ロッキー
誰もいなくなった静かな教室に西日が差し込んだ。
その教室の一角で、龍がケータイをいじりながら人を待っている。
「チワッス。」
「来たか。」
「先輩が来いッつったンじゃないスカ。」
ムラマサが口を尖らせて文句を言う。
「で、俺ら呼んで一体何すンすか?」
「ン〜?クク……面白い事すンだよ。」
龍は顔の前で手を絡ませ、ニタリと笑う。
面白いこと、その言葉にピクリと反応した二人だが内容を聞くと一気にテンションが変わった。
「江波中のロッキーを潰す。」
「マジッスカ!?」
二人が驚くのも無理がなかった。
江波中のロッキーこと等々力は二年にして既に江波中の制覇をし、40人の軍団の頭だからだ。
当然二人にもロッキーの凄さは分かる。
「何だよオメェ等なに驚いてンだよ。つぅかロッキーってンなに強ェンか?」
「強いっすよ。」
「じゃあやっぱ潰すしかねェなァァ?今から行くぞ。」
「今から!?」
突拍子もない提案に、終始驚くばかりのムラマサとエリーなどお構い無しに龍は席を立った。
「早く行くぞ。今日中にケリ付けたいからな。」
「分かりました〜。」
「オス。」
渋々ながら、しかしどこか楽しそうな表情を浮かべ二人は龍の後を着いていった。
江波中は龍達のいる中学、紅楠中とは近くそれ故にいざこざが耐えない。橋一つ挟んだ所にある両者は、今最も対立している学校と言えるのだ。
「先輩、分かりましたよロッキーの居場所。」
エリーがボコッた江波中のヤンキーを引きずりながら龍に言う。
「コイツが言うには今ロッキーはカラオケにいるそうです。」
エリーがそのヤンキーを龍の前に放り投げた。
ヤンキーはベンチに座ってタバコをふかす龍を見て、ヒッ……と小さな叫び声を上げた。
「おぅテメェその話しマジなンだろうな?フカシこいてたらトバスぞ?」
「ウ、ウソじゃねェよ!!あいつはいつもヒマさえありゃあカラオケ行くンだ!!今日もカラオケ行くって言ってたし!!」
「行くンスカ?先輩。」
龍は自分の前で震えながらロッキーの居場所を吐露する哀れなヤンキースを見た。
この態度なら嘘は吐いてないだろう。
「行くぞ。カラオケなら都合がいい。叫び声聞こえねェからな。」
タバコを地面にポイ捨てし、踏んで消した龍はヤンキーを立たせて先頭を歩かせた。
「案内しろ。」
龍はそう言うともう一本、タバコに火を付ける。
「オラ早く歩けよテメェ!!」
ビクビクとしながらこちらを見るヤンキーにムラマサが蹴りを入れる。
(根性ねェな……大丈夫かよ江波中……。)
そんな事を思いつつ、龍とムラマサとエリーはヤンキーの後を着いていった。
「おいまだカヨ!!いい加減疲れたッつぅノ!!」
「あ、あぁもう着いたよ。ここだ。ここの14号室にいるって言ってた。」
そこはどこにでもある極普通のカラオケ。
三人は中に入り、受付の人に『14号室の奴らのツレです』と言ってすんなりと14号室へと向かった。
「なんかサァ、ワクワクすンよなエリー。」
「俺殴りこみとか初めてだよ。」
「あ……ここだここ、14号室。」
龍は14号室の前で立ち止まり扉を開ける。
中は少し暗く計15人程の生徒が座っていて中には女が2、3人紛れていたが、全員龍達を見ている。
「なんだお前ら。」
「つぅか誰だよ。」
「結構イケてンじゃん。」
中にいた人物は口々にそう龍達に向ける。
歌の途中だったためか、大音量の音響が部屋に響いていた。
「女は邪魔だ。部屋から出てけ。」
龍が部屋を見渡しながらそう言い放つ。
「ンだテメェ等イキナリ!!」
「ヤメロ。」
ひとりのヤンキーがキレかかったが、中心に座っていた人物に制止され、大人しく席に戻る。
「女は出てけ。」
「え〜!!」
「出てけって。」
不満タラタラに、各々が文句を言いながらも大人しく部屋を後にしていく。
「いややや〜悪いねェ女の子たち。」
おどけた調子のムラマサが退室していく女子に声を掛けていく。
そして三人は女子の入れ違いで部屋に入っていき、部屋の戸を閉めた。
「何の用だ?オメェ等、江波中じゃねェだろ?」
先ほどヤンキーを止めたこいつは多分ロッキーだろう。
明らかに雰囲気が違う。
素直に女子を部屋から退室させたのも、ケンカになるからそれに巻き込ませないようにさせたのだ。
(コイツ……頭が切れるな。)
龍はそう思い、テーブルの上に置いてあったマイクを掴みスイッチを入れる。
『あ〜、あ〜、お集まりの江波中諸君、俺の名前は『ドラゴン』だ。よく覚えとけ。で、突然だけど今からお前等をトバします。血ィ見たくなかったら素直に俺の下に付け。下に付きたくないならお前等を潰して下に付かせる。返答はいかに?』
