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第7話 再出発したいんですがどうすればいいですかね?

「さ、て……これからどうするんだ?」


「どうするって……?」


俺が救出されてから数日後の昼、エドの金で飯を食っていた俺に真面目な顔したルークが尋ねた。


「いや、だって流石にあんだけの事やっておいてすぐダンジョンに篭もりましょうなんて事は出来ないだろ。どのみち俺達はギルドに所属していない身なんだし当面の間冒険者としてダンジョンに籠るのは難しくないか?」


「あれだけの事ってやったのはルークなんですけどねー……。」


と、うんざりした顔でエドが机に倒れ伏した。

まぁエドの言葉は的を射ているんだがそれにしても確かにルークの言うことにも一理ある。


「うーんそうだな……。金銭面じゃエドもいる事だし問題ないっちゃないが……まぁそれじゃ納得しないよな。」


俺の言葉にエドがうんうんと首を縦に振った。

まぁ俺としてもやっぱりここでパーティ解消しましょうなんてされた日には目をつけられているせいでダンジョンにも潜れずエドの財布も無くじゃ生きていける気がしない。


結局何とかして冒険者チックな事はしなけりゃならないらしい。


「うーん、冒険者チックな事かぁ……心当たりあるっちゃあるんだが……。」


という俺の言葉にエドがムクリと身体を起こしてキラキラした目でこちらを見つめた。


「あるんですか!?」


「あぁまぁ……あるんだが正直やりたくないっていうか……」


冒険をやりたくない訳ではなく、会いたくない人間にお願いしにいかなくちゃならないってのが心底気に食わんってだけなんだが、どうもコイツらはそれだけじゃ満足出来ない様で。

しゃあない。行くか。なんだかんだ俺と()()()の付き合いもかなり長いしな。何とかしてくれんだろ。





「っつうわけでもう一回あの家貸してくんねえk……」


()()()!!!」


めっちゃ怒られた。すごい剣幕で。

後ろでルークがすごい真っ青な顔で縮こまった後何処かへ逃亡した。どうやら初手で知らん人間に怒鳴られただけでもう戦闘不能らしい。ひよっこめ。


――市場。その中心に位置する不動産屋に俺たちは来ていた。


「い、いやほら、前に賃貸料滞納したのは悪かったってホント……今回こそはちゃんと金持ってる保証人もいるからさ。」


ちょっと涙目になりながら俺がエドの金がいくらか入った巾着を差し出すと、ソイツは袋の重さを確かめ、中に入っている金貨の量に若干驚きながら金貨を指で弾いたり、八重歯の部分で噛んでみたり目を細めて長いまつ毛の下からじっくり見つめている。


いや、偽金貨じゃねえよ。そんな精巧なモン作れるかっつうの。


「……本物だわ、これ。……どっから盗んできたの? それともそこの子供を脅して持ってこさせたとか……? 場合によっては通報も厭わないから。私。」


ソイツ――不動産屋の娘であるルナは巾着を大事そうに薄い胸に抱きかかえながら俺には相変わらず警戒の目線を向けている。そんなに疑わしいんならさっさと巾着返せばいいのに。


「いえいえ、本当に僕が出してるんですけど……」


と、エドが怒り狂う狂犬に対して援護射撃をするが、そんなエドの手を掴むとさらにぎゅ、と抱きしめ、自分の背後に隠した。

おぉ、凄い身のこなしだ。いくら不意打ちとはいえ一応冒険者のエドをちゃんと自分の元に引き寄せるだけの力はあるらしい。


しかしこれ、見様によってはただのショタコンの様に見えなくはない。

抱きしめられといて滅茶苦茶無表情なエドがまたそれっぽさを加速させている。


「いやあの、だからですね……」


「前からの悪行の数々はこれまでの付き合い上見逃してきたけど、今日という今日は絶対に許せないわ! こんな小さくて……可愛い女の子誘拐してくるなんて絶対許せない! おとなしくお縄につきなさい!」


あ、エドの表情筋がさらに死んだ。

そりゃまぁ、中世的な顔立ちしてるけど女の子は無いよな。


……あれ、女じゃないよなコイツ?


