プロローグ 始まり
超超短いプロローグ的なものです。
表記通り今話から新章に入ります。
そう、それは例えばゲームの始まり。
一人の少女の為に作られた世界があったとしよう。そう、まるで設計図のように作られた世界。
ご都合主義もいいところ。
だが、一つでもバグがあればそれはただの失敗作。
一つ異分子さえあれば成立などしない脆い世界だが、釣り合うような要素が加わればプラマイゼロで存在することは出来るだろう。
初期地点が出来ました。
これで本来と同じスタートを切れる、という訳ではない。
平行移動のように全く異なるスタートは、主人公を変えた新たな物語を作り出す。
では、その主人公は少女ではなく誰だろう?
………
……
…
――――一人の少女がデビュタントに舞い降りた。
遠目からでも分かる可愛らしい容姿に茶色のロングヘア―が歩くリズムに合わせて揺れる。
天使のように微笑んでいる少女に全員が目を引き付けられる。
しかし、これほどの人物ならすぐに噂になっていてもおかしくない。
噂好きの貴族が知らないなど、まるで天女そのもの。
今まで聞いたことも見たこともない存在に全員がはて、と首を傾げていると全てを吹き飛ばすヒールの音が鳴った。
――カツン
微かな音であるのにも関わらず、一瞬にして天女も含めた全員の視線が入口に向かう。
視界には入場の扉には二つの影が伸びていて、音が近づく度に大きくなっていく。
仲睦まじく腕を組み近づいてくるのはこの国でもトップを争うぐらい有名な婚約者。
「――マリーベル・ヒルディア公爵令嬢、イグルイ・リゾークフィル王太子殿下のご入場――」
読み上げた大臣の声とともに盛大な拍手が沸き起こる。
天女も同じように拍手しながら、マリーベルを見て目を輝かせる。
天女は覚えている。絶対に忘れられない日の出来事を。いつか会えたら絶対に感謝を言おうと誓っていた。
こっそり手を組みながら呟く。
「…神様、機会を与えてくださり感謝します」
注目を集め既に人の山で見えなくなっているマリーベルに残念そうな顔をするが、後ででもいいかと天女は前向きに考えその場を離れていった。
…誰が、これを見られていたマリーベルが見ていたと思うだろう。
横目で離れていく天女を確認すると、隣に立っているイグルイに囁く。
「…いましたよ、ルイ」
「うん、私も覚えたよ。でも…そんなに可愛いかな?」
「ごめん、ちょっと黙ってて」
誰にも聞かれていない会話を終わりにすると、二人は笑顔で人の山を抜けだしホールへと進んでいく。
…天女に話しかけられるまであと数分