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第2話 俺にパーティーメンバーが出来たんですがどうしたらいいですかね?

外からは波の音が入って来ており、それに合わせて演奏団が何やら美しい、それでいて食事の邪魔にならない程度の音楽を奏でている。

カウンターの裏ではなにやら気難しそうな顔をしたシェフが真剣な眼差しで料理を作っている。


「ここは僕の行きつけの店なんです。ほら、海が見えてとても綺麗な景色を眺めながら食事が出来るでしょう? この景色を眺めながら飲むお酒は——まぁ僕はまだ飲めないんですけれど。」


——そして俺はと言うと、そんな料理店の一角で少年が得意げに紹介した景色も見ずただただ飯を食べ続けていた。


「ん、ぐ……。ふ、ふまひ。ほんなふぁはははいへひをふぁへふぁふぉふぁひはひふひはへ。」


「ちょ、汚いですね、食べ方……。久々のご飯なのは分かりましたから、もうちょっとこう何とかなりません?」


なりません。


と俺は返事したつもりだったが口から出たのは「ふぁひふぁふぇん」という意味不明な音だけだった。


——だって、美味しいんだもの!


一口啜るだけで身体の隅々まで染み渡る様な温かい野菜スープ、口の中で旨味の塊となってハーブと絡み合い脳を揺さぶる若シープンの肉、バターの効いたこの世の物とは思えない程にふわふわのパン。そんな暴力的なまでの飯の数々を目の前にして俺の腹が我慢できる訳があるまいて。


ただでさえ普段温かい飯は食べられなかったんだ。こんな高級店の飯を、しかもコイツの奢りで食べられるなんて今日は人生最高にツイているぜ。全く。


……このガキに奢られるのには若干プライドが傷つかないでもないけれど。まぁでも所詮俺のプライドなんてここの飯より安い。俺のプライド、プライスレス。


俺は目の前で行儀良くナイフとフォークを使って飯を食っている少年の気が変わらない内にさっきから妙な目でこっちを見ているウェイトレスに指差しで追加の肉の注文をした。


「もう、ここ僕の行きつけのお店だったのに……。美味しいのは僕も同意しますけど、そんなにがっつかなくったっていいじゃないですか。」


「ふぃふぁへーふぉふぉんふぁん。」


「もう。口の中空にしてから喋ってください。」


言われてそれもそうだと口の中に詰めていたパンを飲み込み、そして俺は言った。


「ふぇ、ふぉふぁえふぁふぇふぁ?」


「飲み込んでからまた食べてちゃ意味ないでしょ。」


そりゃそうか。


俺は口の中の物を飲み込み、そしてしゃべるのをやめて飯を食い続けた。




「……で、なんだっけお前の名前……。」


それからしばらく後、満腹の腹を擦りながら俺が聞くと少年は


「エドです。エド・アルダマ。……エド、と呼んでください。職業はパラディンをやっています。」


と言いながらナプキンで口を拭うと、懐から冒険者カードを取り出してこちらへと差し出した。


冒険者カード。市場で働くヤツらで言うところの名刺みたいなものだ。


教会から発行されるもので、神の加護を得たこのカードは所持している冒険者の攻略したダンジョンや職業、スキルや熟練度等が嘘偽り無く自動で記載される。攻略が何をもって攻略とするのか、熟練度の基準とかは完全に不明。神が判断を下すらしく、教会だけがそこらの情報を独占しているから色々怪しくて俺はあまり信用していないが。


エド少年はどうやら未だダンジョン攻略はしたことが無いらしい。パラディン職というのは嘘では無いらしいがやっぱり熟練度が低いのがパッと見て取れた。


「えーっと、エド君。君はー……なんだっけ、俺とパーティー組みたいんだっけ? 」


俺がそう聞くとエドはパッと顔を明るく輝かせた。


「えぇ。因みに貴方の名前は? そういえばまだ自己紹介して貰っていませんでしたよね? 」


「あー、俺の名前、か。そうだな。俺は……ジャックだ。普段はシーフをやってる。」


言いながら俺も冒険者カードをエドへと差し出すと、エドは興味深そうに俺の冒険者カードを覗き込んだ。


正直自分の名前を忘れかけていたからちょっと焦った。冒険者カードを見るとジャックと書かれていたからそう答えたけど、苗字は無いわジャックなんてありふれた名前だわで覚えづらい事ありゃあしない。