「いや待て落ち着け。よく見ろソイツは男だ。……多分。」


俺の言葉にルナの動きがピタリと止まった。

妙に硬い動きでエドの方を振り向くと、ペタペタ胸板やら顔を触りだした。


「……嘘。こんなにかわいらしいのに?」


「……嘘じゃないです。ふぉ、ふぉっへふぉふぉはははひへ……」


頬をふにふにと揉まれながらエドが答える。

おー伸びる伸びる。モチみてぇだ。


そんなエドを見て、ルナがにへらぁと表情を歪ませた。

茶色いくせっけの強い髪が耳みたいにピコピコ動いている。こう見えて可愛いもの好きだもんなコイツ。


「……可愛い。ねぇアナタ、こんなきったない男の元離れてウチに来ない? こう見えてお金持ちなの。ワタシ。アナタは一日一回だけ私の癒しになってくれればいいかキャアアアアアッ!」


ふんすふんすと鼻息荒くエドに詰め寄ったルナの脳天に後ろから忍び寄ったババア――ルナの母親でもあり、ロバルトの市場を取り仕切るボスでもある――が拳骨を振り下ろした。


ガチン、とおよそ人の肉体同士がぶつかり合ったとは思えない音とともに白目を剥いたルナの体がガクリと崩れ落ちる。


イライラした表情で地面を転がる我が娘を蹴り飛ばし、エドの持ってきた巾着を拾い上げるとその豊満な肉体――主に腹部をぶるんと揺らすと俺に投げて寄越した。


「い、いったぁ……」


「なぁにやってんだいこんのバカ娘はッ! ……悪かったねぇエド王子。この子はほら、見ての通りバカだからさ。許してやってくれよ。」


「おっ……王子? この子が?」


ルナは知らなかった様だがどうやらエドがルドリウムの王子であることは知っていたらしい。

流石市場の主……伊達にスパイがいるとか何とか言われてねえな。


「……何故僕が王子だと知っているんです? この事は殆どの人間はしらないハズ――」


「アタシも独立市場の人間だからね。知らないワケないさ。」


ババアに即答されたエドが独立市場の人間と聞いて顔を顰める。

このニュアンスで使われる市場という単語に王族としては良いイメージを抱いていないんだろう。


――独立市場。

一般的にはただの物を売買する程度の存在だが、ここロバルトでは訳が違う。


冒険者にはギルド、一般市民には国の法、そして神官には神の法があるが、ここ市場ではそれらは一切通用しない。なんせ金銭の規模だけで言うとギルドにしろ国にしろロバルトで市場の右に出る組織は無いからだ。というよりギルドに至っては最早市場のいいなりだ。


モンスターが強力なロバルトでは様々な冒険者が日々血を流しながら戦っている。ヤツらはそんな腕っぷしでは絶対敵わないような冒険者達を相手に何年も前から商いを続けている。そして料金を滞納する様な荒くれ冒険者共とも何年も何年も戦い、そして勝利してきた。……そう、真っ向から戦って勝利してきたのである。

どうやってか? ――それは戦いの記録が市場によって全部隠されているため誰にも分らないが、一説によると口には出せないような下劣な攻撃が延々続いたとかなんとか。怖いぜ全く。


結果、いつの間にやらロバルトの市場は警察やら情報屋やら拷問官やら何から何まで揃う超大規模な組織となった。何で拷問官が市場に必要なのかは目を瞑っておいた方が良さそうだ。


