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ただのルイ

とんでもない爆弾に硬直していたらルイが苦笑いで説明してくれた。


「ほら、私はマリーに遠隔視魔法をつけているだろう?それって音声機能もついているから、声も聞こえているんだ。竜王様に飛ばされたのち、すぐに見聞したんだけど…まぁ、色々話していたから…」

「おうふ」


奇妙な呻き声を上げてこめかみを押さえる。


まさか遠隔視魔法に盗聴能力もあったとは…。もう魔法名ストーカー魔法でいいんじゃないのかな。改名を今すぐしよう。プライバシー大事。


ということは、あの時話していたこと全て筒抜けという訳で…


「…じゃあ、リュウ様が住んでいるということも予想とかじゃなくて、詳細とかもばっちり…」

「まぁ聞いてたよ」


普通に聞かれていたんですね。

…これは、迂闊に独り言も零せない。知りたくなかったけど、知らなくてはならない事実を知りました。


「それにしても光の女王。それが今回どうしたのですか?」

『む…。いや、この世界の者には言えん。いくらマリーの婚約者でも転生に関する事――世界の軸に関係することは漏らすことは出来ん』


冷たくティーナはそう言い放った。


…突然、空気が変わった気がした。ティーナの強い拒絶もそうだし、それに対するルイの剣呑な目も空気を凍らす。


…え、何?何が起こったの?


いや、確かにティーナの拒絶はびっくりだ。いつもは軽い霊気(オーラ)も強くなり、正直そんなに?ってほど過剰な牽制だ。

ただ、過剰なだけで言っていることは分からんくもない。


まず、転生というだけで簡単に他にはばらせない。むしろ今まで、ルイは例外にしてべらべらと言い過ぎた。今後は一切口にしないようにしよう。


そんな口を固くしないといけない話を神でもない人に、それも現地の人が知ってはいい話ではないだろう。


だからティーナがルイを突き放したのは分かる。

だけどもう一つ分からないことがあって、ルイのイラつきようだ。


正直ルイなら展開を読めただろうに、何故か切れかけている。


「…私は知ってはならないのか?転生については一通り知っているが」

『だからこそ言えんのだろう。それぐらい分からない頭でなかろうよ、稀代の卵。転生云々は人間が知るものではない。知られて何か手を出されると非常に面倒だ。いくらおぬしでもこれについては言えぬ』

「天使の指跡の話を知っていてもですか?」


これを知っているならいいだろ、と言外に意味を持たせて尋ねるルイ。

それは普段欠片もない傲慢さを感じさせた。

稀代の卵と高く評価をしていたティーナはその態度が理解できなかったのか、眉を上げた。


…いや天使の指跡って何。私だけこの会話の内容理解できていないのですが。当人放っておかないで!


『なら妾が言う必要はなかろうよ。それを知っていて何故聞く。その頭で何故考えられん。…後は自分で考えろ』


さっきよりも強く引き離したと、流石の私でも分かる。

必死に隠そうとしている。私がこの世界に前世の記憶をもって転生したことを。


「…何故、何故マリーの事を知るのがダメなのですか?」

『話がループしているぞ。転生については、()()に人が知ることは許されない。諦めろ。稀代の卵と言えど、知ってよい事には限度がある。もう一度言う。諦めろ』


反論は許さない。


更に膨張した霊気(オーラ)にひやりとしていたら、目の前で


「…分かりました」

『なら良い。二度とそのようなことを聞くのは許さぬ』


ふっ、とティーナは再び姿を消した。

それは気まずくなたからか、単に用事があるからなのか。私には分からなかった。

重い空気のもとで、ルイの言葉がポツリと呟かれた。


「…知っていたことを黙っていてごめん」

「え!あ、いや、別に謝らなくいていいんだけど…逆に私の方が謝らなくちゃいけないというか…」


いい機会であるので、胸の内を話してしまった方がいいだろう。


「…ルイはさ、私がマリーベルではないと知ってどう思った?」

「どうって?」

「だって、私はマリーベルではないんだよ?中身は別人だって知ってがっかりしたでしょ?だって――ルイが好きなのは、前世を思い出す前の私だから」


好きという感情を弄ぶようなことをしてしまった。ルイの気持ちを侮辱するようなことをした。いくら謝っても足りないぐらい、失礼なことをした。


目的地に段々と近づくことを示す風景を目にして少し俯く。


…こんな気持ちでめでたい祭りだなんて何の地獄だろう。


出発した時とはまた少し異なる絶望感に心が沈んでいると、まるでそこから救い出すようにルイの笑い声が聞こえた。


「くっ…ははっ…」

「…え?」


なんでこの人笑い始めたの。え、怖い。さっきまでとは違う恐怖が生まれてきたのですが。

奇行に思わずドン引きしていると、ようやく笑い声が止まった。


目じりに浮かんだ涙をぬぐいながらルイは話し始める。


…だーれかシリアスを連れ去ったな?


