何で誰もおらんの
「はああ!」
「くっそ、此奴幼女のくせして…!」
カキン!カキン!と刃物のぶつかる音が響く。
隣ではリアナも同じように、誰かと戦っている。
三本のナイフが飛んできたので後ろに飛び、壁に足をつける。そして反動で、もう一度飛び出す。
相手の首に短剣が届く前にはじかれ、腕が痺れる。
「…ふう」
現在、私たちは見知らぬ誰かと交戦中だ。
なぜそうなったのかは、正直分からない。ただいつものように道を歩いていたら、突然頭上から襲ってきたのだ。
そこからは当然ながら戦闘勃発。私は常備している短剣で。リアナは持ってきていた剣で。それぞれが一人ひとり相手をする。
中々にこいつ、強い。
「はあぁぁ!」
掛け声を出して、渾身の一撃を入れるが、押し返される。私の身体も同じように吹っ飛んだ。
先ほどからこの攻防がよく見られている。理由は単純。パワーが足りないのだ。
相手は大人。しかも男。ただの令嬢との力量差は明らかだ。
それでもここまで持っているのは、魔法を持っているかという違い。攻撃系の魔法を使いながらなんとか身体能力を互角まで詰めている。
攻撃系を知ったのは、兄貴が来たときに言っていたから信じてみたのだ。こういう事実に私情を挟むのは良くないからね。実際、あの時言ったもの全て実在する魔法だったらしく、折角綺麗になったまた庭がひどいことになってしまった。ごめんなさい。
しかし、それでも限度はあるというもの。まだ全然足りない。速さも、パワーも身のこなしも。
何故か教会とかでありそうな純白の装束を着ている男が、やけくそ気味に叫んだ。
「…体に似つかぬその戦闘スタイル。本当に噂通りかよ!」
その言葉に、眉を上げる。どうも私のことを知っているらしい。
「どういうこと?私のことを知っているの?」
「知っていると言えば知ってる。だが、知らないと言えば知らない。そんな感じだ」
回りくどい言い方を。
「そんな風に言うんだったら、分かりやすく言ってくれない?何で知っているの?質問を間違えないでね」
そう言っている間も攻撃は絶えない。私の四肢を狙ってくる。かなりの手練れだろう。
本来暗殺者は正面からの勝負は得意としない。だから暗殺なのだ。
だが私もそうだろうという訳ではなくて、今こうして真っ向勝負をしているように、私は正面からの方が得意だったりする。多分考えてやらなきゃいけない作戦系より、実力でぶつかり合う方が性に合っていたのだろう。…バカとは言わせない。
「…いや、言うのは止めておこう。俺の一存では決められないからな」
「うーん。どこかの組織からの攻撃?でも私よくわからないからなー」
やっぱその辺も勉強すべき?でも今でも手いっぱいなんだよ?どうしろというんだ。
この私の態度にイラついたのか、男から舌打ちが聞こえた。
「チッ、戦闘中によそ見とか、どこが可愛い少女だよ。どこも可愛くねーよ」
顔じゃないかな?
