サタン・クロースの反省
俺の名前はサタン・クロース。
この時期間違えられやすいけど、
サンタクロースじゃなくてサタン・クロース。
いつもカラスみたいに真っ黒な服をきたいなせな悪魔。
仕事は将来、悪の世界を背負ってたつ悪の逸材をスカウトすること。
で、趣味は読書。最近は仕事に行き詰まってるから
ビジネス書を読むことが多い。
今読んでた本に名言があった。
『一生懸命努力してるのに報われないじゃない。
努力の量が足りないんじゃなくて、仕方が間違ってるんじゃない?』
なるほどね〜。
今日はこの言葉を意識していってみよう。
リトル・ミイという人の言葉らしい。
どんな奴かしらないが、相当な強者なんだろう、リトルミイ。
俺はリトルミイ名言集を鞄にしまって、
今回のターゲットのプロフが書かれた「見込み悪魔」シートを取り出した。
ふむふむ、今回のターゲットは小学生か。
河川敷公園で小学生数人が遊んでいる。
近づいてみると、惚れ惚れするほど、
悪賢そうな顔をした少年が数人の少年たちを指揮して、
一人の少年を小突き回している。
なるほど、見込み悪魔リストの小学生は
この狡そうな顔の子かな?
と思ってシートの顔写真を比べてみると全然違う。
あれと思って他の子を確かめてみると、
なんと、小突き回されている小柄な男の子が
今回の「見込み悪魔」みたいだ。
え〜、この子に悪の才能があるのかよ・・・・。
俺は彼と話をするために、少年たちに近づいた。
「おい、君たち!」俺としては友好的に接したつもりなのだが、
いじめていた少年たちは何か恐ろしいものでもみたように
散り散りになって逃げはじめた。
危ない人にでも間違えられたのだろうか?
で、ターゲットの少年と二人きりになり、
話しはじめると、オレは歓喜に包まれた。
「おじさん、助けてくれてありがとう、なんて僕は言わないよ」
なんていう、なんとも可愛げのある小憎たらしい言葉のあとに、
彼は悪魔候補としての片鱗をオレに披露してくれた。
それは彼のいじめっ子たちへの、
用意周到、綿密精細な復讐計画であった。
その計画が実現すれば、
いじめっ子たちは、地獄に堕ち、
悪魔となった彼に額を地面に擦り付けて許しを請うことになるだろう。
この緻密な計画を立てることのできるこの少年、只者ではない。
もしも、オレがこの少年をスカウトすることに成功できれば・・・
悪魔スカウトマンとしてのオレの将来も・・・・・。
と、妄想していると、突然、少年は泣きはじめた。
「いつも、こんなことばっかずっと考えてるのに、
僕はだめなんだ、いざ、あいつらの顔を見ると、なにも言い返せなくて・・・・・」
う〜ん、これほどの逸材の才能がこのままでは腐ってしまう。
この素晴らしい計画を立案できる優秀な頭脳、
この世を悪に染めるために
ぜひとも役立ててもらわなければならない。
そしてオレの出世のあしがかりとしても・・・・。
その時、オレは先ほど読んでいたリトルミイの名言を思い出した。
『一生懸命努力してるのに報われないじゃない。
努力の量が足りないんじゃなくて、仕方が間違ってるんじゃない?』
その言葉をオレなりに解釈し直して少年に提案した。
「君の計画はすごいよ。
そこまで、しっかりと考えるってことを出来る人はほとんどいない。
だけど、うまくいかないのは、努力の量や、計画の質じゃなくて、
努力や計画を向ける先が間違ってるんじゃないのか?
どうだろう?こんな場所にいないで、
つまり、ここは、一時的にはかっこ悪く思えてもさ、
ここは逃げてさ、違う場所で、君の能力を活かすことを考えないか?」
オレはなかなか決まったかな?
と自分で気持ちよくなりながら語ったが、
少年は、今までの自分の努力を否定されたことに頭がきたのか、
世にもまれな凶悪な顔でオレをにらみつけて去っていった。
おれはその悪魔のような表情に惚れ惚れとした。
翌朝、彼を悪魔候補生として迎えるための契約書に
サインをもらうために学校に向かった。
ところが、彼は登校していないようだ。
仕方ないから自宅のほうに行ってみる。
カラスの格好に化けて庭先に回ると、
リビングで家族がいやに幸せそうに会話しているのが見えた。
昨日の彼の惚れ惚れするような憎たらしい顔は一切ない。
お父さんとお母さんと3人で楽しそうに会話している。
あれっと思っていると、近くに白いネコがやってきていった。
「まいど~、サタンちゃん。
あんたの後をつけていると、いっつも面白い子に会うんだよね〜。
さっき、もう天使候補にスカウトしてサインもらっちゃった!
彼、親にいじめられてたことを伝えて転校することに決めたんだって!
あの、頭の良さは天使になって、世のため人の為に働いてもらわないとね〜」
と一気にまくしたてて、
泥棒猫こと、天使のミカちゃんは、
天使の姿に戻って羽根をぱたぱたさせて飛んでいった。
また、やられちまった。
どうにもおれの努力は報われない。
努力の量が足りないんじゃなくて、仕方が間違ってるんだろうな。
もう一度、リトルミイの名言集を熟読しよう。
今の時代、悪魔も謙虚な反省が必要だ。