考えよう(ボーイズラブ風味)
「僕もしかしたらお前のこと恋愛対象として好きかもしれない」
「うん、なんでそう思った?」
「ふふん、そう聞かれると思ってね、僕がお前のこと好きかもしれない理由をちゃんと考えてきたんだよ」
「おお」
「まず一つ。僕は人間が大好き」
「じゃあお前の恋愛対象は今のところ全人類だな」
「二つ目。僕にとっての恋愛感情っていうものは、自由と同意で、だから僕を縛らない人がいい。そして僕が自由に振る舞える人が恋愛対象になる」
「それでもまだ人類の大半は対象じゃないか?」
「ここからだよ! 三つ目。僕の話を面白そうに真面目に聞いてくれる人は特に好きだな」
「なるほど。だいぶ絞れてきたな。でも世界中の哲学者はまだ対象だな」
「はい四つ目。僕はご飯は美味しいものが大好き。不味いものや可笑しなものも魅力的だけど、食べるなら美味しいものだ。美味しいものが好きな人だといいな。更には作れる人がいい」
「お、具体的になってきたな。それでもそんな奴はこの世にたくさんいるぜ」
「五つ目! 僕は日本語しか喋れない。そりゃあ異国の言葉を理解したいとは思うけど、今はそれにはあんまり興味がないから、日本人がいいんだ」
「全人類から日本に限定されるのは、かなり狭くなってきた」
「だろー? 六つ目。赤ちゃんはなしの方向で」
「それは大事だな。赤ん坊はお前の範囲をことごとく外れてる。ガキとか老いぼれは?」
「うーん、そうだな、たとえ僕より遥かに年上でも年下でも、好きにはなれる……ああ、でも、恋愛対象にはならないかも」
「なるほど、次は?」
「えーっと、むっ」
「七つ目」
「七つ目。友達になれる人」
「ん?」
「あのね、僕は友達は量より質だと思うんだ。僕は人間が大好きだけど、友達になりたい人はたくさんいるわけじゃない。大好きな人間の中でも、友達はもっと大好きなんだよ」
「ああ、大好きでもっと大好きな人間が恋愛対象になるってことか。じゃあお前と友達になれる奴は多くないからな、いいぞ、随分絞れてきた」
「八つ目。僕の話に真面目に討論してくれる人」
「それ三つ目あたりに言ってなかったか?」
「それは僕の話を聞いてくれる人だよ」
「はーん、話し合いたいんだな」
「九つ目! 一緒にいたいと思える」
「ここにきて普通だな」
「いいや、実はこれが大事なんじゃないかと思ったんだ。どんなに面白く優しく良い人でも、もっと一緒にいたいって思えなかったらそれは違うんじゃないかってね」
「まあ、そうかもな」
「十! 好きだって言われたい!」
「は?」
「自分が一番よく分かってるんだけど、僕は自分が好きなら相手が僕のことをどう思おうが自由だと思うんだ。それは全人類相手に言える。友達相手にも言える。僕はきみが好きだよ聞いてくれてありがとう! ってね。一方通行で満足しちゃうんだ。だってこの世のあらゆる感情は自由だからね」
「ああ、知ってる。お前はそういう奴だ」
「でも! 今まで述べた恋愛対象に値する、ある特定の人物には」
「好きだって言われたい?」
「ああ! 好きだと思われたいし言われたい!」
「以上?」
「以上!」
「あー、うーん、なるほどなあ」
「待って一つだけ訂正させて。僕はもしかしたらでもかもしれないでもなく、お前のこと好きだな! 以上、僕がお前のこと好きな理由でした!」
「あ、うん。めっちゃ分かった」
「じゃあ俺がお前のこと恋愛対象として好きになれるかどうか、考えてくるわ」
「任せた!」
「俺がお前のこと恋愛対象として見れるかどうかの話、結果的には見れることが分かった」
「エッ」
「今からその理由を言う」
「りょ、了解」
「まず大前提としてだ、俺は女が好きだ」
「話終わっちゃう」
「だって生まれてこの方自然の摂理のように好きになる相手は女だったからな」
「うん」
「そこで思った。もしやマインドコントロールされてないか、ってな。自然の摂理なんかじゃねえ。そういう風になるように仕向けられてたんだ。俺は別に子供が欲しいわけじゃないし、もっと言えば恋人とベタベタくっつくのも、それが世の常だという雰囲気が空気のようにあったからそれに浸かってただけ。じゃあ俺が今まで好きになった女は、それの延長だったのか」
「それは違うだろ」
「その通り! 恋人とベタベタするのも、好きになったのも、よくよく考えれば時間が足りなかったからだ。もっと一緒にいたいっていう感情があった。好かれたいとも」
「やっぱりそうなんだ!」
「ああ。それじゃあ何故俺が好きになった人間は女だったのかについてだ」
「うん」
「これは単純だ。本能」
「本能」
「あー、お前さ、腹減ったらどうする?」
「なんか食べる」
「それが本能だ」
「はあ」
「まあとにかく、俺は本能的に人間の女が好きだったってことだ。もちろん理性つきで」
「そうかあ」
「まだ終わってない。今までのが大前提。こっからが前提だ。さっき言ったように、最低ながら俺は子供が欲しいわけじゃないし結婚もまだしたくない。大切なのは一緒にいたいかどうか。従って、俺の恋愛対象は一緒にいたいと思える人間になってくる」
「そこは大事だな!」
「そうだな。そんでハッキリ言うが、人間の女なら誰でも、男なら誰でもいいってわけじゃない」
「そりゃそうだね」
「本題に入る。俺は今まで女が好きだったし、これからも好きだ。よって男のお前を恋愛対象として見れるか、これは中々難しいことだ」
「そうだね。だって今までの自分の世界を覆すことになる」
「ああ。感覚的には冥王星が惑星じゃなくなった時みたいだ」
「僕はどう足掻いたって人間が始祖鳥を祖先に持たないと知った時だと思う」
「そこはどうでもいい。でだ、俺は気づいた。俺はお前を男だ女だっていう枠で見てない」
「僕は今明確にお前の考えが分からなくなった」
「なんだろうな、お前はな、友達なんだよ。人間で」
「人間だね」
「俺はお前みたいに全人類が好きだなんていう許容範囲はない。嫌いな奴の方が多い」
「知ってる」
「その中でも、お前のことは一番だと思ってる」
「え゛……一番嫌いという……」
「ちげぇよくそが」
「突然の罵倒」
「性別とか種族とかそういう枠吹っ飛ばして特別な存在だと思ってるってことだ。純粋に言えば親友とも思える」
「有難い!」
「もっと簡単に言えば一緒にいて心地が良いな」
「僕もだ!」
「そして欲を言えばこれからも馬鹿やってたい。つまり一緒にいたいということだ。俺はお前のことが好きだし、だから嫌われたっていいと思う。好かれるに越したことはない。結論は、お前は恋愛対象になる。そうなるに充分な理由がある」
「ほ」
「ただし、理性的には、がつく。本能的には、まだ分からない。何せずっと女が好きだからな」
「んん? つまり?」
「はあ、俺はお前を恋愛対象として好きになれるってことだ」
「マジか! ありがとう! 好きだよ!!」
「なれるってだけであってだな」
「分かってる。でも種類や意味や理由は違っても、好きな人に好かれるかもしれないっていうのはドキドキするだろ!」
「……本能的にも好きになった時、今までの俺の世界は崩れ去るし、始祖鳥が人間の祖先だって認めざるを得なくなるんだろうな。ご勘弁願いてえー」