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誕生祭 後半


「だから自信をもって」


そう言葉を締めくくる。


お願いだからいつものルイに戻ってほしい。絶望の表情なんてしてほしくない。


そう願いながら届いた次の声は、聞き取れるのもギリギリな小さなものだった。


「…ありがとう」


身体を離すとハイライトのある瞳が見え、心の中でほっと息を吐く。

どうやら調子は取り戻せたようで、口角も僅かに上がって私に微笑んだ。


「ごめん、みっともないとこ見して」

「ううん、気にしないで。ところでさっきのは…何?」


流石にこの流れを無視するのは許さない。


私がルイの言葉を遮って尋ねると、一瞬で笑顔が凍ってしまう。

それから迷うように目を伏せた。

それを見て心に罪悪感が生まれ、今すぐに謝りたい衝動に駆られるも必死に抑え込む。


何故なら、この機会を逃したら二度とおぞましさを感じたあの関係を聞けないような気がしたから。

先程までの動揺ぶりから明らかに地雷と分かっているけれど、私は知りたい。いや、知るべきなんだと思う。


理由を求められても分からないとしかいえない。


もしかしたら同情かもしれないし、偽善ぶっているだけなのかもしれない。

自分が最低だと分かっているから無意識のうちに醜さを隠したかがっているのかもしれない。


「どうしてルイは無視されていたの?ねえ…」

「…マリーはどうしてだと思う?」


え…


質問を返されてとりあえず考えてみる。

まるで家族とさえも思っていたいような扱い。妾の子ならまだ分かるけど、ルイはれっきと王妃様の子供だ。

何故なら、リゾークフィル王国は一夫一妻制だから。

だから基本穏やかな国と本に書いてあったりしたのだけれど、現実は全く違った。


一瞬制度が誤っていたのかとも思ったけど、流石にそれはあり得ない。もしそうだとしたら混乱したのは私だけでないだろうから訂正されているはず。


そうなると、ルイに何かしらの異分子要素があるということが分かる。


ルイの言動から考えられるに……目?


ふと錯乱状態のルイの言葉が思い出される。


『なぁマリー。俺は必要な存在なのか?こんな人格で本来持つはずのない紅眼の俺は、世界でイラナイ存在なのか?』


…本来持つはずのない紅眼。


まさか、と乾いた笑いが出そうになる。

それだけで異端扱いがされるわけがない。確かに国王夫妻のどちらも赤い目でなかったけれど、おそらくルイは先祖返りだろう。


でも思い当たるのがそれしかないというのは事実なのだ。


じっくり考えだした結論を言う。


「…目、かな?」

「半分正解だが、もう一つある」


そう言って自分の頭を悲しそうな笑みでルイは指さす。


頭。つまり脳。


…そうだ。ルイは転生者かと思うぐらいに頭がいい。普通の大人を超越している頭脳と知識。そして魔力。これらはルイを宝だと称した理由だ。


だけど今話しているのは王様たちが忌避しているものについて。


ありえないと思って最初から可能性から消していた。


だって、頭のいい人はいつだって優遇される。頭の悪い人間の出来損ないは見向きもされないで、知力は絶対的なものだと思っていた。私がそうだったから、そう思ってしまった。


