カスタネット職人
カスタネット職人の彼は今日も元気にカスタネットを作っている。
青色と赤色、二つを合わせてカタタンカタタン。そんな彼のもとに、お客さんが一人やってきた。
「もし、カスタネット職人さん。このカスタネットは、どうしてこんなに小さいんだい」
彼は手を止めて、お客さんに返事をした。
「子どもが叩きやすいように、小さくしているんだ。この町は、子どもが多いからね」
お客さんはなるほどと頷いて、カスタネットをカタタンと叩く。そうして得意げな顔して小さなカスタネットをもとに戻した。
「けどね、大人もたまにはカスタネットを鳴らしたいんだよ。こんな小さくちゃあ、思う存分、鳴らせないな」
カスタネット職人の彼は今日も元気にカスタネットを作っている。
青色と赤色、二つを合わせてカタタンカタタン。そんな彼のもとに、お客さんが一人やってきた。
「もし、カスタネット職人さん。このカスタネットは、やけに大きいようだが」
彼は手を止めて、お客さんに返事をした。
「大人でも思う存分叩けるように、大きくしたんだ。この町は、はしゃぎきれない大人が多いからね」
お客さんはなるほどと頷いて、カスタネットをカタタンと叩く。そうして得意げな顔して大きなカスタネットをもとに戻した。
「しかし、これはちょっと硬すぎるんじゃないかね。力の弱いお年寄りなんかは、鳴らしづらいんじゃないか」
カスタネット職人の彼は今日も元気にカスタネットを作っている。
青色と赤色、二つを合わせてカタタンカタタン。そんな彼のもとに、お客さんが一人やってきた。
「もし、カスタネット職人さん。このカスタネットは、外側が柔らかいんだね」
彼は手を止めて、お客さんに返事をした。
「お年寄りが少しの力で叩けるように、柔らかくしたんだ。この町は、か弱い人が多いからね」
お客さんはなるほどと頷いて、カスタネットをカタタンと叩く。そうして得意げな顔して柔らかいカスタネットをもとに戻した。
「だけど、か弱い女性にこれじゃあ似合わないよ。一見派手だけど、青色と赤色だけじゃ面白みがないもの」
カスタネット職人の彼は今日も元気にカスタネットを作っている。
カタタンカタタン。そんな彼のもとに、お客さんが一人やってきた。
「もし、カスタネット職人さん。このカスタネットは、随分といろんな色がついているみたいだ」
彼は手を止めて、お客さんに返事をした。
「女性が好んで持てるように、綺麗な色をつけたんだ。この町はお洒落な人が多いからね」
お客さんはなるほどと頷いて、カスタネットをカタタンと叩く。そうして得意げな顔して綺麗なカスタネットをもとに戻した。
「けれど、最早こうなると鳴る音がつまらないな。カスタネットって、この音じゃないと駄目なのかい?」
カスタネット職人の彼は今日も元気にカスタネットを作っている。
そんな彼のもとに、お客さんが一人やってきた。
「もし、職人さん。これは一体、なんなんだい?」
彼は手を止めて、お客さんに返事をした。
「それは、カスタネットだよ。きっと、カスタネットなんだ」
お客さんはなるほどと頷いて、カスタネットを叩くこともなく、そうして得意げな顔して鼻をふんと鳴らした。
「たとえこれがカスタネットだとしても、こんなのは嫌だね。カスタネットの良さが、一つもないんだから」
カスタネット職人の彼は、今日も元気にカスタネットを作っている。
青色と赤色、二つを合わせてカタタンカタタン。そんな彼のもとに、お客さんが一人、やってくる。