または宇宙の体内
「僕はこれで宇宙が見れると思ったんだ」
さも自分は悲しいですと言わんばかりに顔を歪めて、その歪めた右目を緑色にきらきらさせて、彼は天を仰いだ。
「でも、駄目だった。これはただの義眼で、たとえ隕石と同じような成分をしていたって、あの天井の向こう、宇宙を見ることはできないんだ」
だろうな。と部屋の中、星さながらに煌めいている彼の右目を見つめ、思う。
とっかえひっかえしているその眼球は、今は透き通るような緑色の光を宿す、ペリドットが使われている。手に入れるのに苦労した特別な宝石、義眼。
それを無造作に外して、俯き、背を向けられ、
「なあ、どうだろう」
ぽつりと言われる。
「次は本当の隕石の欠片でも、入れてみようかな」
言われた俺は、数秒考えて、「いいんじゃない」ペリドットの義眼をはめてみようかなと呟かれた時と同じ返しをした。いいんじゃない。きっとそれでも宇宙を見ることはできないけど、でもだってそれお前の夢なんだろ。
宇宙に行けたら早いのに、残念ながら、その術は宇宙を知らない彼にはペリドットより手に入らないものだから。
「お前の右目に、宇宙が見れるかもしれないんだったら、いいんじゃない」
もう何度言ってきたか分からない俺の言葉に彼は振り返って、
「うん、僕は絶対見てやるんだ」
はにかんだ。
落ち窪んだ右目の僅かに開いた瞼の隙間からは、紛れもない、あの宇宙の一片が覗いていて、ああ、こいつはいつになったらその身が宿しているものに気づいて、そうして俺の夢ばかりが叶ってどれだけ幸福かということを非難してくれるのだろう、と仄暗い気持ちになる。
なあ、あの天井の向こうに、お前の望む宇宙なんてものはないんだよ。それはお前の中にあって、お前がどれだけ焦がれたって無駄なんだ。お前には、俺と、俺とお前を覆う半球状の、義眼のような世界しかないんだ。だから俺は、
「綺麗だな」
「ペリドットが?」
「……ああ」
宇宙を宿すお前の右目に、夢見てる。