絶叫
明後日になりました。つまり感謝祭当日です。とっても気が重い感謝祭です。
朝起きて早々にとんでもない絶望感に駆られていると、視線が大きなプレゼント箱に吸い込まれる。
「…寝る前にはなかったよなぁ」
寝起き特有のかすれた声と分かっていながら言う。
段々とツッコミキャラになってきてるのかな。突っ込まずにはいられない。
就寝の時にはなかったから、寝ている間に誰か置いたんだろうな。サンタか、とまた突っ込ませてもらおう。
不法侵入だよね。あ、でも届けるためだから――そう考えたら不法侵入とは言えないか。
不法侵入とは正当の理由がなく他人の住居、建物等に入ること。
だから、正当な理由さえ犯罪にはならないという訳で…
…プレゼント、開けるかぁ
考えるのが面倒くさくなり、思考放棄する。
考えるだけ無駄だった。一体何の時間だったんだろうと自分に言いたい。
何で一人ツッコミが癖になってるのかも聞きたい。
プレゼント箱のリボンをほどきながらそう思っていると、中身が少し見えてきた。
「…紺碧色の、布?って…」
寝ぼけていた脳が少しずつ冴えてくる。
「あ、この中身ドレス?確かに送るって言ってたもんね」
紺碧色。私の眼の色と同じだ。
偶然、かな?
それはどうでもいいか。
「綺麗だな…」
一部しか見えてないのに、ドレスの美しさに感嘆の声を漏らしてしまう。
紺碧単一色ではなく、少しグラデーションが少しかかっている。
それに散りばめられた小さな宝石たちがキラキラと輝き、生地と合わせるとまるで満点の星空のよう。
「…これ、私が着られるんじゃない?あ、私お飾りになるわ」
確実にドレスに魅力負ける。
本気を出すルイ。恐ろしや。どれだけの財がかかっているのかと思うと、次第に手が震えてくる。
まだ全身を見ているわけでもないのに、一体全体を目にしたら私はどうなってしまうのだろうか…。
「でも着ていかないとルイ悲しむよね。…自分、覚悟ぉ!」
思い切って一気に開ける。
すると、更に宝石や見るからに上質な生地が視界に入った。
「…おうふ」
不思議な呻き声を上げて、取り出す。
壊さないように…間違っても落とさず手に力を入れ、それで強く握りすぎず…
まるですぐに壊れてしまうガラス品を扱うようにベットに運ぶ。
広げてみると更に素敵な姿が現れ、またしばらくの間見惚れていた。
***
それから少しして、下へ行くとお父様が丁度行くところだった。
大きめな鞄を片手に、なんだか忙しそうだ。
どうしようかな?せめて挨拶ぐらい…。
でも邪険にあしらわれるぐらいなら、話しかけない方がいいよね…。
声をかけようか迷っているうちに、相手がこっちに気付いた。
「お、マリー。おはよう。本当はもっと話したいけど急いでいるから…すまんな」
「いいえ。では行ってらっしゃいませ」
「ああ行ってくる」
相当急いでいるらしい。
さっさと扉を開けて出ていくと、鍵をかけることもなく馬車に乗って行ってしまった。
…かけておくか。
魔法の力を借りつつ閉める。
お父様がもう向かったということは、寝坊説が浮上してくる。
行く準備、終わらせないとと気合を入れつつ、食堂室に向かう。
まぁ案の定誰もいなかったんですけど。
一瞬既視感を感じたが、すぐに部屋の隅にクローシュが乗っかっているワゴンを見つけた。
多分私の物だろう。ていうか私の物じゃなかったら誰の物になんだろう。
マリーベルお嬢様へと書いてある手紙が置いてあるので間違いないだろう。
つまり、今回は用意してくれたのだ。ナイスです!
