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招待

お久しぶりです

「わたしは、お嬢様がすべてでっ!死にかけたところを助けていただいてっ!だからっ、少しでも大切なものがっ傷つけられるのが怖くてっ!」


しゃくりを上げながら必死に言葉を紡ごうとしているリアナは、私を大切に思っていてくれるらしい。こんなにも嘘と罪で塗れている私を。


…ううん、分かってる。リアナは私の全てを知らない。だからこんな風に言ってくれているんだって。


だけどそれでもいいと思えるぐらい私は浮き立っていた。


――あぁ、言葉で「大切」と言われることがこんなにも嬉しいなんて


どうにか平常心、表情を保とうとするが、高揚する気持ちは抑えられず、むしろ高まる一方。口元もニヤつかせないので手いっぱいだ。


「…リアナ、私も貴方を大切に思っている。他の誰よりも。今回何も相談せず一人で行動して、心配かけてごめんね。次からはリアナにも納得できるように説明するようにする。そしたら一緒に動こう?」

「はいっ!勿論でございます!この命に代えましてもっ、お守りいたします!」


それは少し重いかも。命はかけないでほしいかな…。


…でも私にはこれくらいが丁度いい。自覚した病みを持つ私と関係を築けるのは、同じく心にどこかしらの闇を抱えている者なのだろう。


だから苦笑いでも、笑える。


「あはは…でもありがとう。そしたら私の最大の相談者、理解者になってくれると嬉しい」


決して軽くはない願い。相手に自分を預ける、責任を持たせるも同然だ。

同時に心の底からの願い。強欲な私の一端を見せた瞬間。

だけどリアナは同じように不細工ではあるものの、笑ってくれ、頷いた。


――肯定


この侍女はなってくれるらしい。


嬉しすぎて、つられるようにへらりと私が笑うと、リアナから一度は止まったはずの涙があふれだし、再び私の部屋には泣き声が響いた。


***


そんな感じで再び話し合っていた私たちのもとに…というか私に、我が屋敷の執事が、一人やってきた。


慌てて涙を拭いて身だしなみも整えて出迎える。

なんだか急いだ様子だったので何かあったのかと身構えたところ、伝えられたのはなんと「お嬢様、王太子様がお見えになりました。現在は客室にてお待ちしています」とのこと。


執事の頬が引き攣っていたのはきっと見間違いじゃなない。

予想の斜め上な伝達に思わず目を剥きかけた。リアナが「お嬢様、その顔は駄目です!」と必死な訴えによって阻止されたが。


そんな私の私情は放り再び身支度をした。しかし、速さは段違いに。だって王太子を待たせるなんて、下手したら首が飛ぶ。


大号泣したすぐなのでリアナは置いておこうとしたのだが、何故か意固地に「付いていく」というので、仕方なく許可した。本人が大丈夫なら私が止める必要もないし、もしかしたら「守る」と宣言したからその有言実行かもしれないしね。


それにしては屋敷への招待とは急だ。一体何なのだろう。


「…事前に連絡もなしに、どうしたのでしょうね?」


そんな私の心情を読んだかのようにリアナが呟いた。首を傾げる。


「さあ?私に言われても」

「もしかしたらデートのお誘いでしょうか?」


ないと思う。


「いや、流石にそれは…だってまだ六歳だよ?」

「お互い精神年齢が高いので何とも…」


そうだね…


そう相槌を打ちながら、ちらりとリアナを見やる。

僅かに赤い目元。反して瞳の中には先ほどまでの精神の不安定さは見えず、むしろ強い光を放っている。何かが彼女の中で決まったような感じがする。私の個人的な意見なので何とも言えないが。


そして、心なしか私たちの心の距離も近づいた気がする。壁を一つ砕いたような、そんな感じ。遠慮がいらない関係と言えばわかりやすいのかもしれない。


そうだ。なら最終目的も話そうかな。


「…リアナ、私ルイとの婚約破棄したい」

「え」

「え?」


どうした?


