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神を殺したその後で  作者: 雪宮ユキ
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プロローグ

「ここではだね、同じ場所にとどまるためには必死に走らなきゃいけないんだ。そしてどっかよそに行くつもりなら、せめてその倍の速さで走らないとね。」


(ルイス・キャロル 『鏡の国のアリス』より)












 頑張っていると言えるうちは頑張っていないと誰かが言っていた。

 それでも私の頑張りを他人にどうこう言われたくないと思った。

 貴女よりも辛い人間は山ほどいる。

 やっぱり昔何処かの誰かが言っていたけど、それは今私が辛い事と一体何の関係性があるのだろうか。そもそも私の辛さがあなたに分かるというのか?

 前に進めていない様に、はたから見たら見えるのかもしれないけれど。これでも私は全速力で走っているんだって。

 言葉にしても誰にも伝わりはしなかった。












 虐められて登校拒否なんて典型的なパターン。それでも留年も浪人もすることなく他の子と同じ様に進学してきた。ただ、お酒が飲める年齢を過ぎても何処か心はあの頃のまま時を止めた部分があることを私、斎悠理(いつきゆうり)は自覚していた。



「異世界にでも飛ばされたらなんて、ラノベみたいなことあるわけないのはわかってても....。はぁ...いっそ何処かに行ってしまいたいよ。」


 深い溜息を吐きながら独りごちる。

 いっそ何もかも捨ててしまいたい。そんな欲求と、自分を愛してくれている人たちを裏切れないという想いが鬩ぎ合いって余計に私の心を疲弊させるのだ。




 その日は小鳥の囀りによって目が覚めた。カーテンの隙間から溢れる朝日は眩しく、空は青々とし美しかった。

 携帯を見れば講義までにはまだ時間があるもののいつもと違いすっきりとした目覚めだ。二度寝をする気も起きない。そのままベッドを降り、身支度を整えた。昨晩用意しておいたコップの中のお茶を一気に飲み干すと鞄を肩にかけ玄関へと向かう。

 途中台所の生ゴミの袋を持って外へと出れば鍵を閉め階段を降りる。

 何時もより優に2時間は早い8時少し前、燃えるゴミの時間に十分間に合う。ごみ捨て場にゴミを捨てれば空を見上げ伸びをする。

 初夏の少年の様な空と水気を孕んだ空気を肺いっぱいに吸い込む。何処か郷愁を誘われた。

 そう、これはまるでもう二度と帰る事ができない故郷への想いだ。いつだって電車に乗って二、三時間ほど揺られれば帰る事が出来る筈なのに。

 一雫涙が溢れた事に私は気付いていなかった。それは本能的な何か、もしくは第六感とでもいうものなのか、もう直ぐ訪れる別離を感じ取ってのものだった。


「いい天気だけど雨降りそうな匂いだなぁ。」


 鞄の中にいつも使っている晴雨兼用の折り畳み傘が入っているのを確認し鞄をもう一度閉じる。


「ああ、それにしても綺麗な蒼穹(そら)。」


 そう独り言を呟けば大通りの十字路へと向かう。疎らとはいえ自分以外も何人か信号待ちをしている。ここら辺は大学以外にも盲人の施設や学校もある為か色んな人がいる。

 信号待ちの間、何とは無しにいつもの癖で携帯を開きネットの海を漂う。不意に押し殺した様な叫び声とブレーキ音がなり顔を上げると目前に大型トラックが迫っていた。

 今ならば間に合う、けれど近くにいた盲人はそれに気づいていない。咄嗟に私は彼をトラックとは反対の方向に突き飛ばす。

 次の瞬間、全身を砕く様な痛みに目の前が暗くなりそして、意識はそこで途切れた。

 誰かの悲鳴が聞こえた様な、そんな気がしながら。





 目が覚めると、そこは知らない天井だった。

 真っ白い天井に働かない思考は安直に病院という単語を浮かばせる。けれどもそれは直ぐに違う、と何かが訴える。

 意識が次第にはっきりし始め自分の知る病院との違和感を覚えた。個室でもない限りカーテンを引くためのレールとカーテンがあるはずだ。それに他人の気配は一切ない。

 ベッドだって固くなく柔らかすぎない。シーツの感じも昔入院した時と全然違っている。

 それに何よりも怪我をした筈なのに痛みがない。鎮静剤が効いているのだろうか?

