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お父様

私は呆然とリオンを見守っていた。…人間とは一体。

取り敢えずその辺にあったベンチに座った。バイオリンケースを持ちながら。


「…これどうしよう。いや、あって困るものじゃ無いんだけど…。えぇ…」


持ってなかったけどさ。無かったけどさ!おかしーだろ。普通プレゼントで送るか?バイオリンを!

……この世界ではよくあることですね。婚約者の間柄なら尚更。さーせんした。


「というか精神がこっちの身体に引っ張られるなぁ。思考は変わらないんだけど。口調が少し子供っぽくなる…」


次から次へと…。休む暇をくれよ。というか何で私に婚約者がいるんだよ。もう訳わからん。


「…………とりあえず部屋に戻るか」


小さな身体では短い距離が長く感じる。六歳ってこんな感じだっただろうか。

…ダメだ。前世のことを思い出すと心が重くなる。思い出すな。考えるな。過ぎたことなら考えないように、脳を操作しろ。


息を吐き、誰もいないか確認をして、屋敷へ入る。どうして我が家なのに警戒せねばならんのだ。

音を立てないように細心の注意を払いながら、絨毯を歩いていく。

あと少し――といったところで、人の気配を感じ取った。


サッサッサ


「!?」


――誰かの足音!?

えっ…ここ隠れられる場所ないんだけど!?


アワアワしていると、数秒とせずに音の主は現れた。


………脚?


視界に見えたのはそれだけだ。


「ヒルディア様?」

「へ?」


顔を上げたら、間の抜けた声が出た。仕方ないよ。誰も私を責めないでくれ。

だって、だって…


陛下の側近がなんでここに居るの!?


その瞬間、追加の情報が頭へと入り込む。


「ヒルディア様?」


頭痛がする。目眩がする。気持ち悪い。

見事に熱の三拍子が揃う。だけど、違う。これは脳が処理しきれていないだけだ。

陛下の側近ーー『ダリオット』に微笑む。


「すみません、体調が優れないので…」


驚いた顔をされる。あれかな?やっぱ態度の差かな?

ダリオット様はチラリとバイオリンケースを見たが、すぐに興味を無くしたように視線を逸らす。

――良かった。何とも思われなかったみたい。


「そうなのですか?お大事にして下さい。本当は伝えることがあったのですが…」

「すみません。」

「いえ、構いません。既に話は公爵様に通していますので、そちらから後に聞いて下さい。では失礼致します。」


丁寧に頭を下げると、扉へと去っていった。

私は息を吐く。


「ふぅ…そうだよね、令嬢がバイオリン持っていたって不思議じゃないもんね。突然現れた人が、これが皇太子殿下から送られたものだってわかる訳がないよね。って早く部屋に隠さないと!」


面倒ごとはごめんだ。

小さく呟き、自室へと入る。


「クローゼットはメイドが見るだろうし…なら、典型的にベットの下?入るかなぁ…」


試しに入れてみる。高さはギリギリで、取り出すのが困難であった。

しかし、これなら誰にも見つかる心配がない。そもそも今後使うのなんて、レッスンが開始されるとき…ざっと三か月後かな。


「うん。当分はここに隠しておこう。」


一人で納得していると、ノックがかかる。

…誰?

疑問に思いながらも、「どうぞ」と通す。


「やぁ、可愛い私の娘!今日はとってもいいお話があるよ!」

「…お父様。」


まさかのお父様参上で御座いました。え?何で?

