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SSSSs  作者: 年越し蕎麦
・無分類
4/47

落ちた鼻の話

 ぽとり。

 と、床に落ちたのは、どうやら鼻であるようだった。

 おれは咄嗟に自分の顔を触るが、中央には、しっかりと鼻がついていた。

 しかし、だとすると、この転がっている鼻は、いったい誰のものなのか。おれは怖くなって弟に訊きにいった。

「おい、弟よ、鼻が落ちているんだ。あれは、いったい、誰のだろう」

 弟はおれを馬鹿にするように笑って、

「なにをいっているんだい、兄さん。鼻が落ちている? それは、なんとも、愉快だね」

「ああ、そうだろうとも。だが確かに、あれは鼻だ。見にきてくれ、鼻なんだ」

「はあ、そこまでいうなら」




「こいつは驚いた。本当に鼻だ」

 床にある鼻を見て、弟は驚き、おれは、馬鹿にしたように笑ってやる。

「だから、いっただろう」

「いや、けれど、兄さん、これは誰の鼻なのだろう」

 自分の顔の中央を触り、出っ張りがあることを確認した弟は、不思議そうに首を傾げた。

「わからないから、お前に訊いてみたんじゃないか」

「ぼくに訊かれても、わからないものは、わからないよ。そうだな、なにか思い当たることとか、ないのかい?」

 ふむ、とおれは考え込み、

「突然、鼻が落ちたとしか。あ、と思ったら、足元に鼻が落ちていたんだ」

「ううん、なるほど。ならば兄さんは、鼻が落ちる瞬間は、見たのかい?」

「いいや」

 おれが首を振ると、弟は、かわいそうなものでも見るような目を向けて、いった。

「おかしな話だね。兄さんは、この鼻が落ちるところは見ていないのに、鼻が落ちた、と思った。そして、誰のものなのか、わからず、ぼくに訊きにきたんだ」

 弟は、床の鼻を拾い上げて、おれのほうに差し出した。

「ぼくは、これは、兄さんのだと思うよ」

 馬鹿なことをいうな、と口を開きたかったが、弟が、無理やりおれの手のひらに鼻をおく。

「諦めて大事にするのが、得策だと、ぼくは思う」

 弟にいわれて、おれは、顔の中央の元からある鼻を触って、それから、手のひらの鼻を、恐る恐る触った。

 手のひらの鼻が、ふん、と。空気を震わした。そうして、手のひらがじわりと温かくなる。


 どうやら鼻は、呼吸をしているらしかった。

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