3 情報量多すぎです
目の前の光景は想像以上のものだった。
西区域は南区域ほど植物の数や種類は多くはないが、ブナやケヤキなど落葉広葉樹林が多く、涼しく、妖精がいそうな神聖な雰囲気だった。そんな西区域が私は好きだった。__しかし、その影はひとつもない。
木々は倒れ、芝生だった地面も何かが引きずられたあとのような痕跡があった。しかも、所々に赤黒く生々しい液体が散っていた。これは年齢制限かかるレベルにグロい……。
あの神聖な西区域の面影は何一つなく、私の周りは戦争に負けた戦場のようだった。
私は血の気が引くような感じがした。悠々と昼寝していた自分が物凄く情けなく感じた。
『……だれ、か……っ!』
涙を堪えて叫ぼうとしたが、残念ながら自分が思っているより精神的ダメージは大きいらしく思い通りに叫べない。頑張れよ!わたしっ!
『お嬢。……南区域にいてくれて良かった。お嬢が生きていてくれただけで皆、喜ぶ』
ふと声をした方を見るとそこには西区域の領長さまがいた。
領長さまはどこか儚げでいつもより弱々しく感じた。私はすぐに西区域のみんなのことを聞いた。すると領長さまはゆっくりと丁寧に状況を教えてくれた。
犠牲となって連れていかれたのは2体。今まで西区域の襲撃はあったものの、みんなで反撃して負傷したりはしたけど、なんとか犠牲者なしだった。
西区域には全員いたわけでもなく、私のように他の区域にいたドラゴンもいるようだった。
その犠牲となったドラゴンの内、1体はグラシーというまだ小さいドラゴン。もう1体はヴァールスというドラゴン。
グラシーが狙われて、助けにいく形でヴァールスもやられたらしい。ヴァールスとは毎日遊んでいた仲なので悲しくないわけがない。グラシーはヴァールスの弟だ。ヴァールスいいやつだったなぁ。グラシーは前世の私の弟より可愛かったなぁ。
私が2体に思い馳せていると、領長さまは急に何かを決意したように私の方をじっと見つめた。
『もう良い頃だと思って、お嬢にはもう1つ言っておかなければならぬことがある。実は、お嬢は、ドラゴンではなくニンゲンだ。今まで黙ってて悪かった』
うんうん、ニンゲンね。
__ん?ニンゲンってなに。人間のこと?待って、領長さま何言ってるの。
ドラゴン狩りのこともあって、頭いっぱいなのに人間てか。こりゃ、脳内キャパオーバーですな!……ちょっとキャラ取り乱したな。
『り、領長さま!ニンゲンってあの人間?直立二足歩行するやつ?祖先がホモサピエンスのやつ?どういうこと!?』
ホモサピエンスと言ったとき、領長さまは明らかに頭の上にハテナを浮かべていた。ごめん。
どうやら私は人間らしいです。