当然王族としても自分たちより大きい組織があるのは放っておけないのだろう。だから彼らに牙を剥かれないように国土の一部を市場のために開放したとかなんとか。


「まぁそんな緊張しなさんな。ただのババアだぞ。コイツ。」


と、未だに一歩引いているエドの肩に手を置きつつババアに向かってニッコリと笑いかけるとババアもこちらに笑みを返してきた。昔から結構フレンドリーなんだよな。ババア。


「貴方は知らないからそんな事言えるだけだと思いますよ……。市場の人間がどれだけ恐ろしいか。」


エドは相変わらず慣れないみたいだが。どんだけトラウマなのか知らんがガタガタ震えている。

そんなエドを見てまたもや若干ルナの鼻息が荒くなる。コイツこんなキャラだったのか……引くわ。


「まぁアンタの娘がキモいのは置いといてどうだババア。エドが王族だってのはアンタも知ってるんだったら家の一つや二つ、貸してくれんだろ?」


「いいや、ダメだね。」


「ダメなのか!?」


俺が家を貸せと言った瞬間ババアの顔から笑みがスッと消えた。やっぱこええわこのババア。


「アンタ至る所で滞納働いてんだろ。ブラックリストに乗った人間をウチが得するからって理由だけで貸し出しを行っちゃあ信用に関わるんだからダメさ。」


「なるほど分かりましたありがとうございます。では帰りましょうジャックさん。」


「おいちょっと待て駆け引きがあんだよこっから。」


ババアの話が終わるや否や速攻で部屋を出ていこうとするエドの首根っこを掴んで部屋に留まらせた。

エドがこちらをじっとりとした目で見つめてきたが気にしてはいられない。というよりここで粘らなかったらこの先俺は一生ブラックリスト入りさせられることになる。


口じゃあなんちゃら言っててもババアは商売人だ。勿論駆け引き出来ないなんてことはないハズ。現にババアは俺の言ったことを否定せずニヤニヤしている。


ニヤニヤしてるっつうことは……まぁロクな依頼じゃないんだろうけど。立場としてはこっちのほうが圧倒的に弱いからあんまり変なのはやめてほしいんだが。


「で、何が望みなんだ? もう長年の付き合いでお互い出来ること出来ないこと分かってるんだし手早く行こうぜ。」


「ふうん。相変わらず取引の甲斐が無くて面白くない子だねぇ。まぁ手早くていいけどさ。じゃあ本題だ。アンタ、最近ドラゴン種がピラー高原に出現したって聞いたかい?」


「オイまさかドラゴン種倒してこいなんて言わないよな?」


「まさか。アンタみたいなヘッポコとお得意様の王子にそんなこと頼まんさ。討伐は勿論ちゃんとした国営討伐隊を手配する予定さ。」


当たり前か。ドラゴン種なんて俺らが挑めばまぁ数秒で消し炭だろう。

あんなのは沢山人数のいる統率の取れた部隊にやらせるのが一番だろうな実際。


「別にドラゴンがいる事が問題じゃなくてアソコで物流が止まっちまうのが問題なのさ。ドラゴンなんてたかがデカいトカゲなのに情けないねぇ。」


ドラゴンをデカいトカゲ呼ばわりしてるよこの人……。もうアンタが冒険者やれば安泰なのでは?


「で、だ。アンタ逃げるのとか隠れるのとか得意だろ? シーフなんだし。そこで今度やってくる馬車をこちらまで送り届けてほしいワケさ。」


「馬車を? いや無理だろ普通に。俺そんなにパーティー単位の隠密得意じゃないし。」


「い~やいけるね。そこの後ろの兄ちゃん、なかなかのやり手とアタシは見てるからね。」


と、言いながらババアが凄まじいスピードで太ましい指を店の隅へと指した。


「「「後ろ?」」」


俺とエド、それからルナが後ろを振り返ると


「え……俺? 俺っすか?」


店の隅っこでずっと震えていたルークが恐る恐るといった様子で顔を上げた。

今まで何やってたんだよお前。コミュ障にもほどがあるだろ。

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