3 恐怖でした
長く間空いてしまいすみません。これから少しずつ頑張ります。
拝啓、お父様、お母様。先日帰省したばかりなのでお元気なのだろうと思いますが、お元気ですか。
そのときにお母様と理想の男性について語り合いましたよね。もちろん、お母様の理想はお父様のような方なので安心してください。
そしてされたいことや言われたいことなどもお話ししましたよね。私がされたいことはなんだったか覚えていますか?それは__
■ ■ ■
ドンッ。
「リリィ、それって本当なの?」
息がかかるくらい近くにあるロイアウトの顔。身長差もあって彼は屈む形で私の顔を見つめ、壁と自分の身体で私を板挟みにし、壁に手をついて私の逃げ場をなくす。私は恥ずかしさのあまり彼を見つめ返すことができない。
___そう、壁ドン。
お母様と笑いながら話していたあの頃には私が壁ドンを体験するなんて想像できたかった。それに壁ドンがこんなに恐ろしいものとは思いもしなかった。
前世の私は乙女ゲームや少女漫画の類いが好きな王子様を夢見る痛い女子だった。そんな私が男子にされたいことナンバーワンは〝壁ドン〞だった。すごくベタなこの行為、だからこそ真のトキメキが__と友達に熱く語っていたことを思い出す。
今でも前世でも憧れるシチュエーション。否、憧れたシチュエーション。今現在は憧れもトキメキもなく、そこにあるのは恐怖。先ほどから手汗がひどく、体温がいつもより高い気がする。
「つい魔が差して……だ、だってパンケー……キ……」
「どうしてウィリアムに?」
「えっと……口外しないと思ったからです。……すみませんでした」
「別にいつも一緒にいる女の子とかだったら良いんだけど、ウィリアムはねぇ。面白くないなぁ」
顔は笑顔なのに目は笑っていない。一向に私から顔を離すことをしないロイアウト。近い。とにかく近い。あと目の奥の表情が怖すぎる。
どうしてウィリアムはダメなのだろうか。ロイアウトのあんなに信用しているから大丈夫だと少しだけ思ったのに。
「ウィリアムは……誰にも言わないと思う……思います」
「さっきからウィリアム、ウィリアムって。僕よりもウィリアムの方がお好みかい?」
「ええっとー、それは……」
「それは?」
僕VSウィリアムじゃなくて、僕VSパンケーキだからね?勝者、パンケーキだったよ!というかいつ解放されるの……。
目を合わせないようにしている私を見てロイアウトは溜め息をつくと、私の首筋を強く吸った。
「……いたっ!な、何をっ!?」
「僕を弄ぶから少しお仕置き、かな。そのまま隠さなかったら周りの人に破廉恥だと思われるかもよ?僕はそれでも全然良いけどね?」
「っ!?」
慌ててみると私の首筋にくっきりとキスマークというものがついていた。人生初のキスマークか。わりと痛かった。
もちろん私はスカーフを首に巻いた。テンパりつつもなんとか。どうしてロイアウトはこう、私に迷惑なことしかしてこないのか。昔はこんなに意地悪ではなかったのに!
「今回は僕もちょっと爪が甘かったみたいだからこのくらいにしとくよ。でもねリリィ、僕は君の婚約者だ。今は偽りのだけどね」
少し儚げにロイアウトはそっと呟いた。私に話しかけているのか独り言なのかわからないくらいの感じだったので、私の頭は❬恐怖❭の2文字でいっぱいだったからほとんど聞いていなかった。が、悪寒がしたのは間違いなかった。
「……パンケーキは食べても良いよ。でも、僕とも食べてよね」
捨て台詞が可愛すぎではないだろうか。ロイアウトにギャップがあるとは……。
もちろん私はふたつ返事をした。パンケーキならいくらでも食べれるしね!