名前呼んでくれるパーティーメンバーも知り合いもいないしな……。


「わぁ、凄いですね。所属ギルドも無いのに一人でよくこんなに大量のダンジョンを攻略しましたね。こんなに大量のダンジョンを貴方ぐらいの年齢でこなしているなんて、ギルドの冒険者でも中々いませんよ。」


「あぁ、そりゃ潜って宝だけこっそり奪ってもダンジョン攻略した事になるってだけだからな。戦闘してなくても攻略した事になっちまう。裏技みたいなものだな。」


エドの「一人で」という追い討ちにちょっと涙目の俺を他所に経験豊かな冒険者が珍しいのか大層嬉しそうな顔を浮かべている。


ふん、お子様め。

最初裏路地でダンジョン攻略のパーティーに誘われた時はどんなヤツかもよく分からなかったが、改めてこうして見ると見れば見るほどただのガキだ。


……体つきは割としっかりしている。パッと見じゃただのヒョロヒョロした少年といった体だが必要な部分に必要なだけ筋肉はちゃんとあるのが見て取れる。パラディンとしての仕事であれば受け止めるというより受け流したり弾いたりするのは得意そうだ。


きっと良いものを食べて良い訓練をしてきたんだろう。実戦経験は無さそうだが適正なスキルさえあれば即戦力になりそうだ。


「うーん、しかしなぁ……。」


いつもの俺ならすぐにパーティーに引き入れてただろうけど、今の俺は違う。栄養が脳ミソの隅々まで行き渡った俺の脳ミソはどんな些細な事にも気付く事が出来るのだ。


何故ギルド登録してギルド掲示板でパーティー登録をしないのか、とか、よくパラディンなんて上位職やってるな、とか聞きたいことは色々あるが、まぁそんなものは些細な事だ。


俺がコイツをパーティーに入れるか迷っている理由、それはたった一つ。


コイツ、金持ちのボンボンなのだ!


俺が嫌いな奴ランキング、堂々の第一位は金持ちで第二位はイケメン、第三位は天才だ。


コイツ、さっきから身のこなしがどう見ても貴族とかその辺りのソレだ。貴族のボンクラ共には興味が無いから一々姓を覚えたりはしていないが、どうせコイツもヤツらの仲間だろう。


と、するとこんなヤツが冒険する目的などたかが知れている。自分の経歴に泊を付けるためだ。


当然、危なかったら味方なんてさっさと捨てて逃げるに違いない(俺もそうだが)。だから正式なパーティーを組むつもりがないんだろう。


——だったら何でパラディンなんてやってんだって話ではあるが。


パラディンは防衛(ガード)の上位職だ。

ただ物理で護るだけじゃなく、神の加護を以て魔法すらも受け流せる程の高い才能が無くてはなれない。シーフみたいに誰でもなれる下位職とは訳が違う。


しかもコイツ、カードによればかなり有用かつ希少なスキルをいくつか覚えている。つまりチートだ。ムカつくぜ。


更に更に顔はかなりのイケメンだ。ガキらしく中性的で整った顔をしているのが大層憎い。


つまりコイツは金持ちのボンボンの上に顔も良く、才能まで併せ持った俺の嫌いな奴の上位を一人で独占している俺の敵の最たるものみたいなヤツだ。


「……で、どうです? 自分で言うのは何ですが、中々使えると思いますよ。僕。」


と、エドがニッコリと笑みを浮かべながら聞いてきた。流石貴族とあって物腰は柔らかなのになんか有無を言わせない雰囲気あるなコイツ……。やっぱりダメかもしれない。こういう性格の人間にロクな奴はいない。やはり丁重にお断りするのが間違いないだろう。


「いや確かに使える……。使えるがしかし……。」


俺が言いかけた所でエドは手で俺の言葉を遮ると、懐から重そうな巾着を取り出して机の上に乗せた。


口紐を解くと中からかなりの枚数の金貨が飛び出してきた。正直ぎょっとする程の額だ。俺の半年分の収入より多いかもしれない。

そして一言


「まぁ無理に仲間にしろとは言いませんけど。 あ、でも僕を仲間にしてくれたら宿代その他は出しますよ? 冒険なんで色々ご入り用なんでしょう?」


とだけ言った。




エドが仲間になった。


俺の好き嫌いがなんだってんだ。資本主義バンザイ。

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