 でも、手足はあるし包帯なども巻かれてはいない。だいいちあの大きなトラックに正面から衝突されておそらく轢かれて無事なはずがない。



 上半身を起こし辺りを見回す。必要最低限のものだけが置かれた白く殺風景な部屋がそこにはあった。おそらく病院ではない場所で怪我をした筈なのに怪我もない。身体を見れば服さえも知らない物に変わっている。訳が分からない。



「起きたんですね、よかった。」


 不意に男の声が聞こえビクリっと身体に力が入る。声の方を向けば優しげな長髪の若い男が立っていた。

 いつの間に現れたのだろうか。

 気配がない。


「すみません、驚かせてしまったみたいですね。」


 苦笑しながらこちらへと近付いてくる。

 足音はない。


「あの...貴方は?」


「私のことはハイドランジアと。この世界の神をしています。」


 にこりと綺麗な顔で微笑まれればドキッと心臓が高鳴る。

 そのまるで月の様に美しい笑顔に神という言葉を流しかける。


「....ん?え.....か..み様..?」



「ええ、この世界は私が作ったんです。ちなみに貴女がいらした世界とは別の次元に存在しているため行き来はあまりできるものじゃないですね。」





 普通の頭では理解できない言葉にパニックを起こす。冷静になれと自分に言い聞かせていると、落ち着かせる様にと大きな手で神だと名乗った青年が私の撫でる。すると不思議な事にパニックになっていた感情が凪、冷静を取り戻す。


「この世界のこと、私のこと、貴女のこれからについて説明していきますね。」





 破壊と創造を司る神によって宇宙が生まれ、星が生まれ、その中の一つの星に生命のゆりかごを創り、長い年月をかけて生命を育んだ。自然も生じたもの、自らの似姿を与えたもの、それらが生きて行くために作られたもの。様々な生命がゆりかごの中に生まれ、育まれた。それは神と共にある黄金の時代である。

 そんな中、ある時神はその中の一人を愛した。しかし、ほかの神々はそれを是としなかった。その為ほかの神々は己の狂信者に破壊と創造を司る神の愛した少女を殺すように命じてしまった。そして、少女は口にするのも憚られる様な目にあった後に惨殺された。

 少女はひたすらに自分の愛する神の名を叫んだけれど、その祈りは届くことはなかった。破壊と創造を司る神は友人である、数名の神と共に少女へのプレゼントを作っていたのだ。少女の好きな蝶をモチーフにしたチョーカーと髪飾り。


 乾いた白と黒ずんだ赤に彩られた少女。その代わり果てた姿に破壊と創造を司る神は嘆き悲しんだ。神の力を持ってしても生き返らせることができる命は少ない。特別な魂で尚且つ魂の所在が分からなければ蘇生はできないのだ。少女の魂はすでに旅立った後であった。

 


 破壊と創造を司る神が真実を知った時、祝福は呪いへと変化する。自らが作った世界を呪い、それにより世界は壊滅的な打撃を受け神々もまた多くが存在を消滅させられた。


 そして神は邪神とされ封印された。


 残された神々と人々はそこから生活を立て直していったが、しかし、一度芽吹いた悪意は世界から消えることなく残り人々は争いそして人と共にあった神々は姿を消した。





「これがこの世界の始まりです。あなたには



















 私を殺してもらいたい。」

















 これは





 私が





 私になる





 その為の物語




読んでくださりありがとうございます

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