手を広げてやや芝居くさい台詞は相変わらずだ。これはゲームの中でも変わっていなかった。いつも芝居がかっていて、プレイヤーからは「胡散臭さの塊」というとても素晴らしい評価をいただいていたのだから。

いや、『マリーベル』が処刑されるときは凄い取り乱していたっけ。手駒をなくしてしまう――的な心の内が確か書下ろしストーリーで販売された中にあった。


「…何用でございましょう?」

「釣れないなぁ。ここ最近マリーは変だよ?」


マリーというのは私の愛称だ。そう呼んでいるのはお父様だけだが。

というか暑苦しいな。記憶が戻ってからだとテンションの高さについていけない。


「いえ、少し前の私がどうかしていたのです。で、何しに参りました?」

「やっぱりマリー、おかしいよ。…愛が足りなかったのか?もっと愛せばいいのか?」


いや、それはないです。


思わず心の中でも敬語になってしまった。だって、まだ愛されるとかよくわからない。私には勿体無い物だ。…人殺しの私が愛される資格などないのに。

というかご自分が溺愛するあまりにダメになっていく『マリーベル』を心配しようよ。


「あの、十分お父様が愛してくれているのはわかっています。そういう問題ではなく、私はちょっと痛い子でした。自分を中心に世界が回っているなどおかしい考えです」

「…私はマリーが世界を回していると思うが。」


それもないです。


頭が痛くなってきた。どうしてそう思うのか。たしかに私たちの国は大国だが、同等の国もある。只の令嬢が世界を回している訳がないだろう。

…あっ待って。乙女ゲームの最終イベントを思い出した。ラストイベントだ。確かその内容はーー


マリーベルがラスボスとして君臨してた。


のぉぉぉぉぉぉ!?


「マリーどうしたんだい!?頭でも痛いのか!?すぐに医者を…!」

「いえ、大丈夫です。信じたくない現実を目の当たりにしただけです。」


私は呆れた目でお父様を見る。何を思ったのか、アワアワし始めた。


「そ、そうだ!マリー、今期の新作ドレスが出たんだ。どうだい?買ってやるから機嫌を直してくれ」


その言葉にあぁ、となった。機嫌を損ねたと思ったのだろうが、ただの普通のコミュニケーションだ。断じてこれだけの事で拗ねてなどいない。


それにクローゼットに入りきっていないドレスたちを見ろ、並んでいる量は一つの店を出せるのではないかというぐらい多い。これ以上はいらないって。


「いえ、私はこの量で十分で御座います。」


私が冷静に返すと、信じられないと言う表情をされる。


「マリー、君はそんな子じゃなかったはずだ。もっと我儘を言ってくれ!」


乙女ゲームのスチルが脳裏をよぎる。マリーベルの我儘により他人が傷つけられていく映像に、私は気づいたら叫んでいた。


「そうしたら私はダメな子になってしまいます!!」


…やばい!


言い終わってから口元を押さえる。

思わず怒鳴ってしまった。いくら私を溺愛していても、お怒りになってしまうかもしれない。そうなったら――終わりだ。冷徹な一面を持つお父様が現れてしまう。

恐る恐るお父様を見ると、困惑した表情をしていた。

…良かった。怒っては無いみたいだ。


「…マリー、どういうことだい?どうして君がダメになってしまうんだい?」

「えっと、それは…」


なんて答えればいい?ここは乙女ゲームの世界で、私は甘やかされて育ったせいで、悪役令嬢となっちゃうからって言えばいいの?頭のおかしい子認定されるだけだ。


「マリー、何故だい?」


本当に、分かっていないんだろう。その顔は純粋そのものだ。

なぜそんな戯言を言っているのか気になるだけなんだ。


…なら、正直に言おう。


少し息を吸い、ゆっくりと言葉をつないでいく。


「…ダメな子というのは、傲慢な子です。小さい頃から全てを許容されてしまうと、自分の思い通りに全てがうまくいくと思ってしまいます。私も少し前までそうでした。だけど、それで誰かが傷ついたりするのは違うと思って…えっと、つまり…私は、そんな女性になりたくないのです。」


自分の語彙力のなさが恨めしい。うまく言葉が伝えられない。

どもりながらも伝え切った私を、お父様がじっと見つめる。


……無駄に美形だからすっごい照れる。いや、実の父に恋愛感情なんて抱くわけがないけどさ。…一つ突っ込んではいけないのは精神年齢的には同年代という点か。


お父様が口を開く。

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