7 視野は広くなりました
公爵家だけあって家はとてつもなくでかい。ほんとに。プールあるし。庭あるし。噴水あるし。
来たのが初めてではないのでそこまでは驚かないと思っていたが、7年ぶりの我が家は迫力がすごい。
7歳までの教養があるからうろ覚えではあるが、礼儀作法は大丈夫だろう。たぶん。みんな私のことなんて忘れてるだろうなぁ。
シナリオはこうだ。扉を開けるとばったり父親と始めに会う。冷酷な父親は数年ぶりに娘が帰ってもそっけない態度の上、皮肉を言い、リリアーナの心を酷く傷つけたっぽい。そしてまた相手にされず、幼少期と同じように孤独になる。父親が怖いリリアーナは何も反抗できずにいた。侍女たちからは娘が失踪してショックな上病弱な母親は、部屋に籠りきりで食事もあまり取らず半年前に亡くなったと知らされる。彼女が悪役令嬢と化するのに父親の影響は大きかったが母親の死も関係おおあり、悪役令嬢に同情するぅ(泣)……と、どこかのサイトで読んだ。ほんと、悪役令嬢への待遇酷すぎるゲームだな。
そしてこれから先私がその道を辿ると、なんてことでしょう!考え方が歪んだヤンデレ系悪役令嬢のグライアス・リリアーナの完成です!
……これはなんとか回避したい。
しかし希望はある。私が帰ってきたのは予定より1年早い。ということは__母親が生きている!!
だから私ができる最大限のことをして母親に生きてもらおう。それでシナリオが変われば私は病まずに済む!と思う!
いくら私に自我があるとしてもゲームの中なので急に本来のリリアーナが私の中に出て来ないとも限らない。だから本来のリリアーナが私のなかに現れても、リリアーナが病むための根元をなくせば良いと思い付いた。そうすれば彼女は暴走はしないだろう。
よしっ!そうと決まれば父親に冷たくされようが何されようが気にしねぇぞ!ドンと来い。
まず大きく深呼吸。そして私は覚悟を決め、大きな玄関の扉を開けた。
予想通りリリアーナの父親__グライアス・ルイバルトンは扉とは反対側にある豪勢な階段を降りてきていて私と向かい合う形で鉢合わせた。
「……っ!リ、リリアーナ、か。」
「はい、お父様。ただいま戻りました。リリアーナでございます」
「お前はもう死んでいるものと思っていた。あまり構ってもらえずにいたお前のことだろう、この家が嫌になって逃げ出したのだろう?」
目を大きく見開いて明らかに我が父は動揺している。それは良いとして、二言目は皮肉を言ってきたな。コノヤロウ。予想はしていたけど、マジでこいつ性格悪いな。こりゃあ、娘も性格悪くなるわ。
「いえ、別に逃げ出したわけではありません……」
これは一応シナリオ通りにへりくだっておこう。超反抗したいけど。
すると、お父様は私に背を向けて、そうか、と一言返事した。
やっぱり塩対応。もう仕事に戻るのかな。そんなに娘と話したくないのか。
そう思っていた。が、
「…………ぐすっ」
んんんんんん??あれ、いま涙をすする音したよね!?ここにいるのは私とお父様だけだ。なのでこのすすり声の持ち主は……ルイバルトン、厳しく冷酷な私のお父様。
待って、肩をひくつかせてるよ。遂に右手を当ててるよ。これは泣いてるな。
よし、さっきの仕返しにもっと泣かせてやろう。そう思い、私はお父様の方へ駆け寄る。そして、抱きついてみた。
「お父様……っ!」
「……ご、ごら。そんなに大きくなったのに……はじだないごとをするでは……だいっ。…………無事で良かった……!」
お父様は泣きながら私を拒むことなく抱き締め返してくれた。泣きながらしゃべってたからちょっと聞き取りづらかったとか思ってないとか言っておこう。
正直お父様がこんなに心配してくれているなんて予想外。泣いてるのかと思い、からかうつもりで抱きついたのに……嬉しすぎる。
私を包むその手はさっきまでの冷酷な人とは思えないくらい優しく温かかった。もう泣くことを隠すのをやめたお父様は子供のように大声で泣いた。もちろん、私も。
これはあくまで私の予想だけど。本来のリリアーナはさっきのように突き放された言い方をされて、すごく悲しんだ。だから父が私に背を向けたときに泣いているのに気づけなかった。周りも見えないほど7年間ぶりに会う家族の反応に傷つけられた。そして、ここから負の連鎖が始まった__のだと思う。
確かに前世の記憶も、ゲームの知識も無かったら私も気づけなかったと思う。ルイバルトンの優しさに。
「そうだ。リリアーナ、一緒にマリアのところへ行こうか。そこでゆっくり今までの話を聞かせてくれるか?」
お父様は微笑んで私の頭を撫でながら宥めるように言った。さすがお父様。さっきまで一緒にわんわん泣いていたのに、もう泣き止んで、まだなお泣いている私のことを気遣ってくれる。しかもイケメン。
さっき名前の出たマリア、とはグライアス・マリアンナ。リリアーナの母親だ。
もちろん、お父様の質問の答えは決まっている。
「……あ゛いっ!」
「ふっ、なんだその返事は」
お父様は苦笑しながら嬉しそうに言った。泣き止まないからへんな返事になってしまった。でも笑顔で返したから良いと思う。そうするとお父様は手を繋いでくれ、お母様の部屋まで一緒に行った。
今言えることは____お父様はツンデレ。