閑話 とある男の子の話
僕は初めて人を美しいと思った。
僕がいつも見ている人は身分や名誉を気にして、僕や僕の父に頭を下げるばかり。本性は絶対明かさず、偽物の人格として接してくる。だからあまり人と関わりたくなかった。
まだ小さいのに見合い話もあり、何度もパーティーが開かれた。僕はそこで笑顔を絶やさずに挨拶にくる子たちの相手をした。
僕がいるところでは大人しく可愛らしい彼女たちも僕が少し席を外すと、たちまちウサギがライオンに変わったように目付きが変わり、女の戦いが始まる。
飾り立てた部分しか見せない彼女たちに僕は呆れていた。
その晩、月が綺麗だったのでみんなが寝静まった頃に屋敷を抜け出し、とりあえずたくさん歩いた。あまり人がいないところに行きたかったので、街から離れて森っぽいところに入った。そこはとてつもなく広く、一面が緑で窮屈な生活と正反対で気持ち良かった。
森を散策中に洞窟の入り口辺りに人が丸まっているのを見つけた。
倒れているのかと思って駆け寄ってみると、僕とそんなに変わらない女の子がすやすやと気持ち良さそうに寝ていた。
ふわふわとした髪の毛。色は暗くてあまりよく見えない。小動物のように小さくて守ってあげたくなる。まつげも長く、整った顔。
僕はその子に目から離すのができなかった。
__美しい。
それから僕は何度か夜に屋敷を抜け出して女の子がいないか見に行った。
いつも彼女はその森にいた。そして今度は昼に行って彼女に話しかけようと思った。いったい彼女は誰なのか、どうしていつもここにいるのか。話したいことはたくさんあった。
が、それは叶わなかった。
次来るときは話しかけようと決意した晩、僕は森から屋敷に帰る途中に突然気を失った。