だけど全員がそうだとは限らなかった。当たり前だ、十人十色という四字熟語があるように、世の中は多種多様なのだから。


ルイは――正反対の扱いを受けてしまったんだ。


「マリーは宝だと言ってくれたけど、あいつらにとっては邪魔ものだったんだ。俺の情報を一切外に漏らさないで部屋を隔離するぐらいには」

「…っ!」


予想以上の酷さに絶句してしまう。


噂一つないのは不思議に思っていたけれど、そんな酷い理由だとは思っていなかった。

部屋を隔離するなんて、家族にすることではない。いや、実際に家族だとは思っていなかったから出来た所業だろう。


まだ幼く無垢な子供になんてことをするんだろう。ルイ自身は悪くないから責任なんてとる必要もないのに。


言葉を発せない私にルイは困ったように眉じりを下げた。


「マリーが知りたいっていたから話したけど、やっぱ話すべきじゃなったかもなあ。傷つかせてしまった。これ以上話すのは止めにするか」

「…ううん、先をお願い」

「え?」


私の頭を撫でていた手が止まる。

それから少ししてまだ動かされる。


何とも言い表せない気持ちよさにペットってこんな気持ちなのかなー、と思わず目が垂れそうになるが、次の言葉にハッと目が覚める。


「なあマリーは何も知らなくていいんだ。聞いて、優しいから自分の事のように悲しみ傷つくマリーを見たくないんだ」

「!…大丈夫だから。お願い。ルイの事を知りたいの…!」


懇願の目を向けると、ルイが僅かに瞠目する。

しばし考える素振りをすると一つの部屋の扉を押し、中に促す。


「…少し長くなるからこっちでゆっくり話そうか」

「!うん」


ベンチから立ち上がり、後を追いかけた。


***


マリーが付いてきている姿を確認し、その辺の椅子に座る。


…可愛いなぁ


今日何度目か分からない感想を抱く。

ふと姿を見ただけでそう思ってしまうのは最初は戸惑ったけど、それが普通になってきた。

特に今日は回数が多いような気もするけれど、当たり前と言わざるを得ない。


自分がデザインしてくれたドレスを身にまとい、俺の眼の色のイヤリング。見るたびに幸福感に満たされないわけがない。


ぼんやりと優雅に座る姿を見ていると、赤い唇が開かれる。

俺を射抜く何回か見たことのある真剣な視線は、そのたびに転生者ということが分からせられる。

同時に置いて行かれているような気分になり、劣等感に苛まれた。


…あの時、俺は自分の無力さを思い知った。


劣等感がありながらも、心の底でも慢心していた。

自分の頭脳があれば何でもできると。自分の力量ならどのような敵でもやれると。

馬鹿だった。世界で一番の馬鹿だった。


何もしなければ一歩も成長しないというのに。

何もしなければマリーに追いつくことなど出来ないというのに。


何もしないで人外…それも伝説の赤竜に勝つなど不可能なんて当たり前


「…それじゃ、続きをお願いします」

「分かった」


正直俺はマリーに言うつもりは一生なかった。

ただマリーが知りたいと、話してほしいと望むから覚悟を決めたけれど、それでも拒否感が消えない。


話したくないと叫ぶ心を押し殺して、表情を悟られないように俯きながら話し出す。


――俺はマリーも知っての通りリゾークフィル王国の第一王子だ。

マリーも知っていると思うが、俺らの国の王家は側室を持たない。だから正妻から生まれたれっきとした王子だ。


だが、その喜びなんぞ一瞬だったに違いない。何故なら生まれた赤子の眼は誰の遺伝子も持たない紅だったんだから。

俺らの血筋は全員白髪金眼なんだ。どの代にも赤の眼なんて影さえもない。だから、誰もが最初俺の出生を疑った。


本当に王家の子なのかと。


笑っちまうよな、王妃を侮辱するも同然の事を全員が思うなんて。今でも言う奴はいるが、こちとら腐っても王子だ。後のことを考えると簡単に言えることじゃねえ。


だがこれだけで親に見放されはしない。魔法を使って一定時間変えることは可能であるし、金はかかるが変えることもできる。


何より俺自身が大人と同等の脳を既に持っていたから。

初期値がそこなら伸び切った時にはきっと歴代で一番の王になる。


そう、最初は思っていたんだろうな。


俺は自分が子供らしくないというのは薄々感じとっていた。

偶に貴族の他の子を見かけることがあったが、明らかに俺より年上なのに精神は俺より下に見えたから。


最初は周囲の者も大人びている俺を褒めてはいたけれど、段々とその眼に恐怖を宿すようになった。


それもそうだよな。まだ三歳なのにしっかりと言葉を話し、中等部までの教育を全て終わらすなんて、普通の子供じゃない。いや、子供でも人間でもない。


ただの化け物だ。


あの時、国王が俺を指さしながらそう言ったのは一生忘れない。

血がつながっており父親と慕っていた人物が恐怖に満ちた目で見る。背後には同様に畏怖している母親と思っていた人物がいる。


四つの眼に映っていた俺は目を見開き、手には大学院を出たものでも難読が難しいような古代書を持っていた。


痛々しいまでに鮮明に蘇り、何度も夢に見たこの光景。


この日以来俺は自分を殺すことにした。

普通の人を演じ、普通の本を読む。普通の王子っぽく振舞い、子供っぽいドジをする。


始めて見るものなら全員が全員化け物だと思わないぐらい完璧な演技は、確かに一時期は俺の見る目も変わっていた。

