1 前世を思い出しました
とある日、男の子は家から抜け出したそうだ。それもみんな寝静まった頃に。そして、
幼い女の子を見たそうだ。
女の子は街から離れた森の洞窟に丸まるように寝ていたそうだ。
その娘の髪の毛は綺麗な胡桃色だったそうだ。ふんわりとした髪、真珠のような肌、瞑っている目のまつげは長く、人形のようだったそうだ。
男の子は時間も忘れて見惚れていたそうだ。
× × × × ×
ここは日本ではないことはすぐにわかった。だって、高層ビルとか見慣れたものが何一つない。今いるのは森っぽいところ。目の前には大きな湖。
つまり私は__生まれ変わった。だって、私は亡くなったんだから。
転生するって本当だったんだなってつくづく思う。前世の私は転生する恋愛ファンタジー小説が好きなこれからが楽しみな大学生だった。と、最近思い出した。
やり残したことは……海外旅行に行けなかったことかな。
受験も終わって特に頑張っていることもないし、彼氏がいるわけでもないし、心残りが少なくてホントによかった。
ああ、そうだ。お母さん、お元気ですか。私は元気です。親不孝ものでごめんなさい。
私はネット通販の支払いをしにコンビニに行った帰りに、自動車事故に巻き込まれて亡くなった。信号も見もせず、歩きスマホをしていた自己責任だったから、車に乗っていた人には本当に申し訳ない……。
まあ心機一転!よしきた!私の大好物の転生もの!絶対ご令嬢だ!次の人生で頑張ろうと思っていた。__が、しかし。
なんで私''ドラゴン''なの?
普通、転生系って美少女に生まれ変わるんじゃないの?それでどこかの国の王子様と結婚しないの?
私がよく読んでたネット小説と違うくない?
だって、湖に映る私の顔は目が横に付いていて、鼻がぐーんと長くて、それにともなって口も長く大きく。ティラノサウルスのようだった。
水面からだと色は見にくいけど、たぶん、ベージュっぽい茶色系。
声を出そうとすると「グルアアアーーッ」とめっちゃ響く。うるさいぞ、自分。
……神様、私何かしましたか。