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人の姿をした獣。  作者: 三毛猫さん
1/1

あの日のことは、


『ショッピングモールの入口前に咲いている桜の木の近くで正午に集合』


『遅れたらアイスおごり( ̄▽ ̄)』


 日曜日の午前九時。

朝起きたら僕の家の向かいの家に住んでいる幼馴染の愁からメッセージが来ていた。


『今起きた』


『何か買うの?』


 眠くて文字が早く打てないなとか、二度寝しようかなとか考えていたらすぐに返信が来た。


『兄ちゃんが映画の前売り券くれた!』


『他の予定が入ったんだって!』


『一緒に観に行こ!』


 愁からのメッセージに僕は、了解って書いてある紙を持った猫のスタンプを送信した。

出かける準備をしようと思ってベットから起きてカーテンを開けた。

窓の外を見ると、桜が綺麗に咲いていた。



 十一時五十分頃。僕は桜の木の下にあるベンチに座り、本を読みながら愁が来るのを待っていた。

けれど、愁は待ち合わせの時間になっても来なかった。

どれくらい待ったのかは覚えていないけれど、本を一冊読み終えることが出来たから、多分一時間くらいは待っていたのだろう。僕は愁の家に迎えに行こうと思い、本を閉じて立ち上がった。

 すると、僕の目の前を歩いている男女が視界に入った。

何故かはわからないが二人のことが気になった。

どこかで会ったことがあるかもしれない。何故かそんな気がした。

二人は楽しそうに会話をしていた。普通に会話をしていた。


「俺がなんで朝倉と付き合おうと思ったか知ってる?」


「私の笑顔が好きだからって告白してくれた時に言ってくれたよね」


 彼女は少し頬を赤らめながら答えていた。


「うん。俺は朝倉の笑顔が好きなんだ。ずっと俺と一緒にいてほしい」


 男は、そう言いながら彼女のことを抱きしめた。

彼女の頬は、まるで林檎のように赤く、真っ赤に染まっていた。

 僕は、彼女が頬を赤らめながら照れているのを見て、なんだか二人の世界を勝手に見てはいけないような気がして少し下を向いた。

すると、アスファルトの地面を花を持ちながら歩いている少し大きな蟻が視界に入った。

蟻が小さな花を持ちながら、ちょこちょこと歩いている様子を見て僕は、ポケットからスマホを取り出して、写真を撮ろうとした。可愛いな。写真を撮って愁にも見せてあげよう。そんなことを思いながらシャッターを押した。

 その瞬間、アスファルトが赤く染まった。

僕のスマホに保存されたのは、赤い液体を全身に浴びている蟻の写真だった。

小さな花は地面に落ちていた。

驚いて顔を上げると、頬以外も林檎のように赤く、真っ赤に染まっている彼女がいた。

男が彼女のことを咬んでいた。鋭く尖った歯で彼女の首を咬みちぎり、食べていた。

彼女の首筋にキスをしながら、彼女の血を飲んでいた。

 救急車を呼ぶ? 警察に通報する?

どうしたら良いのかわからなかった。恐怖で身体が動かなくなっていた。

周りにいた人達も同じだった。誰も何も出来なかった。動かなかった。

しばらく経ってから、男は僕のことを見て、何かを言いながら彼女の鞄を持ってどこかへ消えていった。

男はしゃくりをあげながら泣いていた。

 その後のことはよく覚えていない。いつからか僕は自分の部屋でテレビを見ていた。

テレビには、僕の目の前で起こった出来事についてのニュースが映っていた。

司法解剖の結果がおかしいとか、男がまだ逮捕されていないとか、彼女の友人が泣きながらインタビューを受けている様子とか、男は僕の家の向かいの家に住んでいたとか、愁や愁のお母さんも事件に巻き込まれていたとか、色々なことがニュースになっていた。





「……ん、桜庭くん!」


 隣の席の兎田の声で、はっと我に返った。

また、あの日のことを思い出してしまっていた。


「ごめん。ちょっと考えごとしてた」


「全然大丈夫だよ。それより転校生きたね」


「え? 転校生? どこ?」


「黒板の前にいるよ」


 兎田に言われた通りに黒板の前を見ると見たことがない人が黒板の前に立っていた。

髪は烏の濡れ羽色。肌は雪のように白い。ガラス玉のように綺麗で大きな瞳。

丁寧に、丁寧に作られた人形みたいな人だと思った。

 

「夜桜舞です。父の仕事の都合で引っ越してきました。よろしくお願いします」


 鈴の音のように透き通った声。

胸の鼓動がいつもより早くなっているような気がした。


「夜桜の席は桜庭の後ろだ。窓側の席の一番後ろ」


 担任の先生は僕の後ろの席を指差ししながら言った。

転校生はこくりと頷き、僕の方へ歩いてきて、僕の後ろの席に座った。

立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花とはこのような人のことを言うのかな。

歩く姿も座る姿も綺麗だった。


「僕は桜庭……桜庭弓弦!よろしく……」


「桜庭くんですね。私は夜桜舞です。よろしくお願いします」


「えっと……夜桜って呼んでも良いかな?」


「もちろんです」


 夜桜は、そう言いながら少し微笑んでくれた。

その表情も人形のように綺麗だった。








初めまして。三毛猫です。

拙い文章ですが、読んでくださりありがとうございます。

誤字脱字などがありましたら教えていただけると嬉しいです。

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