リアナの表情が何とも言えない形になっている。それはもう思いっきり顰められている。


「…お嬢様、私このまま結婚してもいいかと思われます」

「あれ、貴女破棄するのに賛成じゃなかったの?」


結構最初の方に言ってたよね?だから私も相談したんだけど。


そんな私の疑問に、リアナは自信満々に頷いた。なぜに。


「はい、そのつもりでしたが変わりました。…王太子様と結婚なさったら、まりーさ…ゲフン。お嬢様は王太子妃なられます。そしたらきっと幸せになられるかと。それにあの方は絶対にお嬢様を泣かせたりなんてしません!」

「マリーでいいよ。…えっ、そうかな?絶対はないと思うんだけど」

「本当ですか!名前よびなど、光栄です!…そうですね。ですが、私の前で誓ってくれたからには、幸せにさせます」


とことん病んでるな。まぁいいけど。っていうかどこで誓った。私は父様が誓ったのしか知らないぞ。


「…随分ルイを買っているんだね」

「そう、ですね。マリー様を想っている気持ちの強さが何となくわかるからでしょうか」


私を思う気持ちって何だろう。恥ずか死させたいのかな?


まぁそんな風に雑談をしながら辿り着くと、リオン、そして物理的に光をまき散らすルイが居座っていた。


やっぱ物理的なんだね、王太子!


「…ごめんなさい、待たせました」

「やぁ。意外と早かったね。急がせてしまったかな?」

「少しだけ。ルイを待たせるなんて出来ないから」


死にたくないので。


全力でスルースキルを駆使し、気になることは頭から追い出す。言いたいこともぐっと堪える。死にたくないし。無駄死には良くない。


最近気づいたのだが、どうも私は生への執着があるらしい。

人間としての普通の感覚なのかは知らないが、せめて一生を終えることぐらいしたい。これも第二の人生での目標だぁ!


そんな私の心情を知らずして、ルイは嬉しそうにほほ笑んだ。…くっ!その顔が光ってて辛いぜ!物理的に!


「…それはそうとして、何用で来たの?」

「勿論可愛い婚約者に会いに来たに決まっているだろう」


言動がさらに強化されてますよ?


「それはどうも。んで、本当は何で来た?」

「…マリーは直球だね。そう、今言ったのも一つの目的だけど、今日はデートのお誘いに来たんだ」


目的の一つだったのか。

っていうか、誘い?なんの?デートの?


――うそーん


「…えっと?それはどういう?」


頼むから嘘だと言ってくれ。君となれ合う気はないんだ。だからリアナ、こっそりガッツポーズをしないで。喜べないから。ぜんっぜん嬉しくないから。

リオンは…なんか別の方角を向いてた。おい、どうしたんだ。

再びルイを見て、ため息をつきたいのを堪える。


「半月後、王都内で冬の感謝祭があるのは知っているよね?実は今回母上からその優待チケットを二枚貰ったから一緒に行かないかと思って」

「…なるほど」


確かにそんなのが控えていた気がする。確かヒルディア家も行くはずだ。

ちらりとリアナに視線を向け、確認をする。


「はい。私たちの家も当然参加予定です」


ですよね


「そしたら私はルイと一緒っていうのは不味いんじゃないの?私だけだとお父様が心配するし、」

「あぁそれなら安心して。従者とかは人数にカウントされないから、自由に連れてきて平気だ。護衛がいるなら公爵様も納得するだろう?」


私の抵抗は笑顔ではねのけられた。そんなシステムがあるだ。知らなかったよ、こんちくしょう!


うん?てことは私手づまりですか?