虚無感に灰色にあせた風景は一秒とさえ記憶に残ることもなかった。


だけど一度食らった烙印は消えず、国王は俺を幽閉した。


寝て覚めたら俺の扉と窓には外側からしかかけられない鍵をかけられ絶対に外に逃げられないようになった。齢三歳の子供をまるで凶暴な化け物を扱うように。


そこからはほとんど覚えていない。

どうやって生きていたのかも、どんな気持ちだったのかも。きっと、記憶から削除されるぐらいには俺にとって地獄だったんだろうな。


この間に王家の象徴をしっかり受け継いだ弟のグローリエが生まれ全員の興味がそちらに向いた。

何も知らされず、兄は忙しいからと最近まで会うことも許されなかった無垢な弟は俺が解放されるまで実質的にリゾークフィル王国の第一王子だった。


「…そうして四年後の他国への建国祭への参加。マリーと初めて出会った日で、俺が今の俺になった日だ」

「……」


絶句の表情でマリーはこちらを見る。

直後顔を歪ませると、吐き捨てるかのように言った。


「――ルイは、何も、悪くない」


――


その言葉に思わず顔を上げる。


「何で、何でルイがそんな扱いを受けないといけないの!?何も悪いことなんてないじゃん、何も悪くないじゃん…なんでルイがこんなにつらい思いをしなければならないの――!?」


決して大きくはないのに乗せられる思いは声のボリュームの何倍も大きい。

心の叫びに呼応するようにじわじわと大きな瞳に涙が溜まっていくと思うと、床にシミが瞬く間に出来上がった。


「なによ、それ。ただの嫉妬じゃん。化け物じゃないじゃん。見た目なんて、気にすることでもないじゃん。生まれたそばから生きる価値を否定するなんて…なんでルイにこの世界は厳しいの」


また落ちる。

だけど、次はドレスにシミを作った。


俺の目を真っ直ぐに射抜く視線が最後の糾弾をする。


「――ルイに生きる価値は数字を当てられないぐらいにあるのに、なんでみんなはルイの凄さを分かれないの――?」


それは、一度も言われたことのない言葉だった。


生きる価値がない。


自分にそう評価を付けたのはいつだったか分からないぐらい昔だったから、もしかしたら言われていたとしても聞こえていなかったのかもしれない。


マリーの言葉だから俺に届いた。

マリーの言葉だったから俺は素直に受け取れる。


気が付いたら、椅子から立ちマリーを抱きしめてた。

いつもの好意からくるものじゃなくて、ただ、ただ――


「――ありがとう」


感謝を言いたかった。


俺に最高の評価をしてくれてありがとうと、言わずにはいれなかった。


マリーは突然だったからか涙も動きも止まっていたが、恐る恐る初めて手を回し、


「…こちらこそ、話してくれてありがとう。ごめんね」


いつの間にか沈んでいた陽が代わりに月光で俺たちを照らした。


***


ドーン、という音で私は我に返った。


…花火!?


バッと顔を窓の方に向けると、そこには空高く舞い上がる魔法の花火。

そう、私が見たかった花火!


慌ててルイを押し返して、窓の方に走り寄る。


「ルイ、花火が始まったよ!」

「ん、みたいだな」

「みたいだな、じゃないよ!?ほら、はやく!」


がしゃんと鍵を開けて、バルコニーに出る。

外気は思った以上に冷たくて一瞬驚くが、震える間もなく次の花火が打ちあがる。

遅れてルイも隣に立つと、感嘆の息を漏らした。


「…綺麗だ」


同意だと頷く。


魔法と聞いていただけあって、現実の世界では出せないような色や形が盛り込まれていて、飽きることも絶対にない。


しかし、ルイの言葉には続きがあった。


「マリーも花火も」

「余計な一言を付け加えるということはいつもの調子に戻ったってことだね」

「事実だから」

「さようですか」


何となく刺さる視線を気にしつつ花火を見続ける。


数分そうしていたけれど、唐突にルイが独り言をつぶやいた。


「…猫を被らないで一日過ごしたのなんて、いつぶりだろうな」


ポツリと、だけど声色に心底楽しかったという気持ちを載せた言葉に、少しだけ安心した。

祭りとは思えないぐらい色々あり、見に行きたいと思っていた半分は行けなかった。

あれもこれも私に原因があったのでちょっと心配だったのだが、ルイがそう言ってくれているのなら、良かったと私も言える。


「俺はマリーに会うまで生きる価値すらないと思っていた」

「うん」

「だけど、あったんだな、俺にも」

「当たり前だよ」


お互い顔を見ることもなく会話をする。


「な、すごく綺麗だな」

「…うん凄く、綺麗で美しい。まるで宝石箱みたいに、沢山の物が人が輝いてる」


月明かりに照らされる夜の風景に目を奪われて確信に近い思いを抱く。


――きっと、私はこの光景を忘れない。何年先も何十年先も。死んだ後も私は今日一日を覚えて夢に見る。

ここで幼少期編は終わりになります。


…どうだったでしょうか?拙い文章、不定期更新、誤字etc.


問題点は上げたらきりがないのですがここまで読んでくださった方々、本当にありがとうございます。


この後は閑話でちょっとずつ捕捉しつつ、次に入れたらなと思っています。

引き続き読んでくださりますと嬉しい限りです。

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