めたらどうです?」
「……そうさせてもらうよ」
素直に頷く。
諦めよう。どうせ出会った時から私の素はバレてるんだ。
思わず遠い目になった私を置いて、リオンは頼んでもない事を喋りだす。
「調べてみたら、ここの王子様は小さな頃から好きな子がいるみたいですよ。その為に婚約者をつくっていないのだとか。そして城内では、第一王子の勢力が拡大していますね。特に伯爵がーー」
「ちょっとストップ。」
慌ててストップをかけた。
自分の顔は見れないが、多分引きつった笑いになってると思う。
「まって、私が聞いてはいけないことを沢山言われた気がするんだけど」
「大丈夫ですよ」
そう?いや、そんなことを知ってるなんてバレたら――
「バレなければいいんですよ。まぁ、バレたら謹慎となって何故知っているのか、尋問を受けると思いますが」
「追い討ちをかけるようなことを言わないでぇ!」
いやぁぁあ!尋問て、尋問て!あれかなり痛いんだよ!?知ってる!?…知るわけないよね。そうだよね。
だけど私、人生の最後に経験したんだよぉぉ~~~~!!
「バレたらですけれど。大丈夫です。そうなったらうちの王子様が絶対に助けに行きますから」
絶対とはまた大きく出たものですね。
「……そう言えば、何で貴方の主人は私を婚約者にしたの?ぶっちゃけちゃうと、私性格最悪だよ?」
「……俺が言うと叱られます。ご本人の口から聞いてください」
流石に言ってくれないか。まぁ、理由なんて利益があるからだろうけれど。政略だろう。
「……なんだか今、マリーベル様が的外れなことを考えている気がします」
「そう?私はただ、この婚約の理由を考えていただけだけど」
「なんて考えました?」
「政略。当然でしょ?」
おい、なんで今溜息吐いた。間違ってないでしょう?…あ、図星だったから言うなってことかな?
「……分かりました。それ以上考えないで下さい。お願いします」
「分かった。…ってこんな事を話して暇は無いんだった!ごめんあそばせ!」
「ちょ!」
待って下さいって声が聞こえるけど、ごめんよ!兄様に置いてかれるかもしれないんだ!
全力で走り、待っていると言われた場所へおどり出る。
「お兄様!」
「…遅い」
目の前には扉が開いた馬車。そして、その中で睨んで私を見た兄様。
…ま、間に合った…
「すいません。」
「仕方ない。王太子殿下に申し込まれたら、断れないからな。」
「…見ていらしたのですか?」
「…視界に入っただけだ。」
「左様でございますか。」
馬車に乗り込むと、直ぐに出発した。
乱れた呼吸を整えようと深呼吸をしていると、兄様が見ていることに気がついた。
「…お前最近おかしくないか?」
「そうでしょうか?」
「ああ。あの我儘っぷりはどこへ行った。」
何気に失礼じゃないか、このお兄様。
「………自分が醜いと感じたので、改心しました。それだけです。」
「ふぅん。」
兄様は絶対に信じていないだろうけど頷き、話しかけてくることはなかった。
***
「ではわたくしめは旦那様方を迎えにいってきますので。」
「気をつけてね。」
従者はそう言って去っていった。
私は自室に向かうとしたが、兄様に腕を掴まれた。
「……何でございましょう?」
「おい、少し俺とお茶をしろ。」
「…分かりました。」
何だろう?更に問い詰められるのだろうか?
兄様は自分の部屋へと連れていった。
…思えば始めて兄様の部屋でいく気がする。何をされるんだろう?
椅子に座らされ、私は怖い怖い兄様と正面に向かい合った。
…怖い!
「…あの、何で呼ばれたのでしょう?」
「楽にしたらどうだ?どうせ俺しか見ていない。」
「…へ?」
兄様はポテチをクローゼットから取り出した。
…え?
兄様の崩れた口調と仕草に、既視感を抱いた。
「あの、どういうことでしょう?」
「しらばっくれるな、愛梨。」
「!?」
一瞬誰の名前かと思った。だけど、瞬時に思い出した。
…私の前世の名前だ。
つまり、この人も転生者で、私を知っている人ということ。
理解したら、警戒度が一気に上がっていく。
何一つボロが出ないよう、指先まで神経を研ぎ澄ます。
しかし、それがすぐに無駄なことだと知った。
「…あの、何を言って…」
「あのさぁ、バレないと思ってんのか?誤魔化す時の癖とかそのまま過ぎて、笑いそうになるんだが」
鼻で笑う態度に、少なからずイラっとする。
「……貴方は?」
「俺?俺はお前の兄。是九斗。」
思わず息を飲んだ。
知ってる。その名前は、前世の兄貴だ。絶対に世界に一人しかいないであろう名前。間違えるはずのない名前。
一瞬認めたくなかったが、知ってる。この笑う時の癖。人を馬鹿にする笑い方。全て、忘れたくても忘れられないものとして、身体に刻みついている。
憎しみを込めて、お兄様…兄貴を見る。
「……兄貴、何?私を笑いにきた?」
「なんでお前を笑うんだ?」
「はぐらかさないで!どうせまた馬鹿にするんでしょう!?折角、リセットして暮らせると思ったのに…!」