だって詳しく知らないのに他の手段取れない。家族で行くって言っても、リアナが反対しそう。

現在歓喜でシャドーボクシングしている人に頼めるわけがない。ねぇ、さっきの会話はどこ行ったの。


…仕方ない。今回だけだ。そう、今回だけ。次は調べつくしてなんとしてでも止めて見せよう。


諦めで遠のいた意識を呼び起こす。


「…そう、だね。うん、いいよ。行こうか」

「マリーならそう言ってくれると思ってた。そうだった、ドレスなら既に手配してあるから届くのを楽しみに待ってて」

「ソレハタノシミデス」


若干棒読みだった気がするが、ルイが気が付いていないのでセーフだ。

既にってことは前から頼んでいたってことだとね。私に拒否権は最初からなかったんじゃん。ならなぜに聞いてきた。


そんな風に考えていると、リアナがルイに近づいて行った。


「王太子様。少し耳を貸してもらえませんか?」

「うん?いいが」


不思議そうにしながらも聞く姿勢をとるルイを確認し、リオンの側による。しばらくは会話を聞かれないだろう。


「…リオン、感謝祭って貴方も参加する?」

「いいえ。俺はついていきません。別の人が付き添います」

「そう」

「何?寂しいんですか?」

「違うよ。ツッコミ役がいなくなるかと思うと少し辛いなぁって」

「うわぁ、全然うれしくない」


固まった笑顔でリオンがぼやく。今日もお疲れのようで。

ま、そんなこと気にしないのですがね


「リオン、もう一つ聞きたいことがあるんだけど」

「少しくらい慰めてほしかった。…で、どうしたのですか?」

「青龍って知ってる?または竜王。」

「ぐふぉ!?」

「えっ?どうしたの!?」


いきなりリオンが鳩尾に拳を入れられたように沈み込んだので、少し慌てる。


「大丈夫!?」

「ちょっと揺すらないでください。それが一番死にそうです」


割とまじな声が返ってきたのですぐに肩から手を放す。

深呼吸をしたかと思うと、ぐいっと詰め寄ってきた。


「な、なに!?」

「おい!さっきから我慢してたけど、今の発言はやばいって!今のを竜王様に聞かれてたらどうするつもり!」


話が読めないのは私だけじゃないはずだ


「え、どうしたの?っていうかどうするつもりって、なに!?」

「これも知らないの…世間知らずにもほどがあるでしょ…」


はぁとため息をするリオンに青筋が浮かびかける。

こいつ、さっきから私の質問まるっきり無視してんじゃん。スルーすんなや。


「…で、その竜王がどうしたの?」

「お願いだから、“様”をつけて!」


そんなに慌てるものなのだろうか。


「…竜王様ってどんな存在?」

「その名の通り、全ての竜の一族をまとめる竜だ。その地位はほぼ神と同じ。だけど数年前にその竜王様の怒りを買った人間がいて、国が一つ滅んだ。それは呼び捨てにしたかららしい」


心狭いのかな?

でもリオンが必死になって私に訴えていた理由が分かった。そりゃあそんなことがあれば必死になるな。

すいませんでした!


「そういう事だったんだね。ちなみに居場所は?」

「どこかの山にいるらしい。俺も詳しくないから知らないけど…え、これ言って平気だよな?死なないよな?」

「大丈夫なんじゃない?」


シルフの口調的になんかリュウ様が青龍らしいし。きっと、これぐらいでは怒らないはずだ。

…でも、名前を呼び捨てにされただけで国をって…うん、これ以上は何も考えないようにしよう。私が知ってるリュウ様はとても偉大で海のように広い心の持つ主なのだ。


当然私の事情を知らないリオンは、ぶんぶんと手を振る。


「いやいや!竜王様は気分屋で自己中心で――」

「それ以上言う方が不味いんじゃ?」


君の理論で行くと消されるぞ。


「…マリーベル様。もしも俺が死んだら海にお願いします」

「お願いだから早まらないで!?…んー、あとは自分で調べないとダメかなぁ…」


山と分かっただけでも良しとするか。


「お嬢様、お話は終わりましたか?」

「え?あぁうん。ごめん、待たせちゃった?」

「いえ、こちらも改めて()()が終わったところですので」


なんだかお話が私たちとは違う『お話』の気がする。当然スルーするけど


「ならよかった。そしたらどうする?ルイは帰る?」


頼むから帰ってくれ。


「いいや。もう少しいるつもりだ。せっかく来れたんだからね。」


知ってた


「じゃあ何する?チェス?」


聞くとルイは何かを言おうとして口を開き、止まった。

と思ったらポンっと手を叩き、思い出しいたように再び息を吸い込んだ。


「そういえばマリーは紫音(シノン)を従えさせたんだって?凄いね」


いきなり爆弾を落としおったぞこの少年。

ありがとうございます

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