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天才様

みっちりリュウ様に独白をさせられ、下手に怒られるよりも辛く感じた私。

現在は三角座りで闇と同化を果たしています。


「…あの、マリー様?ケーキがありますよ。如何ですか…?」


なんかさ、今回の件に限ったことじゃなくて、自分で罪や愚かな行為を話していくと如何に無鉄砲で危険なのかが分かるんだよね。

それが穴に入りたいぐらいにいたたまれないのなんの。もうヤダ。死にたい。嘘。死んじゃ駄目だけど、そう思わずにはいられないんだよ!


「ケーキがあるのか?貰おう」

「!?竜王様のような高貴な御方に到底差し出せるものでは…!」

「マリが食べているものに興味があるだけだ。気にするな」


あー…なんで私もっと周りに気を付けなかったかな。リュウ様がこの世界にいるって知ってたのに、なんで慎重に行動しなかったかな。


シルフだけだったら多少大胆にやっても少しの咎めだけで済むというのは考えていたけど、リュウ様には会っていなかったから完全に失念していた。


もし少しでも頭にあって、それに合った動きが出来ていたらこんな目に合わなくて済んだはずなのに――


「マリ」


すいませんでした!


「いやそういう訳じゃなくて、転生してからもう本当にこんなことばっかで、いやなんていうか自分に呆れてるだけで、本当に」

「長い言い訳のようなものは、理由もなく相手に不信感を持たせると教えたはずだが?」


なんか色々すいませんでした!


咳ばらいをし、心を落ち着かせてから振り返る。

視界は茶一色から色鮮やかになり、困ったような表情のリアナと呆れかえっているリュウ様が映り込んだ。


どうやら私の心を読んで名前を呼んだわけではないらしい。早とちりだったみたいだ。


少しほっとして、もう一度今の状況を確認する。


独白という名の地獄を味わい、心を折られた私はその会場となった応接間から動かずにいた。


気持ちが地に落ちたので一人にしてほしかったのだけど…リュウ様はそれさえ許さなかった。

紅茶が飲みたいと言い訳して、見張るようにいる。怖い、怖いです。


それも含めて闇と化した私を慰めるように先ほどからリアナが尽力しているのだが…


本気で怒っているリュウ様が気にせず普通におもてなしされている図になっている。非常に申し訳ない。


そんな私も心の中では色々言っているも、今回については本気で反省している。

死にそうになったのが私だけならまだしも、周りの人までも巻き込んでしまったのは最低だ。


それにこれでリアナとリュウ様に愛想を尽かされたら辛いどころじゃない。悲しみを通りこして命を絶つ。


心の底から反省をしていると、再度声をかけられる。非常に優しい声で。


「…マリ」

「あ、はい!なんでしょう?」


思いがけない声色にぎょっと見やる。

若干声が上ずった気がしたけど、気のせいだと思いたい。


「実は、転生についてなのだが…」


そこで、リュウ様は言葉を濁した。

どうしたのかと続きを待っていると、意を決した様子で口を開く。


「マリの転生。実は、この世界の神が――」

「誰かいるのか?」


…はい?


「「「「……」」」」


突然割り込んできた声。私たち全員の視線が、声が聞こえてきた扉の方に向く。

そこには、半身だけ入り込んだ兄貴がいた。驚愕に目を見開き、なんだか血色も悪い気がする。

…凄いね。自分自身でも驚くぐらいに心配の心が湧かないや。


静寂があたりを包み込む。実際には数秒だったのだろうが、何時間のように長く感じられた。


これを先に破ったのは兄貴だった。


「…なんで竜王様がいるんだ?」


逆になんで竜王って分かったの?


一発で正体を引き当てた兄貴に、リュウ様は笑顔を向けた。


「やぁこんにちは、初めまして。竜王ではないけれど、よろしく」


さらっと否定しながらにこやかに挨拶をするリュウ様。

冷静なその姿に、パニックになっていた心が少し落ち着く。

…下手に動揺すると、兄貴に確信を持たせてしまう。多分、私の反応は重要になるはずだ。

しかし、これに「はい、そうですか」と黙っている兄貴ではなかった。半目で見ている。


「…いえ、絶対に竜王様でしょう。髪の毛先青くなってますし。目の色は特有のグラデーション、そして細い目。特徴全てが当てはまりますよ」


兄貴、なんでそんな詳しいの。知識の幅広いな、流石かよ。褒めたくないけど。

でも…これかなり不味いのでは?


