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第3話 俺のパーティーの賢者がポンコツなんですがどうしたらいいですかね?

「で……。とりあえず俺のパーティーに入るのは良いんだが他に伝手はいるのか? 正直シーフとパラディン2人のパーティーってかなりバランス悪いぞ。一応言っとくが俺には他にギルド登録してない知り合いなんて居ないしお前と同年代ぐらいのお友達連れてきたら速攻追い出すからな。」


コイツぐらいの年齢のガキがいくらいても仕方ないだろう。出来れば大人の——女がいれば最高なんだけど。


そう思い俺の隣をピッタリとくっついて歩く少年——エドに聞くと一瞬何を言っているのか分からないとばかりに数回目を瞬かせると腕を組み、なにやら得意気な顔をした。うぜぇ。


「あぁ、仲間ですか。それなら居ますよ。とびきり優秀なのがもう一人。」


「へぇ。居るんだ。で、どんなヤツなんだ? そいつ。」


優秀、ねぇ……。

正直言うとエドはこのぐらいの年齢の子供にしてはトップクラスに優秀な部類に入ると思う。それこそそこいらの冒険者以上のポテンシャルを秘めているだろう。そのエドが優秀と言い切るくらいなんだから、きっとさぞ優秀な冒険者なのだろう。


なんていう事を考えていると、さっきから微妙な表情をしていたエドが困惑した笑みを漏らした。


「え、と。どんなヤツも何もさっきからずっと僕達の後ろ歩いてますけど。彼。」


「な……っ!? 」


嘘だろ!? 油断していたとはいえ仮にもシーフである俺の背後を取るなんて一体どんな優秀なシーフなんだ!?


「……? 」


俺が咄嗟に振り返ると、ソイツは、いた。


白いモノが本当に俺の数センチ後ろに何の気配もなくただただ立っていた。とんでもなく近い。鼻息がかかるほど近い。


「な……、近っ!? 」


白いフードの下から爛々と光る鋭い黄色い目がこちらを刺すように睨みつけていた。フードよろしくこれまた真っ白な顔が俺の反応に逆に驚いたとばかりに傾げられる。


「ルーク・ランページだ……。よろしく。」


男の着ている真っ白なローブから細い、というよりガリガリの男の手が差し出され、そして男の口元がニヤァと押し上げられる。

真っ白な顔から赤い口と肌より更に真っ白な歯がチラリと覗いた。


吸血種みたいにギザギザだ。というより、肌も血が通っていないみたいに真っ白だし本当に吸血種なのでは?


「あ、あぁ……。俺は……ジャックだ。よろしく。」


最初この手はなんだと思ったがどうやら握手で正解だったらしい。恐る恐る俺が手を握ると男はそのデカい赤い気味の悪い口をさらに歪ませた。


コイツ、顔はイケメンだけど雰囲気が最悪だ。

例えるなら、蛇種とゾンビ種と吸血種のモンスターを混ぜ合わせて最後にイケメンの仮面を貼っつけたみたいな気味の悪さを全身から振りまいている。


半ばドン引きの俺を他所にソイツはブツブツと口の中で


「ジャック……。ジャック……か。」


と、小さく繰り返して呟いた。え? もしかして呪われてる? 呪われてないよね? 俺。怖くなってきたから教会へ行きたいんだけど。


しばらく何やら考える様な素振りを見せた後、ルークと名乗った男はおもむろに懐をゴソゴソと漁ると、無言でこちらへ冒険者カードを差し出した。


「ん。」


取れ、ということらしい。喋れよ。


遠慮なく男の手から冒険者カードを奪い取り、俺の冒険者カードを投げてよこした。


「あ、あはは……。ルークも普段はもっとこう、普通の人なんですけど……どうも初対面の人相手だと上手く喋れなくなるみたいで……。何かすいません……。」


と、横でエドは勝手にしょんぼりとした表情を浮かべた。


コミュ障じゃん。ただの。

まぁ俺も人の事言えないし、コイツがエドの言う様に本当に有能な人間ならそれでいいんだけど。


憮然とした気持ちでルークの冒険者カードを覗き込む。コイツがシーフなのは何となくこれまでの流れから分かったが、果たしてどの程度のレベルなのか。と、言うよりパラディンとシーフじゃバランス悪いっつってんのにもう一人シーフを連れてくるなよ。


「えーと、職業は……賢者か。賢者ァ!? 」


思わず二度見したが、確かにルークの冒険者カードにはシーフじゃなくて賢者と書かれていた。


コイツ、隠密スキル使わずにあのレベルの隠密をしてくるとは。さてはとんでもなく影が薄いな!


いや、影が薄いのはさほど問題じゃなかった。


問題は、コイツが賢者だって事だ。

賢者といえば魔法使い(ソーサラー)の上位職なんだが、特定のスキルが使用出来る事が条件になっている様な他の上位職と違ってソーサラーとの明確な違いは無い。


じゃあ何をもって賢者とソーサラーを分けているのかという話なんだが、それは教会がその時代において特出した技術や魔法の才能を持っていると認定した人物にしか贈られない、云わば世界最高峰を表す称号の様なものだ。


故に賢者は数が非常に少なく、賢者であるというだけで冒険者の間では大きなステータスになる。


正直目の前の男がそんな賢者であるとは思えない。もしや新手の詐欺なのでは?