「いや、マリーが時々暗くなるのはそう思いがあったからなのか…道理で、俺が何か言うたびに辛そうな表情をするわけだ…!」

「何が面白いのか分からないので笑うのやめてもらってもいいですかね?」


いや驚いた。確かにルイの言葉一つ一つに申し訳なく思っていたけれど、それは顔に出さないようにしていた。

気付かれていないと思っていたのに、まさか少し出ていたとは…。


「だから、婚約破棄して。マリーベルじゃないなんてルイは嫌でしょ?」

「嫌じゃない」

「でしょ?なら…え、嫌じゃない?何で?」


ルイは以前のマリーベルが好きなんじゃ…


そんな私の疑問をくみ取ったルイが優しい笑みで


「だって、俺としては今のマリーの方が好きだぜ?パーティであった時より理知的で、可愛くて可愛くて」


なんで最後二回言ったんだろう。


「…あの、そろそろ突っ込むけど、一人称と口調崩れてるよ」

「!?」


あ、珍しい。


口をバッと押さえたルイの目が明らかに泳ぐ。


「これはなんていうか…血迷ったっていうか…」

「なんていうかルイはそういうミスをしないと思ってたから意外だね」


心臓を押さえて蹲った。


「…いつから気付いてた?」

「え?うーん…ミライとルイが対面したとき?」


気付いたというのならその時が最初かな。確信したのはもうちょい後だけど。


そういうと更にルイの頭が下がった。あの、座っているのでそろそろ限界ですので気を付けて。


「あー…よりにもよってマリーの前で…くそっ、乱暴な口調がまだ抜けねぇ…」


ぶつぶつと呟いている…本当の口調がバレたのが余程ショックだったらしい。

私としてはそんな大きなことでもないと思うんだけど…聞いていいんだったら理由聞きたいなー。ダメかなー。ダメだよなー。


うん、聞くのは止めておこう。相手を困らせるだけの質問はなし。


「…そんなショックを受けることでもないと思うよ?ほら、私だって少し変えてるし」

「それは常識の範囲内だろ?俺のコレは、王太子として絶対に見せてはならないって言われてたのに…!」


成程。確かに()()()として考えると不味い。国そのものの品を疑われる。これが第二とかならまぁ少しぐらい崩しても大丈夫だっただろう。


ただ、次期国王は許されない。だからこうして自己嫌悪に陥っているのだろうと、勝手に推測する。


だからこそ私は言いたいことがあった。


「…さっきも言ったけど、ルイはショックを受けなくていいよ」

「良くない。俺はしっかりしていないといけないんだ。なのにとんでもない失態だ。それに、マリーに野蛮な面を見せたくなかったのに…」


動揺しすぎて普段じゃ絶対に言わない心の内を話してる!?


頭をすっかり抱え込んでアルマジロのまねっこをしている少年は、己の言動にまだ気が付いてないんだろう。

多分、というかほぼ確実に現在の思考をどんどん吐露していく。ええ、それはどんどん。


「せめてマリーの前ではかっこよくありたかったからだから気を付けてたのに感情が高ぶるとすぐに出やがってくっそこんなんじゃ幻滅されるここまで上手く行ってたと思っていたのになんとかして治してかねぇと今後にも影響が出るな感情のコントロールをもっと強くして…」


は や く ち


え、この人普段このスピードで考えてるの?最初の「せめて」しか聞き取ることが出来なかった。怖すぎる。

早口を言えるその滑舌の良さも驚愕だけど、思考の速さはそれ以上に凄い。もう凄いとしか言えない。


「ルイ?ルイ、聞こえてる?ルイさんやーい」


だめだ、反応がない。ここ、馬車の中だよね。雑音沢山あるよね。そんな集中できる環境じゃないよね?!


…最終手段だ。


ゆっくりと腰を上げて、音を立てないよう手をルイの顔に近づけて――


パンッ!!


「!?」


手を鳴らした。


その音に驚いたルイは夢から覚めたみたいに文字通り肩をはねさせ、顔を覗き込んでる私に上半身を仰け反らせた。

その顔が若干紅潮しているように見えたのは…気の所為かな。


というか私の重心がちょっと…いや、かなり危ない。少しでも揺れたら倒れそう。足に力を入れておかないと。


「ま、マリー?」

「あのさ、自分の世界に旅立つのはいいけどあまり内容がよくなさそうだから止めさせてもらうよ」


ひゅっと息を吐く。


「…ルイが自分を責めているのは、王太子として自分の振る舞いが許せないからなんだよね?」

「え?…まぁ」

「私の前ぐらい許してもいいんじゃないかな?」

「?」


心底理解できないと言うように眉をひそめられてしまった。この天才に理解をさせない私の語彙力凄いねー。


ま、今からいうのは茶化せるような内容ではないんですけど。

正直に言って、一生の黒歴史に刻まれそう。ただ、これでルイを説得できて少しでも心の負担を軽くさせてあげられるのなら――それぐらい構わない。


「ルイが責めているのは王太子としてのイグルイ・リゾークフィルに対して。なら逆に言ったら私の目の前にいるただのルイとしてなら、別に叱責するようなことじゃないんじゃない?あー…だからつまり…」


参った。本当に語彙力が足らなさすぎる。これ、ルイに伝わってる自信がない…


それでも、絶対に譲れないのでどうにかして最後まで言おうと、今自分がもてる表現を絞り出す。


「…私の前でも、王太子としている必要はないよ。私が元庶民で元の口調が抜けないのと同じようにルイも元の言葉遣いが抜けられないでいて四六時中神経を張り巡らせているなら、私の前では()()()()()であったらいいんじゃないかな。王太子でない、ただのルイは乱暴な言葉遣いをしていいんだよ」


出来る限りの言葉で思いをぶつけると、ルイはその綺麗な紅眼を溢れんばかりに見開かせた。

誤字脱字報告ありがとうございます!

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