ちらりと見ると、珍しくリュウ様の口元が引き攣っていた。


「…普通の書には載っていないことを何でそんなにも知っているのか」


ぼそりと呟かれた声は、不幸にも届いてしまった。


「やっぱりそうだよなぁぁぁぁ!」


悲鳴にも近いその声を上げて、天を仰ぐ。


「…脳が驚きを受け入れてねえよ。処理が追い付いてないよ」


どうやら思っているよりも反応が薄いのはそれが原因らしい。

あれだね、あとで叫ぶやつだね。


虚ろな笑いで天井に顔を向けている兄貴を見て、つられるように私も見上げる。


リュウ様の正体は知られてしまった。当然、もう隠すことは不可能だ。

つまり、話さない理由がなくなり、状況説明を聞く権利が兄貴にできてしまった。


「…どうするかなぁ」


説明面倒だなぁ。関係も知られたくないし…


ていうか兄貴と話したくないなぁ。絶対こっちに話し振ってくるじゃん。


「…マリー、これはどういうことだ?」


やっぱり。


面倒だけど、視線を合わせる。

しかし、何も言わない。否、何も言葉が出てこない。


もしも口を開いてしまったら、言い訳する言葉も見つからないので、罵詈雑言しか出てこない気がする。

そしたら完全に話が沼ってしまうだろう。

いや、それもいいけれどリュウ様の前では…というか人前ではちょっと恥ずかしい。


目を泳がせて沈黙を貫いていると、ため息が聞こえた。

「はぁ…」


頭を抱えたリュウ様が、うんざりとした瞳で兄貴を見る。

どうやら、うまい言い訳も見つからなかったらしい。諦めがその眼からにじみ出ている。


「…おい、マリの兄」

「なんですか?」

「今この状況について、マリの兄が言っていることは否定しない。だが、他言無用だ。もし誰かに言ったら…」

「言いませんよ。ただ、妹との関係は話してもらってもいいですか?流石に置いておけないので」


眉を上げて言う兄貴に、暫くリュウ様は考える素振りをする。

と思ったら、こちらに目線が来た。何かを問いたそうにしているが、生憎私には貴方様方のようなテレパシーは持ち合わせていません。


ぶんぶんと首を振り『分からない』という意思を示す。


「…どうする。この者は知っているのか」


前世を、という意味なのだろうか。

それなら大丈夫だ。この部屋にいる人全員、私が転生者ということを知っている。


だが、これは前提でさらに踏み込んだ暗殺者については、ダメだ。

私の口から言うという事ではなく、知られたくない。誰にも、言えない。


「…リュウ様。この二人には()()なら話してますし、それだけなら大丈夫です」

「そうか。なら話が早いな」


どうやら、言いたくないことに気が付いてくれたらしい。流石、リュウ様です!

兄貴は私の言葉をじっと考えていた。

…え、まさかこれだけで大体把握できちゃうんですか?


「前提、とはどういうことですか?もしかして、妹と竜王様は前世で何かしたらの関係にあったんですか?例えば上下関係にあった、とか」


は、天才ですか。あ、天才でしたね。いやぁ凄いですね、あまり情報量なかったのに。

もしかしたら、死後のことまでも見透かしているのではないかと思ってしまいますよ。


引き攣った頬が、私の心情をよく表している。リュウ様も、よおく顔に出てた。珍しい。


「…鋭いな。そうだ。私たちはマリの前世では仕事で上司と後輩だった。それほど大きく言うようなことでもないだろう?」

「そうですね」


ちょっと空気が凍った。


…あの、兄貴?なんか軽くないですか?


そう感じたのは私だけじゃなかったらしい。

少し吊り上がった(気がする)目で、兄貴を睨むリュウ様。


「…おい、分かっていたのか」

「ほぼ確信に近い、推測でしたので。確認の要素が多かったです」

「それ聞く意味あったの?」


いよいよ堪え切れなくなって口を挟んでしまう。

気が付いて慌てて弁解しようと思ったが、あとの祭りだった。


「…やっと話してくれた」


ほっと息を吐く兄貴に、何とも言えない視線が私を射抜いた。


「…なぁ。何があったら言葉を交わすだけであんな安心した表情にさせるんだ?」

「…マリー様。何があったんですか…」


…やっぱ黙ってるのが良かったなぁ。

面倒なことになったと、明後日の方に目を向けていると意外にも兄貴から助け舟が来た。


「俺が少し怒らせてしまっていたみたいです。特に何かあったという訳ではないですよ」

「そ、そういうことです」


うん、嘘は言ってない。嘘は言っていないんだけど…

二人の目が完全に信じてないな!


「…嘘じゃないですよ?」

「「嘘でしょう」」

「嘘じゃないのですが!?」


見事にハモった失礼な言葉に、反射的に言葉を入れてしまう。


「なんでそんなに信じてくれないんですか…」

「日頃の行いだろうな」

「日頃の行いですね」

「いや、日頃の行いだろ」

「そんなに悪いですっけ私!?」


満場一致の評価に少なくないショックを受ける。


いや、確かに勝手に屋敷を出たり、忠告はスルーしたり、暗殺者を引き入れたりしたけど…

…今までを振り返ってみると、良い子とは言い難いかもしれないな…


一人で地味に納得していると、再び扉の開く音がした。

また誰か来たらしい。


「すまん、公務が終わらなくて少し遅れた…ん?」

「…あ、やべ」


兄貴の呟きに反応する間もなく、その人物は姿を現した。

また凍る空気。どうやらここは極寒の地みたいです。


…いや、そんな馬鹿な事を考えてる暇じゃないか。


リュウ様を見ると、頭を抱えている。兄貴も抱えていた。私も、こめかみを押さえて頭痛を堪える。

誰も、弁解など新たな登場人物を前にしようとは思わなかった。


…だって、これバレるの不可避じゃない?絶対兄貴みたいに一瞬で看破するでしょ。


応接間にやってきた人物――父様は、リュウ様を見て固まっていた。

後のマリーベルは語る。

「私は日頃の行いは良いと主張します」

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