辛っ
少し短めです
自然に兄貴と目線が合う。
今回は逸らさず、今の怒りをぶつける。
(ちょ、どういうこと!?今の時間は仕事なんじゃ…!)
(仕事だよ!だからここでお偉いさん方が集まるんだよ!俺はそのセッティングの手伝いできてたんだ)
(先に言ってよ!?)
多分人生で一番の目力を込めて睨んでから天を仰ぐ。
…終わった。
多分全員が確信したと思う。
兄貴が分かってお父様が分からないわけがない。それを分かっているのだ。
…兄貴が事前に言ってくれてたらなぁぁ!!
「…ルーク。これはどういうことだ?」
お父様は兄貴に状況説明を求めるも、何も言葉が返ってこず、私に視線を移す。
しかし、兄貴が何も言えなかったのに私が言えるわけがないので、結局無言になる。
沈黙の私たちを不審に思ったのか、怪訝な目でリアナに問う。
「リアナ、一体何があったんだ?」
「我が主、申し訳ながら今回ばかりはちょっと…」
言い淀むリアナに、今度こそ何かあったと確信したらしい。
バッと飛んでくる視線。合う前に逸らす。
「…マリー」
「何でしょう」
「今度は何をやらかしたんだ…?」
あ、ガチおこですわお父様。
一瞬で私だと決めつけるのは納得がいかないが、明らかに言っていい雰囲気じゃない。
背後にメラメラと滾る炎を幻視してしまうほど、お父様は激怒していた。
…仏の顔も三度までならぬ、お父様の顔も三度まででしたか。
冗談が言えるほど余裕じゃないけど、少しぐらい現実逃避させてもらえないとやっていけないんだよ。
でも、これだけは否定させてほしい。私たちが黙っているのは違う事です!
ただ言ったら言ったら面倒なので、このままの流れに持っていこうと思うけれど。
怖いのは、その判断が誤っていたら。
まぁ兄貴が黙っているので、間違ってはいないハズだ。
だが、そんな私たちの考えを裏切るかのようにフォローが来た。
「まぁ待て、マリの父。既に私が叱った後だ。あと、この二人が口を噤んでいるのはマリが何かしたから、という訳ではない。…まぁ何かやらかしたという点ではあるんだが」
「……」
会話に入り込んだリュウ様にぽかんとするお父様。一瞬で先ほどまでの覇気が消え去っていた。
…まぁ原因は予想が付く。
そして、見事に的中した。やったね!嬉しくないけど!
「……もしかして。この子たちが隠したかったのは…竜王様ですか…!?」
凄いね、この家族!
疲れているのだろう。最早苦笑しか反応しないリュウ様は少しやつれているように見えた。
…うちの者が無駄に天才で知識豊富ですみません。
私の所為じゃないけど一つの謝罪を入れないと気が済まないぐらい、申し訳なかった。
何のために数少ない書にしか情報が記載されていないと思って…
…載っている時点で駄目なのか。お父様と兄貴がいるから、全てから抜き取らなければいけないのか。
そして、事態は更に悪化していく。
「なぜ、何故竜王様がここに…!?」
当然の疑問を投げかけるお父様に、リュウ様は笑顔で対処した。
「気にするな」
それ結構厳しいのですが!?
誰もツッコまない…いや、ツッコめないので心の中でツッコむ。
苦笑い…引き攣ってるかな?微妙な笑顔で応じていたが、多分お父様は考えるのを放棄した。
「…そうですか」
悟りを開いてるなぁ。
でも切り替えって大事ですねー。だってそうしていかないとこちらの精神がもちませんもんね。
…およん?なんだか二人の視線がこちらに向いているような…
「…竜王様。失礼ながら、今回やらかしたということが気になるのですが、尋ねてもよろしいですか?」
「ふむ。簡潔に言うと…マリは今回見込みが甘かったせいで命を落としかけた」
「よし、マリー。明日から外出禁止だ」
即決か!そしてリュウ様!間違ってはないけど、間違ってはないけども!
だけど、何も言わなかったら怒られるだけで済んだのに!
…少しぐらい痛い目を見て反省しろと?既にしてますが!?
偶然なのかと一瞬思ったけども、リュウ様の表情が明らかに黒かったのですぐにその可能性を捨てる。
…つまるところ、私の行動を制限したかったんですね!
確信犯過ぎて思わず目を遠くにやってしまう。
…窓から見える景色綺麗だなぁ
いや待て。この屋敷の人たちって割とガバガバだから、普通に抜け出せて双子の様子を見に行けるかも――
「公爵、暫く…そうだな、一か月ほどこの屋敷に留まってもいいか?」
「!?」
なんでそんな判断を!?
…あ、また笑顔が怖い。あれかな、抜け出すという考えを見抜いたのかな。またはそんなに信用できないのかな…。
どちらにせよ、完全に私を封じたいことは分かった。
屋敷に戻ってきてから徹底的だとは思っていたけれど、ここまでとは…!
監視のためだとお父様も分かったんだろう。にこやかーな、そう、それは見た人が卒倒しそうなぐらい良い笑顔で頷いた。
「願ってもない事です。できる限りのもてなしはさせてもらいます」
「別に構わない。こちらの自己満足だ。それに、友人からも監視よろしくと頼まれていてな。そんな気にするな」
シルフの事かな。
…シルフ、この感じだと激怒してるだろうな。会うのが怖いかも…
内心ガクガクブルブルになっていたら、ここで兄貴が参戦した。
もう嫌な予感しかしない。
「竜王様、実はマリーの隣室が空いているのですが、見に行きますか?」
「ほぉ」
リュウ様の目、光る。兄貴の目、光る。
…兄貴、もしかして怒ってるんですか?お前には叱られたくないんだが。断固拒否するぞ。
「リュウ様、その必要はないですよ」
「では案内を頼もうか」
「偉大な竜王様を案内できるなんて光栄です」
「あれ?誰か私の言葉聞いてます?」
「我が主。そうしたら料理長にも人数が増えたことをお伝えせねば」
「そうだな。頼む」
「承知いたしました」
「あ、誰も聞いていないんですね。そうですか」
私に味方はいないのかな。
ていうかリアナ『ロード』呼び気に入った?先程から英語チックなのも気になるのですが。
にしても当人を放っておいて、どんどん会話が進んでいくね。
もしかして忘れられてるってことはないよね?それはないと思いたいな。
否定してくれる人も要素も何もないからこれ以上考えるのは止めよう。
にしてもちょっと寂し…ゲフン、暇だな。
あまりにも暇すぎるので、椅子に座ってブラブラと足を揺らす。
…暇だなぁ。私今日暇って何回言ったかなぁ。カウントしとけば少しぐらい時間潰せたかなぁ。
ぼんやりと天井を眺めていたら、いつの間に話し合いが終わったのかみんな扉に向って歩き出していた。
「父様、会議はどういたすのですか?」「後日改めてと手紙を送ろう」「分かりました」と言いながら出ていく。
リアナもついていき、目の前で無情に閉まる扉。誰も、一回も、振り向かなかった。
応接間に唯一人取り残される。
「……」
…
「みんな私に厳しすぎ☆……はぁぁぁぁ」
…辛っ