夜ごとに太る女のために
妻は夜ごとに太るので、毎日新しいベッドを日中には買いに行かなければならない。
「お前、また太ったんだね。仕方がないな」
私は呆れつつも、妻のためにベッドを買いに行く。習慣と言えどこれが中々大変で、道中カマキリに食われかけたり闇に纏わりつかれたり、バリャルワに気をつけなければいけなかったりで、骨が折れる。けれど全ては妻のため。夜ごとに太る女には、毎日新しいベッドを与えないと、駄目になってしまうのだ。
しかし、この日はバリャルワに足止めを食っていた。私は苛立って言った。
「どいてくれないか、ベッドを買いに行かなきゃならないんだ」
バリャルワは、この世の最も醜い馬のような巨体を揺らし、ノコギリみたいな声を出した。笑っている。
「何がおかしい」
バリャルワはギコギコ笑い続けているだけで、答えない。悪態を吐くのも惜しくなり、私は彼と木々の隙間を通り抜けようとした。
その間際、ゾッとすることを吹き込まれる。――帰りは雨だよ……。
「うるさいッ、私は妻のためにベッドを買いに行くんだ!」
怒鳴り声を浴びせ、その場を駆け出した。
帰り道、忌まわしいバリャルワの虚言が天に誠と見なされたのか、どろどろと雨が降ってきた。私は絶望して使い物にならなくなったベッドを手放した。ああ、今晩に間に合わない。
泣きながら帰った私に、妻は昨日のベッドの上で魚の目玉を不思議そうに向けていた。
私たちは狭いベッドの中、身を寄せ合って眠り、私は涙を流し続けた。
光が昇り、涙がカラカラ干乾びて、ベッドが壊れた頃、私は妻だった女を見下ろす。
「……お前、また太ったんだね。仕方がないな」
私は果物ナイフで元妻の丸々した腹を刺した。
夜ごとに太る女のためには、そうするしかなかったのだ。私はもう一度泣き、そしてまた、今夜に備えてベッドを買いに行くのである。