そう思い冒険者カードを折り曲げて確認しようとしたが、相変わらず滅茶苦茶硬くて折り曲げられそうもない。——つまり、神の加護を受けた正真正銘、本物の冒険者カードだってことだ。


「コイツ、マジで賢者なの?」


「ルークは正真正銘、教会認定の野良賢者です。」


俺の驚愕を他所にエドは自慢げにふんぞり返っている。お前の力じゃないだろ。


でも変なやつとはいえ、教会認定の賢者がこんな所に転がってるとは思わなかった。何でギルド登録してないのか分からないけど。エドの言葉から察するに誰かの雇われという訳でもなさそうだ。


まぁ何れにせよ、賢者がパーティーにいるのは心強い。これでメンバーは3人。本当は4人以上欲しい所だが最低限のパーティー人数は揃った。これでとりあえず今までよりちょっとはマシなダンジョンに潜れるハズだ。


「よし、とりあえずパーティーメンバーはこれでいいよな。ところでルーク。お前の得意な魔法は何なんだ? 賢者だから何か特化したモノ持ってんだろ?」


という俺の言葉にルークは少しだけ下を向いた。

エドも今までのドヤ顔は何処へやら、サッと俺から目線を外した。


見方によっては何か痛い所を突かれた人の様にも見える。もしかして俺、何か聞いちゃいけない事言った?


「……魔道具作成。」


とだけ、ルークは小さくボソッと呟いた。


——魔道具作成。

ソーサラーの一部が習得出来る、剣や防具等に魔石をはめ込んだり、文字を刻み込む事で魔力消費や詠唱無しに魔法を発動することの出来る様になる、という技術だ。魔石を組み込む物はともかくとして、原理は魔法というより呪術に近い。


生憎傷が付きやすい刃物や防具に文字を直接彫り込まないといけないという仕様上彫り込まれた文字に傷が入って使い物にならなくなる事が多い。というより範囲指定の書かれた部分に傷が入りでもしたら最悪自爆する事になる。


そういう事情もあり魔道具はあまり使われていない。

ごく稀に裕福な弓使いの冒険者が買っていくらしいが、ほぼ使い捨ての矢をわざわざ魔道具にするのはコスパが悪すぎるという事もあり全く普及していない。


「魔道具作成? おいおい、それ魔法じゃなくて技術とかスキルの類いじゃねーか。それ以外は? 何かあんだろ? 魔法。あんだけ保有魔力量あんだから。」


さっき確認したが、流石賢者だけあってルークは圧倒的なまでの魔力を有していた。

熟練度はあまり高くないが、それでも常人の数倍は魔力を持っている。


魔力が高いという事はそれだけで大きな強みだ。

魔力は熟練度が上がれどもあまり伸びないため、ほぼ才能頼みな部分があるからである。

いくら優れたソーサラーであったとしても、魔法を行使するための魔力が足りなきゃ意味が無い。だから、ソーサラーは生まれつきの魔力量が命なのだ。


「……まぁ、ファイアボール程度なら使えるが。」


「極めて初歩的ッ!」


ダメな様だ。思わずずっこけそうになった。

いくら入力が大きくても出力が極小なら意味が無い。

……いや、それにしても酷くない? 何で? 賢者なんだよね?


俺の様子を見てルークは少しだけ申し訳無さそうな顔をし、さらに小さい声で何やら呟いた。


「いや、まぁ魔法っぽい魔法もあるにはあるが……。使ったら俺含めて皆死ぬ。」


どんな魔法だよ。

いや、何となく察しはつくけど。どうせ持ってる魔力全部暴発させて大爆発みたいなシャレにならないモノしか無いだろう。


俺の人生の最後が爆発オチはダメだ。爆発オチなんてサイテー。


「まぁ、いいや……。最悪ファイアボールでも、連射しまくれば。」


ルークの保有魔力量が多く、ファイアボールは消費が少ないので連射が効くのが幸いだ。


俺は思わず口からもれたため息と共にエドを睨みつけた。


(この野郎。変なヤツ連れてきやがって。)


という念を込めて睨むと、どうやらキチンと伝わったらしくエドはブンブンと首を大きく横に振り、ちょっとジト目の混ざったムカつく顔をした。


(いやいやいや、シーフなのに回復スキルばっかり覚えている貴方よりマシですって。)


そう聞こえた気がした。被害妄想かもしれないけど。ムカつくから一発頭にゲンコツを落とすと、エドは声にならない声を上げながら地面を転がった。


「ええぃ、ままよ! もう今更どうこう足掻いても仕方あるまい! 行くぞ!ダンジョン攻略!」


……適当に滅茶苦茶簡単な所に行って終わらせて解散しよっと。




と、思っていた時期が俺にもあった。

長らく一人でダンジョン攻略をしてきたから忘れていた。アホなモンスター相手なら戦闘は避けられるから簡単だと思い込んでいたけど、モンスター以上にアホなヤツらが二人もいたら簡単なダンジョンなんてあるハズが無かったんだ。

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