偽億
ガタンゴトン。ここ長崎に来てから路面電車に乗ることが増えた。元々は別の場所に住んでいてそこにも路面電車はあったが、それにあまり乗ることはなかった。しかし、最近は歩いて家まで帰るのが苦痛で路面電車によく乗っていたのだった。
電車が止まる時の不快な音で僕は目が覚めた。少し眠っていたらしい。あたりを見回すとそこには一人の女性が・・・いるわけでもなく、いまは僕一人と運転手だけがここに乗っているようだ。
電車が一時停止をして扉が開くと、そこからほっそりとした髪の長い色白な女性が入ってきた。もう夜遅いというのに日傘をさしていたようで、電車の中でそれを丁寧に畳んでいた。日傘をたたみ終えると女性は辺りをきょろきょろと見回し、僕から見て右前にあった扉の近くに立ち、単行本を取り出し読み始めた。これだけ空いているのにどうして立つのだろう?僕は不思議でたまらなかったがそれを聞けないまま時間が経ち、ついに目的地についてしまった。僕は席から立ち上がり出口のほうへ歩き出そうとすると、女性も同じ目的地らしく単行本を閉じ僕の後ろをついてきた。電車を降りると外は真っ暗でひと気もなく、遠くにあるコンビニの光だけが頼りだった。何故だかわからないが、いつも通りではない。そう思った。大丈夫だ・・・危険なことは何もない、必死にそう自身に暗示して歩き出す。すると女性がフッと僕の隣に立った。その様子を僕は不思議そうに眺めていると、
「何で席が空いているのにあの位置に立っていたのか分かりますか?」
と彼女は聞いてきた。顔はよく見えないが、とても楽しそうな口調だった。僕はわからないという風に頭を横に小さく振ると、彼女はふふっと笑い、持っていたバッグに手を入れながら、
「実は私、さっき兄と父と母を殺してきたんですよ。とっても手こずりました。ギャーギャーうるさいんですもん。近所迷惑だと思いません?」
この女は何を言っているんだ?僕は唖然としながらその話をただ聞いていた。
「でも、家族を殺しただけではただの殺人犯になってしまって罪が重くなるので、全く関係ない人も殺して精神異常があったがための殺人にしたかったんです。精神異常者って認められれば罪も軽くなりますよね?だから、あなたが殺せそうかどうか私なりに判断するためにあそこに立っていたんですよ」
とても楽しそうな軽い口調で話しながら、彼女はバックから血で濡れた刃物を取り出した。彼女が僕を刺す瞬間に彼女の顔が見えた。パチリとした目をしていて、唇は赤いリップを塗っており、とても美人だった。おまけに髪の先を紫色に染めていたので、なるほど、確かにこれで僕を殺したら精神異常者っぽいなと思った。案外僕は落ち着いていたのだった。
Twitterのフォローお願いします。
@hobaghzgo9mje8s
あとコメント待ってます。