1.サナギ
前を歩く高校生ぐらいのカップルが、なにか口論をしている。
広角につばを飛ばし、道行く人々に迷惑そうな顔をされ、犬にほえられ、原付のバイクは事故を起こし、携帯を持ったサラリーマンが跳ねられる。
「だから、太平洋を回遊する魚だってば」
「それで、サナギ?サナギが海をおよぐの?」
「さなぎじゃなかったらなんだ。ヤナギか?木がおよぐのか?」
酔っ払いが足をもつらせてゴミだめに突っ込み、露出狂が全裸で奇声をあげながら走っていく、タクシーの運転手がタバコを燻らせ、コンビニの店員が眠そうにあくびをする。
「サナギは、たれをつけて焼く料理がうまいらしいよ。カバヤキとか言うやつ。コンビニにも10円で売ってるしさ。本当、サナギさまさまだよ」
「サナギの後ろかな。あれ、ヌルヌルしているよね」
「あれには掴むこつがあってだな・・・」
カップルはコンビニに入っていく。蒲焼さん太郎を30パック、300円分購入し、店を後にする。
「ほら、これ。似ても似つかないけど、これはサナギだって。まちがいない」
「サナギがこれになるのか・・・なんだかかわいそう」
「そんなことは無いよ。サナギだって俺らに食べられることをうれしく思ってるって」
「それよりさ、パッケージにはカバヤキの写真がばーってはってあるけど、内容量はスケトウダラになってるよ?詐欺じゃないの?」
「そうかなぁ。もしかしたらスケトウダラのことがサナギなのかもしれない。似てるじゃん、語感がなんか」
彼らは、サナギでも、ヤナギでもなく、スケトウダラでもなく、ウナギであることに気がつかないのだろうか。
ウナギの力は偉大である。時にはこのように、サナギと間違えさせるほどの能力を秘めている。
しょうゆ味に味付けされたサナギがカップルに食べられていく。
蒲焼さん太郎が残り半分ぐらいになったところで、カップルはビルの角を曲がっていく。そして右から来たトラックに跳ね飛ばされた。
え、これ続くの?と思ったら続きません。
え、これで終わり?とおもったなら続きます。
そんなもんです。迷惑です。
真剣だけど。