20 嘘をつくのは心苦しいです
ヴァールス……ではなくロイアウトの婚約者のフリをし始めてそろそろ1ヶ月が経つ。
約束を交わしてからゆっくりと私とロイアウトの婚約話は広まり、今では全校生徒が知っている。
私がロイアウトの婚約者であるということもあり、女らしい嫌がらせはなくなっていった。確かにあの生徒会長の婚約者に手を出すとどうなるかわからないもんね。嫉妬より自分の安全を第一に考えるのが普通だ。
それに私は良くも悪くもクラスでは孤立している。これは以前と変わらないと思うだろう。しかし全く違うのだ。
前は私を空気扱いしてくれたお陰で私が何をしようが皆気にしてなかったのだか、今は私の言動や行動すべてに気を使ってくれている。例えば、私が「あっついなぁ」と独り言をこぼすと、窓側の席の生徒はすぐに窓を開けて風通しを良くしてくれたり。
しかしこれはまだ良い方だ。迷惑なことと言えば、私とジェニーが食堂へ行ったときだ。食券を買って列に並ぶとみんな前へ前へと譲ってくれる。そして私が空いている席を探して辺りを見渡すと、一斉にみんな立ち上がり私たちの周りの席を空席にしてくれる。
なんというか、有り難いのだが普通にしてほしい。あくまでも偽物の婚約者なのだから。私がこんな手厚くされるのは申し訳ない。
それに前よりも息苦しい。以前は私のことなんて見て見ぬふりくらいだったのに、今は目を光らせて私の方を見る視線が痛い。勘弁してくれ。
「まさかリリィちゃんが会長サンの婚約者だったとは残念だなぁ~」
「……そのセリフ何回目よ。そろそろ私をからかうのはよしなさい」
「えー、だってさぁ、好きな子に婚約者がいただなんて凹むからさ?少しくらい俺の傷を癒してよ」
「アッサムくんってリリィちゃんのことが好きだったの!?」
「たぶんそれは嘘よ。信じちゃダメよ」
「つれないなぁー」
机に突っ伏した私を囲むのはいつもながらこの2人。なんだかんだ良いながらこの3人で話すのが日常になり、唯一落ち着ける。
まさかアッサムハルトに心を許す日が来るとは……。相当私は精神状態が不安定なんだと実感した。
「でも、生徒会長様が婚約者だなんてびっくりだよ!さすがだね!」
「あはは……。私もびっくりだよ……」
ジェニーに嘘をつくのが辛い。ウィリアムと私が婚約しているという嘘を打ち明けるとジェニーは泣いて喜んでくれた。それに自分のことのように彼女は毎日嬉しそうにしている。だが本当は違うのだと思うと、ジェニーの笑顔を貶したようでとても心苦しい。
彼女には言っても良いだろうかと何回も思った。しかし、彼女は正直者なので感情と表情が同じだ。だから彼女に嘘をつき続けることができないだろう。ジェニーのそういう良いところが今は無ければ良いと思ったりもした。
ごめん、ジェニー……。心の中で何百回言っただろうか。何回言っても気がすまない。
「ほーんと、すごいよねぇ。……まるで嘘みたいだ」
うん、そうそう嘘なんです。……え。まさか、ね。
「……嘘じゃないわよ失礼ね。生徒会長様に無礼よ?」
「ごめんごめん。まあリリィちゃんが僕たちに嘘なんかつくはずないもんね。僕たちの仲だし?ねぇ。結婚式にはぜっったい招待してね」
はいはい。と返事は雑に返したが。まさかアッサムハルトが気づいているはずない。あいつがそんなに頭が良いわけでもないし。
すっごく嫌みっぽく挑発されたのは気のせいだろうか。いや、気のせいではないよな。僕たちってすごい強調してなさってたよね。私に罪悪感を抱かせるためかな。それとも素かな。どっちにしろ良い性格してんな、アッサムハルトめ。
「私、今日も放課後生徒会室に行かないと行けないから先に帰ってて。変な人について行っちゃダメだからね」
「わかってるよぉ。ほんとにリリィちゃんはお母さんみたい!」
「俺も生徒会室に用あるからついて行ってもいいよね」
「行く前提なのね。まあ、良いけど。何の用事なの?」
アッサムハルトと生徒会なんて何の接点もないはず。あるとすれば攻略キャラということだけ。それとも私が認知していない設定でもあるのだろうか。とても何しに行くか気になる。
そしてアッサムハルトはにやりと片方の広角を上げていつものようににやけて……笑って言った。
「んー、野暮用ってやつ?」
なんじゃそりゃ。じゃあ行くなよ。めんどくさいことに巻き込まれそうな気がして仕方がないじゃんか。




