15 悪夢は続きました
なぜ来るんだメードリア・ウィリアム。お前の居場所は私の正面ではなく、ローズンの正面だろうが。
私の心の声なんて届くはずもなく、ウィリアムはずんずんと私の元へやって来た。
「次は私の相手をしくてくれないか?」
ウィリアムはいつもより優しい口調で私に右手を差し出した。
ロイアウトのあとにウィリアムに誘われている私はこの多目的ホールの中で一番目立っていることだろう。
女子の目線はさらに鋭くなり私は穴があれば入りたい気持ちだった。もし私がこの申し出を断ると女子から憎まれなくなるということはなく、どうしてウィリアム様のお誘いを断ったのかという感じで恨まれる。かといって受け入れたとしても私が恨まれるのは目に見えている。
どちらを取るか……。私は悩みに悩んだ。ウィリアムの発言から長い間、沈黙が続く。とても良い空気とは言えない。後ろの方でこそこそと女子生徒たちが話し出した。「あの子ったら良い気になって」とか聞こえてるから!地獄耳なめんなよ!
そしてウィリアムもなかなか私が返事しないからか、私の様子を伺いながら少し悲しそうな顔をしている。弱っている柴犬みたいな顔。
……ええい、もう、どうにでもなれ。踊れば良いんでしょ、踊れば!
「ぜひ。よろしくお願いいたしますわ」
これ以上にないくらい微笑んだ。
私はウィリアムの手を取り、先導するように彼をホールの真ん中へ連れ出した。もちろんウィリアムは目を丸くして私にされるがままになっていた。
こうなったら目立つだけ目立ってやる!どうせ隅っこで踊ったってみんなの視線は私たちに向くんだから!
「リリアーナ嬢、貴女は本当に面白い」
さっきの弱った顔とは違い、ウィリアムは小さい子供を可愛がるような笑った目で私を見つめて言った。何が面白いのか、私は何一つ面白くはないのに。心の中で思ったことを言ってやろうかと思ったが、現在私はご令嬢のため奇行は慎むことにした。
「……ところで、ローズン様とは踊らなくてよろしいのですか?」
よろしいはずがない。ウィリアムと結ばれるのはローズンなのだから。このパーティーでヒロインはウィリアムとダンスするイベントがあるはすだ。だから必然的に彼女と踊るはずなのだが……。
今のところローズンと接触している感じではなかった。だからこれからだろう。
少しでも彼らの手伝いになれば、と私はローズンの名前を出した。しかしウィリアムはなぜローズンの名前が出たのかがまるでわかっていないようだった。頭上にクエスチョンマークが大きく浮かんでいる。
「ローズン嬢?いや、踊る予定はなかったのだか……。もしや、リリアーナ嬢は……私と踊るのが嫌だったか?」
はい、嫌です。でも言ったら私はこの学園で生活しにくくなる。だから私は全く嫌ではない、という意思表示を必死にしながらもローズンと踊ることを勧めることにした。
「私と踊ってくださるのはとても嬉しいです。ですが、私なんかよりローズン様のような可愛らしくて皆から慕われている女性の方がお似合いだと思うので」
「……。リリアーナ嬢、あなたは自分を過小評価しすぎだ。もっと自信をもって良いのだと思うが」
「私のことなんて良いのです。会長様は自分の立場を考えてほしいのです。こんな地味でなんの取り柄のない私よりもっと良い方々がいらっしゃいます。だから、この曲が終わったら……ローズン様など、素敵な方をお誘いするのがあなたの為です」
私は何が何でもウィリアムとローズンをペアにさせたかった。その気持ちが強すぎて、少しごり押し気味な気もするが……。これがシナリオだから仕方ないよね!と開き直る。
当のウィリアムはというと、物凄く不服そうであった。なぜだ。私は彼がローズンと踊りやすくするための架け橋となろうとしたのに。
そろそろ曲が終わる。終わればこっちのものだ。すぐに離れ、ウィリアムはローズンと踊る。それがシナリオなのだから。
■ ■ ■
2曲目が終わった。私は一礼をしてウィリアムに「ローズン様ですよ」と小声でアドバイスをしてホールの端の方へと駆け出した。
その時ウィリアムが私の腕を掴もうとしたことは誰にも知られることはなかった。




