22 時の流れは早いです
予想通り、夏期休暇には帰ることはできなかった。
お詫びの手紙を家に送ったところ、すぐに分厚すぎる封筒が返ってきた。お父様からの手紙とテラクトからの手紙がほとんどだった。加えてお父様のものは少し湿っていた。
本当に申し訳なかったが、仕方ない。なぜなら……あの日、生徒会に入った日以来、私に自由な時間はほとんどなかった。
しかし自由な時間はないがしっかり休息はある。偽りの婚約者付きの、に限るが。とりあえずロイアウトは私にベッタリ。お馴染みがいつもいてくれて嬉しいがスキンシップが激しいのが少し問題でもある。
学校の授業がなくても生徒会の仕事は山のようにあり、今までこれを3人でやっていたのかと思うと初期の3人には頭が上がらない。一週間のうち、2日ほどは休みがあるが帰省するには短すぎる。
そこで休みの日はだいたいロイアウトが学園の近くの街へ連れていってくれたり、オペラを観たりした。そしてたまにアッサムハルトとローズンいうおまけがついてきたり……。
生徒会に入って以来ローズンは積極的に私と仲良くしようとしてくる。私もローズンがただの生徒なら喜んで仲良くするだろう。でもこの子はただの生徒ではなく、中心にいなければならない生徒だ。だからなるべく一線を引いて接している。
そしてたまにローズンは私の行動に目を見開いて驚くことがある。……いや、私が急に逆立ちしだしたり歌いだしたり珍行動したわけではないことはわかってほしい。うん。
そんなこととは逆で私が彼女に優しく接したときに限る。例えば先日、ローズンが顔が見えないくらいの大量の資料を抱えて階段を下りていたので半分持つと手伝った。すると、「ありがとう」よりも先に「どうして……」とぼそっと言われた。しかしすぐに我に戻ったようで、にこりと「ありがとうございます」とめちゃくちゃ可愛く言われたが。
というような感じで私はなんともいえない複雑な心境なのだ。ローズンに対しての接し方がわからなくなってきた。しかしあんなに重いものを持ってて手伝わない方が良心が痛む。私の行動は間違っていないと信じたい。
次にアッサムハルトについて。彼はロイアウトへの対抗心が強い。ほんとに強い。生徒会長の座を引きずり下ろしたいのかってくらい。
だが対抗心が強いにも関わらず休日はロイアウトと私と出掛けたりもする。実はロイアウトのことが好きなのか。ツンデレか。私の父親かってツッコミたい。
という感じでなんとか生徒会でもやっていけているのだ。初めの方は嫌で嫌で仕方なかったが、人間慣れれば耐性がつく。今はもうなんとも思わない。
ナイツハイル主宰の生徒会で親睦を深めようの会が不定期で行われ、6人でアフタヌーンティーをすることもあった。ちなみに昨日も行われ__
「リリィ、あーんというものをしてくれないかい?」
ロイアウトは私に挨拶するのと同様に何の躊躇いもなくさらっと言ってのけて、一口サイズのフィナンシェを指差す。
「はいっ!?」
「か、会長!場所は弁えてください!」
もちろん私は突然のことに赤面してしまった。しかし私よりもウィリアムの方がリアクションが大きかった。ウィリアムは立ち上がり、顔を赤らめながらロイアウトに対して止めるように言った。
「リリィ様がダメなのなら私がしてあげますよっ」
「リリィが良いのになぁ。リリィは僕の婚約者なのに」
「っ!」
ローズンのことは特に気にもせず、ロイアウトは挑発するようにウィリアムで遊ぶ。このやり取りは何回目だろうか。いい加減私の立場も考えてくれ。
確かに私はロイアウトの婚約者だ。しかしあくまでも偽りの婚約者。
それにウィリアムもウィリアムだ。治安を維持したい気持ちはわかるが、こんなに毎回毎回この調子乗りに突っかかると彼の思う壺だ。
それを楽しそうに見守るナイツハイルや般若のような顔のアッサムハルトも見慣れた。
__こんな毎日が続いていき、ロイアウトのお陰かもしれないが私の命に関わる大きな事件も幸い起こらなかった。
■ ■ ■
月日は流れ、春。実家へは元旦辺りに帰ることもできたが、すぐに学園へ戻らなければならなかった。両親には会えたがテラクトには会えなかったことが少し心残りだった。ブラック企業の生徒会を恨むしかない。
やっとゆっくりと帰省できたのは終業式が終わってから数日後だった。つまり、テラクトの入学の準備は手伝うことができそうだ。
久しぶりに会うテラクトを楽しみにしながら馬車の中で生徒会の資料を片手に仕事をこなす。




