5 ガッツは大事です
イヤイヤイヤイヤ。わからなかったらどうやって元に戻るのよ。
喜んだのも束の間、今は絶望のドン底。もうすこしで手に入りそうなものが手に入らないもどかしさ。
領長さまは絶対何も知らなさそう……。だから自分で何とかするしかない。
衝撃の事実を伝えてから私はどうにかして呪いを解く方法を探した。私以外の西区域のみんなは荒れ果てた西区域の修復作業に追われている。
ヴァールスとグラシーのことは取り返すのかなと思い、領長さまに聞いたが、まずは修復が優先と、そしてこの復讐には私を関わらせたくないと言った。だから私が人間と打ち明けたのだろう。
なんとか呪いを解けないかと考えながらふらふら歩いてると、いつの間にか南区域のあの湖にいた。そこにはオーガンがいた。オーガンにダメ元で聞いてみるか。
『ねぇ、オーガン。魔法の解き方って知ってる?』
『魔法?んー、魔法をかけた人に解いてもらうか、念じるか、王子さまのキス?』
いや、最後のやつ絶対ふざけたでしょ。オーガンって乙女なんだ。
魔女を探すのも骨が折れそうだし、とりあえず念じることから始めるとする。
『もしかしてあんた魔法かけられてるのかい?』
『うん、そのもしかしてなんだよ。話すと長くなるんだけど……。』
『ふぅん。まあ理由は問題解決してからでいいよ。なんか手伝えることあったら言うんだよ』
『はーい!』
やっぱりオーガンは優しいなぁ。お姉ちゃんがいたらこんな感じなのかな。
オーガンのアドバイスを参考にしてみようと私は〝人間に戻れ〞と目を瞑って念じた。……何も起こらない。
__30分後、何も起こらない。もう無理。あかん、私意外と短気だ。あかんぞしかし。人間に戻りたいんやろ!根気強く!忍耐、忍耐!ガッツや!!
私の中のもうやめたいという諦めの感情の部分と人間になれたらが夢叶うかもという好奇心とが葛藤する。
もうこのまま西区域のみんなと過ごすのもいいかも。ヴァールスたちを助けにいくのも良いかも……。そう思ったときふと私の中の何かが、黒い闇のなかに入ったような感覚になった。
しかしその感覚は一瞬でなくなり、私は私だなと気づく。そう、夢見がち女ということに。
なので、2つの感情の葛藤の行方は、好奇心が圧勝に終わった。
実は人間に戻るとお姫様でイケメン王子と結婚__かも!!そう思うと妙に力が湧いてきた。
絶対転生したこのチャンスを無駄にしたくない。遂に念願の転生っていうことができたんだから物語のようにドキドキ幸せライフを送りたいーーーー!!!
ピカっと私の身体が光り、一瞬で光りに包まれた。光であまり見えなかったが、湖のそばの木陰から何か変な気配を感じた。
そして、
『私は幸せに______』
「なるんだーーー!!!……ん?えっ!声出てる!!」
あの巨大だった私の身体はその何十倍も小さくなっていた。
やっと私は元の姿に戻れたらしい。私は嬉しくてぴょんぴょん跳ねて喜んだ。横にいたオーガンのことも忘れて。
オーガンは明らかに驚いている。驚きすぎて固まっているようだ。でも、ドラゴンと人間は会話できないって言ってたなぁ。どうやってオーガンに説明するものか。
私が腕を組み悩んでいると、急に頭のなかに言葉が浮かんだ。
『お、お嬢かい!?ニンゲンって、えぇ!?』
うん、これはオーガンの言葉だな。……もしかして、ドラゴンと会話できる、とか?
それは嬉しいスキルじゃん。実は人間に戻ると今まで一緒にいたドラゴンたちとの関係が終わってしまうことがちょっとだけ寂しかった。だから私は嬉しくてにやけてしまう。
そしてもうひとつ、わかったことがある。
それはドラゴンになる前の記憶。というか、私が誰なのか、ということだ。