王太子
「うっ…」
光に顔をしかめる。
周りを見回すと、オロオロとしている父様達がいる。
どうやらベットに寝かされていたらしい。起き上がると音に反応して全員が私の方を向いた。…ちょっと不気味だったというのは内緒だ。
「マリー、起きたか!」
「ええすみません。人の顔をみて気絶するなど…失礼いたしました」
「すまん、こちらが情報を与えていなかったから…」
私を気遣う声の中には、責める言葉が一つもない。気になって聞くと、どうやら殿下の顔を見て倒れるというのは初めてではないみたいだ。何人もの令嬢が気絶しているらしい。
改めて帽子をとった王太子殿下を見る。相変わらず、この世のものとは思えないほど整った顔をしている。
「……もう平気なのか?」
幼いような声は、既にしっかりしているなとどうでも良いことに感心していると、不安そうな顔をされる。
そうだね、返事はしっかりしないと。
「ええ。この通り元気ですわ。ご心配おかけしてすみません。」
ほっと息をつかれた。たしかに、王太子殿下の所為とも取れる倒れ方したから仕方もない。
…というか私、初歩的なこと忘れてた!
何故か身構えている王太子殿下を私は見つめ、頭を下げだ。頭上から「え!」という声が聞こえる。
「…どうかこのご無礼を許して下さい。」
「いや、大丈夫だよ。初めてじゃないからね。」
「ですが、顔を見ただけで気絶されるなど王太子殿下を相手に本当にすみませーー」
私はまた謝ろうとしたが、指を当てられ、自然に閉じる。
…え?ゆびで?指で。
理解すると、顔が赤くなるのを感じた。
「え、えと…王太子殿下?」
「…ルイ。」
「はい?」
「ルイって呼んで。」
それは不味いんじゃないかなぁぁ!?
いきなり殿下を呼び捨てで、しかも愛称でなんて、何か裏があるのかと疑うレベル!恐ろしすぎるって!
だが、いくら心の中で絶叫をしても当然伝わらない。助けを求めて父様や国王を見るが、目を丸くして王太子殿下を凝視しているだけだ。
「あの息子が、女の子に攻めてる…」
「おい、ミリザ、これ夢じゃないよな?」
「えぇえぇ、これは間違いなく現実でございます…」
「うっうっ…私のマリーはこうして王太子殿下のものになっていくんだ…」
もうダメだーー!!
「あの、流石にそれは世間の目が…」
「大丈夫。私の妻になるから、普通だよ。」
あっ(察し)。
これ断れないやつだ。なんで分かったって?だってさ…
目が本気なんだよ。
もういうこと聞かないんだったら権力使うぞって目で脅してきてる。怖い、怖すぎる。
「イグルイ様…?」
「ルイ。」
ニッコリと天使の笑顔なのにめっちゃ怖いよ…!もう天使じゃなくて、悪魔に見えてくる…。
し、仕方ない。私も腹を括ろうじゃないか!
「ルイ、様。」
「ルイ。」
「ルイ…で良いかしら?」
「うん。」
私の最後の抵抗もむなしく、結局ルイと呼ぶことになってしまった。
満足げに頷いているけどさ、君が脅したんだよ?分かってる?…あーでも声に出してないからカウントされないのかぁ。
思わず遠い目になっていると、突然誰かが抱きついてきた。
「…グフッ」
令嬢らしからぬ声が出たが、誰も聞いていなかった。よ、良かった…。流石に教育を疑われるからね、今の。
というか誰だ。私に飛びついた奴。後ろから抱きついているらしいけど、顔を見ることが出来ない。だっておうた…ルイの手が頰に添えられているから。
というかキラキラした笑顔が眩しいです。最早物理的に光ってないか?
「マリーベル、君の愛称はマリーって言うの?」
「えぇ、父様とあに…兄様しか呼んでいませんが。」
「では私もマリーと呼ばさせてもらうよ。」
「…え?」
出会ってすぐって早くないか?
だが、ルイの猛進撃は止まらない。
私の前に跪くと、手の甲にキスをした。顔が更に赤くなる。…経験がないから仕方ないだろう!?
「マリー…いや、マリーベル・ヒルディア。どうか私と結婚してくれないか?」
頭がフリーズした。だが、猛スピードで私の脳は再起動をする。
私と…結婚してくれ…?
「……はい?」
「良かった。受けてくれるんだね。…はぁぁ。予め言っていたけど了承してくれなかったらかなりショックだったから。よろしくね、未来の妻。」
もう一回フリーズした。私の脳はよく落ちるな。電波環境でも悪いのか?って違うよ。原因も違うし、意味不明だって。
そう、ルイはなんて言った?受けてくれるんだね?未来の妻?
……なんでそうなった!?
「えっ、あの…」
「父上、母上。私はしっかり了承を得ました。これで異議はないですよね?」
「ええ。両者が納得しているのなら妾たちから言うことはありません。てっきり息子の一方通行と思っていましたが…安心しました。」
「ミリザと同じだ。それならしっかりとした手続きをせなばならんな。」
トントン拍子に話が進んでいく。私はポカーンと見ていた。
取り敢えず、どうしてOKと思ったのか考えよう。うん、どうして私が頷いたことになってるんだ。
最後の私の疑問。それは口を出て、“はい?”っとなっ…て…
あああああああ!?これかぁぁ!?
そういうことか、私の疑問が“はい”だったから、勘違いしちゃったんだ!
…どうしよう。この空気でやっぱり違うなんて言えないよ…というかあの天使のような顔がショックを受けたような顔になりそうで怖い…。
「…もうどうにでもなーれ」
「マリー、何か言ったか?」
「いえ、何でもございません。」
いつのまにか背中の重量感は無くなっていて、私の呟きはルイを筆頭として他国の王族に潰されていった。
リオンがやってくる。ちょっとみんなと距離を取り、声を聞かれないようにする。どうしてもリオンと話すとしは令嬢の画面が剥がれてしまうからね。
着いた時冗談めかして居るの忘れてたというと、泣きそうな顔をされた。嘘だってすぐ見破ったが。
「…少しは付き合ってくれてもいいんじゃないかな…」
「別に良いでしょう?で、一応聞いておくけど、あの時きたのはどうして?」
念には念を。もしもなにか役に立つ情報なら、知っておきたい。
だが、リオンは目を逸らした。
「…殿下の美貌に気を付けてと言おうと思ったんだよ」
「ねぇ、なんで言ってくれなかったのかな?前例があるならしっかり伝えて欲しかったんだけど。お陰でとんでもない醜態をさらけ出しちゃったじゃない!」
「すみませんって。俺の顔を見ても眉ひとつ動かさなかったから大丈夫かなって…」
「あれは異次元だから身構えないといけないレベルなんだよ!」
まるでアニメのような顔立ちしているんだよ!?あれは本当に人間か疑うよ!
「ですが今は平気でしょう?」
ぐっと息がつまる。そう、その通りだ。適応力が高いのもここに生かされ、私は既に普通に顔を見れるようになっている。やはり最初の衝撃が異常だった。初めてイケメン関連で気絶したよ。
だけどさ、文句ぐらい言って良いよね!?
「そりゃあ慣れましたよ。ほんっと使えない従者だね!」
「隠密ですよ!」
「隠密がこんな堂々といないでよ…」
呆れてしまう。影に生きるはずなのに何故表にいるのか。チグハグしすぎた。
だが、リオンも溜息を吐いていた。
「王様が付いて来いっていったんですよ。側に立って守ってろと。」
「何で?隠密の意味は?」
マジで突っ込みどころしかない。




