8 家族団らんと
お母様の部屋に行く途中、執事や侍女たちが次々と私を見るなり驚き、中にはさっきの私たちのように泣いて喜ぶ者もいた。まさかこんなに大勢から心配されてたとは。
そうこうしているとお母様の部屋に着いた。そして、お父様はノックした。
「マリア。入るよ。」
「はぁい。どうしました?ルイ様。……その子は……リリィちゃん!リリィちゃんよねっ?」
「お母様!会いたかったです!はい!リリアーナですっ」
ベッドに体を起こして座っていたお母様は今にも勢いよく飛び出しそうだったので、お母様の体の負担を減らすためにも私が先に抱きつきに行った。お母様もお父様と同じくらい、それ以上に優しく私を包み込んでくれた。今までごめんね、と何回も何回も言ってくれた。謝らなくても別に気にしていないのに。今こんなに愛されているから過去はどうだって良いと思った。
「マリア……リリィ……ぐっ……っ」
後ろの方でまたお父様が泣いている気がする。この人案外涙脆いというか、娘が好きすぎるというか。というかいつの間にか私のことを愛称で呼んでいる。お母様おと私の姿を見て気が張っていたのが緩んだのだろうか。
■ ■ ■ ■
このあとたくさん、ほんとにたくさんお母様とお父様と話した。お母様のベッドに私とお父様が腰を掛ける形になって。
まずは私がなぜいなくなったのか。7年間何をしていたのか。それと7歳まで私が言えなかったワガママ。だいたい全部話したが、ゲームの中に転生したとかは言えなかった。ヘンに困らせてまた心配させたくなかったからだ。
二人とも私が過去のことを思い出して悲しまないように片手づつ手を握ってくれた。それはとても心強かった。
「……話はわかった。つまりリリィは私のせいで大変な目にあったのか……。本当にすまない」
「いえっ、良いのですお父様!私が勝手に家を抜け出したせいで……」
「いいえ、リリィちゃんのせいではないわ。私もあの頃は病気にかかってて寝たきりだったのもいけなかったわ。これからは健康には十分気をつけるわね!リリィちゃんも帰ってきたことだし、私はなんでもできそうよっ」
あ!病気。といえばお母様の死亡フラグの阻止だ。感動の家族再会で忘れてた。あぶねぇ。本当にお母様には健康でいてもらわないといけない。
娘である私が帰ってきたことだし、精神面での回復は時間が解決してくれるだろう。というかもう大丈夫な気もする。……とすると、あとは健康的な習慣をしてもらおう。ずっと部屋に籠りきりであまり食事を食べていないとか言ってたな。だからまずは一緒に散歩したりして軽く運動させる。そして朝昼晩と3食栄養たっぷりの料理を食べてもらおう。この2つは私が説得すると実現できそう。
それ以外のことは追々考えよう。病弱なら首にネギでも巻いとく?冗談だけども。
「そうだわ。リリィちゃんに良いことを教えてあげる。実はねルイ様はね、リリィちゃんが小さい頃、リリィちゃんのことが好きすぎて緊張してなかなか会えなかったのよ。だから嫌いで避けたのではなくて、好きすぎて近寄れなかったのよ」
「えっ!」
「こ、こらっ!何を言うマリア!べ、別に私は緊張してない。それにあのときは仕事が忙しかったんだ……!」
「あらあら~?ほぼ毎日、今日は挨拶できなかったとか今日は目があったけど話せなかったとか相談しに来てたのはなんだったのかしら?」
お母様は悪い笑みを浮かべて楽しそうにお父様をからかっている。お父様の顔はだんだん真っ赤になってきた。タコみたい。
……まじか、お父様。小さい頃のお父様の印象はただただ怖い。よく殺気混じりの視線を感じたし、私が話しかけても無視された。まさかこれが照れ隠しだったとは。ツンツン多すぎるツンデレだ。なんかお父様が可愛く見えてきた。
「それをリリィの前で言うなっ。し、仕事が忙しかったのはほんとだぞ!当時はリリィみたいに突然失踪する子が数人いて、その行方を探っていたんだ。それでまさか我が娘もその被害に遭うとは……」
「あのとき、あなた相当荒れてたわね。リリィちゃんがいなくなった日からずっと寝ずに探してて……。大がかりで探していると思ったら、急にリリィは死んだと思えって言ってあのときは焦ったわよ!探すのをやめたのかと思ったら、前よりも熱心に探してて。あなたの考えが全くわからなかったわっ」
「……大勢で探すと色々と小回りが利かなくなるからな。それに荒れてたといえばマリアも相当荒れてただろう?自殺しそうになるのを止めるのに苦労したぞ……まったく」
「ふふふ。そんなこともあったかもね。でも今はリリィちゃんがいるからオールオッケイよ!」
私に向かってお母様はウィンクしてきた。私はお母様が生きてるだけでオールオッケイです。はい。
それとなんとなくグライアス家がわかった気がする。
父親が娘に厳しいのは溺愛しすぎて空回りしたから。そしてあまり娘に構ってやれなかったのは、愛情の空回りと失踪事件について調べてたから。リリアーナが失踪したときに娘を死んだことにしようと言ったのは、少人数ではないとある何かが調べられなかったから。母親は病気にかかっていて会えたくても娘に会えなかった。
お父様もお母様もほんとは私のことが大好きだけど個々にいろんな事情があってなかなか触れ合えなかったんだなぁ。なんだかホッとした。家族の絆は消えていなかった。
「おとうさまっ!おかあさまっ!これからは遠慮なく甘えますわね!覚悟をしていてくださいませ!」
今までなかった思いではこれから作り上げれば良い。今私が願うのはお母様の死をなくすこと。
さーて、明日からお母様とラジオ体操第一しよーっと!