と、誰もいない中一人でグッジョブしながら、手紙に目を滑らす。
「なになに…?って読めん。これ誰が書いたんだろう…」
達筆な字を読むのに四苦八苦してしまう。
いや書いてくれた人には非常に申し訳ないんだけど、本当に読めない。
解読は諦めようと思いいつつ、裏返しにして置く。
「……」
いやあった。読める字が裏にあった。なんで表に書かなかった。
多分こうなることを見越して、誰かが書いておいてくれたのだろう。だけどなんで裏。
さりげない気配りに感謝はしているのだけれど、場所が場所なので若干複雑な気分になりながら読む。
『料理長が全身全霊で作りました。どうぞお召し上がりください』
横ににこちゃんマーク☆
「…いや、茶目っ気たっぷりかよ」
無意識レベルでのツッコミが出た。
まさかの不真面目文章で来た。
本当にそんな文章で書かれていたのかな?もしかして、ただ自分の意見を書いただけでは…
でもまぁ訳だったとしても、表の文章を砕けた感じにしたんだろうな。
にこちゃんマークも、多分そのノリだろう。
いや、ひょっとしたらこのにこちゃんマークはもしかしたら違う、何かのマークかもしれない。例えばこのメッセージを書いてくれた本人のサインとか。
そう気を持ち直しながら他の見方を探したが、残念ながらなかった。
紛れもなく、にこちゃんマークだった。
「…まぁそんなにショックを受けることでもないんだけど。さて、入っている料理は何かな?」
クローシュって自分じゃ開けないのがマナーらしいけど…一人しかいないから仕方ないってことで。今回は気にしない。
そう思いつつ開けて、目を丸くする。
「…なん、だと!?」
何故懐かしのおにぎりがここに!?
落ち着け私。日本が制作会社だから、存在するの事態はおかしくはない。ただ違和感が半端ないだけだ。
そう、違和感が半端ないだけだ。
想像してみそう。クローシュをわくわくしながら開けてみたらなんとびっくり、おにぎりが二個入ってました☆
…いやシュール。
ありえなくはないんだけど、ちょっと非現実的だよね。クローシュの中からというのは。
普通さ、凝った料理とかなのになんで簡単なむすびなんだろう。少し期待していたから余計にショックが…
でも慣れっこだ。私の身体はこの世界に慣れているのだ!だから既に驚きは薄れている!
…自分でも笑えるよ。乾いた方の笑い。ハハハハハ…
「はぁ…」
この世界、ズレてるなぁ。または私の周りの人だけズレているのか…
後者の方が気分的に楽かもしれない。
もしも全人類が予想の斜め上をずっといっていたら、そのうち死んでしまうそう…
ま、おにぎりは好きですけど。
「いただきまーす」
お、中身は鮭か。いいよね、鮭。美味しい。以上。
もくもくと食べ進めあっという間に食べ終わり、二つ目に手を伸ばす。
「さて、今度の具材は何かな――」
「マリー様!こんなとこにいらっしゃたのですか!?」
うん?
扉の方に顔を向けると、リアナが鬼気迫る表情で立っていた。
肩で息をしているのを見るに、全力疾走してきたに違いない
さて、私を探していたみたいだけれど…あ、嫌な予感がした。
返事もせずに、即断でおにぎりを掴もうと停止していた右腕を稼働させる。
しかし、それは叶わなかった。
あと数ミリといったところで、指は空を切る。
あ、と思った瞬間身体がリアナの腕に捕まった。
「マリー様!もう支度を終わらせていなければいけない時間ですのに、何を呑気に散歩しているのですか!」
私を抱えたのを確認したのか、再び全力疾走をするリアナ。
しかし、聞き捨てならないな。流石に抗議させてもらいたい。
「違う!朝ごはんを食べようとしていただけで、だからおにぎりを――」
「問答無用です!食事なら向こうで軽く食べてください!」
私に人権はないんですか!?
遠ざかっていくおにぎりを見ながら心の中で盛大に絶叫する。
私のおにぎりぃぃぃぃ!!