またはムーンストーンの義眼
東の太陽は、夜になるとひょいっと姿を消す。
大体、夜の六時くらい。昼間は緑色に光り輝いている太陽が、徐々に光量を柔くして、そして突然いなくなる。代わりに、西の空に控えめな白い光を宿す月が現れて、おかげで真っ暗闇は避けられるのだけれど。ただ、その月も、ひょいっと姿を現しては、朝の六時くらいになると同じように消えてしまう。そして太陽が出てくる。
「お母さん、太陽って、一体どこから来てどこに行くのかな」
私にとっては月より太陽の方が身近な生活をしているから、ある日、不思議に堪え切れなくなって母に訊ねてみると、
「私より、太陽に訊いた方が早いわよ」
にべもなく返され、それもそうかと思い至る。じゃあ、太陽がいなくなる間際、あの空に向かって叫んでみよう。
街の外れの高台に登って、六時まで待つ。どんどん緑色の輝きが弱くなってきて、空の端から本来の黒さが滲み出してくる。寒さを伴ってやってくる夜は、もうすぐだ。
やがて、ふと、木の実がぽとりと落ちるように、太陽が黒色に飲まれて消えた。
西に現れた月を尻目に、私はすかさず叫ぶ。
「太陽さあん! どこに帰るのーっ?」
反響しているこの大声は、果たして、誰の耳に届いただろう。私の声が返ってこなくなった頃、駄目だったかも、と諦めながら溜め息を吐いた、ら。
丸い形の、下半分だけ。
鈍く弱々しい緑色の光を発する太陽が、闇の中、消える前と同じ場所に存在していた。
あ、目が合っちゃった。
心のどこか、頭の片隅でそう思って、半分だけなのは眠たいからなのだと何故か直感して、「ご、ごめんなさい。なんでもないの」小さく謝った。すると、とろとろと半眼が、今度こそ、夜闇の瞼に隠され消えた。
「そっか、あそこが家なのね」
問いに対する答えは、どうやらずっとあそこにあったみたいだ。
おやすみなさい、おはよう、太陽と月にそれぞれ挨拶をして、私はすっきりした気分で、足取り軽く家路に着くのだった。