2 生徒会にも休みがあります
「僕と同室の子は__ロメオトス・ケイトくん、ですね」
「……え?ちょっと聞こえなかったわ」
「だから、ロメオトス・ケイト。ケイトくんですね」
学園に着き、テラクトの荷物を整理している最中。
その名前は聞きたくなかった__!やっぱりフラグは立ってた!この世界で私が悪役令嬢であるかぎり攻略キャラとの接触は避けられないようだ。
思いっきり溜め息をつく私を不思議そうに見るテラクト。「お知り合いなのですか?」「誰ですか?」と問い詰めてくるが答える気にならない。それに私だってケイトをよく知らないのだから。
「こほん。私はテラクトの相部屋の子が来る前に部屋に戻るわね。折角の出会いに水を差してはいけないから」
「そんなに早く帰られるのですか?ケイトくんに挨拶なされば良いのに」
「ダメよ!……初めて来た自分の部屋に知らない女性が入り浸っていたら失礼でしょ?だからまた今度にするわね」
「は、はあ。それは残念です」
ごめんよ、テラクト。可愛い弟を困らせるのはとても心苦しいけど、いきなり攻略キャラに会うのは心臓が持たないんだよ。そんなに俯かれると言うこと聞いてしまいそうになるからやめてくれ……。今思ったが、カッコよく成長したテラクトの落ち込んでいる姿……モテるな。出会った頃から綺麗な顔立ちをしているとは思ったが、ここまで美男子になるとは。
いつかどこかの誰かと結婚する日が来ると考えたら惜しいな。姉としてしっかり相手を見定めよう。それに姉離れもさせなければ。テラクトは少々私に頼りすぎているところがある。……もしかすると逆かもしれないが。
可愛い子には旅よさせよ、テラクトもこの学園で色々学んでほしい。色々と。私はあまり干渉しないから。
「っと、お姉様。何か良からぬことを考えていませんよね?」
先程の表情の面影もなく、テラクトが怪訝そうな顔をして私を見つめてくる。……さすが我が弟。鋭い。だが私がここで考えていることを彼に話したとしてもヘンな顔をされるだけなので、笑顔で首を振ることにした。
■ ■ ■
テラクトと別れてから私はブラック企業の本部である生徒会室へ向かった。かれこれ1週間は休んだので、おそらく仕事は溜まっている。それを早く消費したいこともあって急ぎ足で目的地を目指す。
春期休暇ということもあり学園内は物寂しく感じられる。誰とも会わずに生徒会室に入るとそこにはウィリアムが黙々と仕事をしているところだった。いつもならロイアウトは確実にいるのに姿が見えず意外に思う。そして少し残念にも思ってしまった。……何故だ。
それよりウィリアムとこうして2人きりになったことは久しぶりだ。確か前は……私が階段から突き落とされてからの保健室でだったはずだ。あれきり私の身に危険が及ぶことはなくなったのだが……。やはりただの嫌がらせだったのか。
「ん?リリアーナか。どうした?そんなところに突っ立っ」
「あっ、いえ。私の仕事を少し消化しようかと思ってきたのですが……ウィリアム様だけですの?」
いかんいかん。心の中で話しすぎた。確かにドアを開けて動かないまま直立しているのはおかしいな、うん。
「今週は生徒会も1週間ほど休みだと決めただろう?だから皆いないのも当然だ」
「あぁ……そんな話もしていましたわね。ふふふっ。ずっと生徒会の仕事ばかりなので学園に戻ると無意識に生徒会(の仕事)のことを考えてしまいますわ」
「確かにここは過剰労働だからな……。それにお前も変わったな。前までは生徒会のことを殊更嫌がっていたのにな。今では無意識に考える程か」
「あはは……」
満足げに微笑んでるそこの王子。あたかも私が生徒会のことを頭から離れない程好きだと勘違いしているようだけど、断じて違う。好いてはいないから!馴れただけだから!あと私は定時に帰りたい系の女だからコツコツ仕事をやらないと夜までに寮に帰れないだけだから!サボってたら永遠に終わらないから!このブラック!
「来たついでです。私は先の仕事を終わらせて帰りますわ」
「いや、待て。リリアーナの仕事はさっき終わった」
「はい?どういうことですの?」
「私が先ほどやっておいた。……ちょうど私の仕事が早く終わりすぎたから……その、ついでだ」
「そんな!申し訳ないです……休日なのにわざわざありがとうございますわ。何かお礼を……」
「いや、必要ない。ついでだからな。そんなものをもらうためにやったのではない」
「でもっ!あの大量の紙切れを2人分さばくなんて……!考えるだけでゾッとしますわ!だからせめてお礼だけでもさせてくださいな!」
本当にウィリアムには感謝しきれない。心の底から叫んでお礼を言いたいくらいだ。もしかしてもしかすると私は1学期自由な時間が多いかもしれない。それに夏期休暇には帰省できるかもしれない。嬉しいこと尽くしではないか。しかしどうして私の分?まあ日頃の行いのお陰か。それに言ってないだけで他の人の分もやってるかもしれない。とりあえず私は彼にお礼をしないとバチが当たってしまいそうだ。
「うむ……では今度〝ぱんけーき〞というものを食べについていってくれないか?」
「パンケーキ、ですか?……別に良いですけど、なぜパンケーキですの?」
「先日家に帰ったのだが、どうやら私の妹がそれにご執心でな。つい勧められて気になってしまった。それに私はこう見えて甘いものが……好きなのだ。男がひとりで行くのはヘンだろ?だから付添人を__っ!すまない!婚約者のいる異性に言うべきことではなかった!忘れてくれ」
あ。忘れてた。私一応婚約者(仮)がいることになってた。しかし、この事は両親やテラクトにすら言ってない。それに婚約者ということも実は嘘に等しい。
パンケーキとロイアウト。天秤にかけると一目瞭然だ。
「全然問題ありませんわ!婚約者がいるということは……表向きだけですから!」
「え__?」
パンケーキが嫌いな女子がいるわけない。もう食べることはないと思っていた前世での好物を逃すわけにはいかない。ロイアウトには申し訳ないけど、ウィリアムならいいよね……?この1年で彼は気が置けない存在になったから大丈夫と信じる。彼なら口外しないだろう。
それから私は彼に婚約者になった経緯が語った。もちろんドラゴン関係のことは隠して。話終わったあと、ウィリアムは嬉しそうに「そうか。そうだったのか」と何度も呟いていた。
これで晴れて私はパンケーキを食せる。もう私の頭の中はパンケーキでいっぱいだ。パンケーキ最高。
「では、私がリリアーナと出かけても問題ない……と?」
「そうですわね!思いっきりパンケーキを食べましょう!」
「あ、あぁ。……まさかこんなことがあるなんて……」
美味しかったら今度テラクトにも教えてあげよう。パンケーキという素晴らしいスイーツを!