「【ライトアロー】」
攻撃の妨害で魔法を撃つ。一度も当たったことがないというのが悲しいところだ。現在ティーナは「ちょっとあっちの世界の後継者に仕事を伝えてくるのじゃ」とか言っていないので、自力である。
肝心な時にいないとか本当に勘弁してほしい。
そうして放たれる光の矢。もう一度言うが、一回も当たったことがない。なんで、当たるはずがない。
しかもこの男は細身だからか身軽で、回避も得意なようだ。厄介この上ない。
再び矢が飛んでいくのと同時に、男が見事な動きで避ける。
しかし、何回も見せられた行動は流石に私でも読むことが出来る。
「【ライトアロー】」
男が回避したその先に、矢が出現した。そして、ろくに動きの取れない空中で放たれた魔法を避けることは不可能でーー
「よっし!」
「っ!!」
矢が、男の足に刺さった。
男が痛みで動きが一瞬鈍くなる。しかし、嘘のように再び動き出した。しかし、そんな隙を見逃す私ではない。
そしてーー
「お休みね」
短剣が振るわれると同時に男の身体が倒れた。
どさりと落ちた
「…お、終わった…」
やっと片付いた戦闘に、ため息を吐く。一応この人は殺していない。みねうちみたいなものだ。流石に殺すのは不味いだろうという判断からだ。どこの奴か気になるし。
隣を見ると、剣についた血を払っているリアナがいた。
そっと目をそらした。なんか顔に浮かんでいた笑顔が怖かったとか、若干戦闘狂な感じがしたとかじゃない。断じてない。…はずだ。
だけどどうしよう、この人たち。ほっておいても出血はないから死なないだろうし。というか死なせないために手加減してたし。
なので取り締まっている人のところに引き渡したいのだが…ここにそういう人がいるのかどうか謎なんだよね。
「リアナーこの地帯に管理人的な人はいる?」
「いませんよ。それよりすごいですね。倍も身長が違う相手に手加減をしながら勝つだなんて」
「そこらへんは魔法でどうにか補っていたからね。ただパワーがやっぱ足りなかったかな。せめて成人女性ぐらいの力があったらもっと楽だったんだけど…」
「小さいのにそんな力があったら怖いですね」
軽口を叩いてきたリアナを睨み、その場に座る。
…うーん疲れたね。これが魔法を使えなかったら終わりだったよ。
少しの休憩を終え、私は倒れている一人の腕を掴んだ。そして、引きずった。
「…え、何をしているんですか」
背後から、引き気味な声が聞こえ、振りかえって答える。
「紫音に置いてこっかなって」
「それ絶対迷惑になりますよね!?」
「ワタシヨクワカラナイ」
適当に答えながら運び、扉へ突き進む。ちょっとべりべりという生々しい音があるが、私の魔法で回復できるので、気にしないことにした。
後ろから似たような音が鳴り始めたので、リアナも納得してくれたらしい。
「…血痕後で消さないと」
その小さな声は知らない。
階段を苦労しておりながら、扉を蹴るようにして開ける。いや、蹴った。ようにでも何でもない。
白の装束を纏う男を右手に、念のため短剣を左に持ちながら中に踏み入る。
「たのもーー!…え?」
中をのぞいて固まる。少し遅れてきたリアナも、同じようにぴたりと動かない。
「……」
何で?
何で誰もいないの?
普段はやかましいぐらいに騒ぐ少年も、ツンデレな少年も。ヤクザのような暗殺者も、誰一人としていない。
まさにシーンとしている空間に、固まってしまうのも無理ないだろう。
「…あれ、なんでこんな空き家みたいになっているんでしょう」
「もしかして違う場所に移ったのかな…」
そうだとしたらどうしよう。見当もつかないぞ。
ていうか、私はこの突き出したナイフどうすればいいの。誰か教えて。
「取りあえず、その短剣をしまいましょうか」
「はい」
ゴソゴソとポケットに入れていると、あきれたような雰囲気が伝わってきた。無視です。
「違う場所でも、マリー様に何も言わず出ていくということは無いような気がするのですが…」
「そうなんだよね。だから困っているんだよ。でも何も思いつかないんだよね…」
リアナの言う通り、ギーアたちが私を置いていくことはないだろう。良くも悪くも主人と認めてくれているみたいだから。
…まあ、一つだけギーアが私を捨てていく理由はあるんだけど。
「…ヒロインの可能性はなくはないってところなんだよね」
私の呟きに、耳ざとくリアナが反応する。
「ヒロインというとあの話ですか?」
どうやら『恋音』について覚えてくれていたようだ。
「うん。前にも話した通り、この世界はヒロインを中心に世界が回ってる。そして既に攻略者のギーアと会っているよ」
「…ギーアという少年は、その子のことが好きなのでしょうか?」
「そうなんじゃない?私の存在を除いてゲーム通りだから」
ちょっと言動がおかしいけど、ギーアはヒロインを好きだと思っていいだろう。
…私に言ってくれた忠誠の言葉はどういう意味なのかいくら考えてもわからなかったから、理解する事は諦めた。誰か私にもわかるように言ってくれないかな。
「…さて、あの人たちが帰ってくるか暫く待ってみるか」
生活感の残る部屋を見渡し、必ず戻てくると確信をしながら、近くの椅子に座った。