歌の終わったカラオケボックスでは採点結果が表示された。
ロッキーはもう一つのマイクを手に取りスイッチを入れた。
『アホかテメェ等。ンな条件飲むワキャねェだろ。』
ロッキーは次の曲が始まると歌の音量を上げる。
流れた曲はガンマレイの『LUST FOR LIFE』。
激しく早いテンポのノリの曲である。
『潰せ。』
曲の始まりと共に、江波中のヤンキーが龍たちに襲いかかった。
「しゃあ来いヤァァ!!」
「ハッハハハァハハァ!!ブッ殺したるわ!!」
ムラマサとエリーがいきり立ち、江波中のヤンキーを迎撃する。元々個室とはいえ大人数で通された部屋なので広さは十分にあるが、ケンカをするには少し狭い。
それでもムラマサとエリーには十分叩き潰す広さだった。
「シャラァァァァァ!!」
ムラマサはお得意のボクシングで敵をドンドンと打ち倒していく。
一方のエリーはと言うと。
「ひゅ!!」
相手の胸倉を掴み、一人一人床に叩きつけていく。
「なるほど、エリーは柔道が得意か……。」
路上格闘技において、柔道ほど有利な格闘技はない。
何故ならば掴むべき『衣服』はほぼ全員来ているからだ。
なおかつ自分にハンデは多くない。
「さすが。さて、残るはテメェだ。ロッキー。」
「チッ……カス野郎が……。」
流れ出る大音量の歌に加え、江波中の奴らの叫び声がボックス内に響き渡る。
「ナメンなよドラゴン!!」
「相手してやンよロッキーちゃん。」
ロッキーが手にしたマイクを龍に投げ、龍はそのマイクのせいで思わず顔を背けてしまった。
「ッシャアァァ!!スキだらけだぜドラゴンよォォォ!!」
膝蹴りが鳩尾に入り、龍はその場にうずくまった。
「ゴホッ……!!テメェ……ロッ……キー!!」
「つぅかワケわかンねェよテメェ。いきなりケンカ売ってきてよ。」
「ワケわかンねェのはテメェだよ……ロッキー……!!」
「あ゛?」
うずくまる龍を見下ろすロッキーは眉を寄せて怒りを露わにした。部屋は暴れ狂うムラマサとエリー、そして江波中の奴らでひしめき合い、流れ出る歌と怒声で騒音に満ちていた。
「ロッキーが蹴り技使ってンじゃあ……ねェよ。ロッキーならボックス作って戦うンだろ……?『エイドリアーン!!』っつってよ?」
「て、テメェッ!!」
逆上したロッキーが、足を振り上げ龍の頭を踏みつぶさんとしている。
だが龍はそのスキを逃さなかった。
一本足になったロッキーの足に龍の水面蹴りが放たれ、ロッキーは尻餅をつく。
「な……!?」
「オラァァァッ!!」
龍の持つマイクがロッキーの頭に振り降ろされた。
「グァ!?」
スイッチを切ってなかった為、頭を殴った反響音が部屋中に響いた。
それでもこの部屋に響き渡る声に比べれば小さなものだが。
「グァァ……!!イテェ!!テメェ……クソ、なんで俺にこんなことを!!」
「やられる覚悟で頭張ってンだろテメェ!!腹くくれや!!」
ロッキーの胸倉を両手で掴み引き上げて顔面に一発、パンチを入れる。
「ガハッ!!」
「ウォォォ…………ルァァァ!!」
追撃、更に重いストレートが心中(鼻のすぐ下にある人体の急所)に一閃を描いて叩き込まれ、ロッキーは壁まで吹っ飛び叩きつけられた。
それでも龍の攻撃は終わらない。
終わる筈がない。
「シャラシャラシャラシャラシャラシャラシャラシャラ……シャァルァァァッ!!」
反撃はおろか、避けるもクソもない怒涛のラッシュがロッキーに叩き込まれていく。
早く、そして重いストレート。
「ガブ…………ク……」
「もうイッッパァァツ!!」
最後の攻撃がロッキーの顎にアッパーとして放たれた。
ロッキーは気を失い、流血しながらフラフラの状態で前のめりに倒れ込む。
「ハァ……ハァ…………ンク……ハァァァ〜……!!」
さすがの龍もあれだけ息もつがぬ攻撃を仕掛けたせいで息が上がっていた。
「終わったンスカ先輩?」
「こっちも終わりました。」
いつの間にか静かになったボックス内にはムラマサとエリーにやられた江波中の奴らが全員倒れていた。
もはや立ち上がることすら出来ないだろう。
「オメェ等……無事か?」
「ちょっと貰いましたがまぁ大丈夫ッスヨ。」
ムラマサが鼻血を拭って笑った。
龍はマイクを拾うとポンポンと先っぽを叩き、壊れていないか確認をする。
「ン……壊れてないな……。」
確かな反響音がしたので壊れてはいないだろう。
龍は大きく息を吸ってマイクを口元に近付けて叫んだ。
『江波中制覇したぞシャルァァァァァァッッ!!』
と同時に44点の採点結果が表示された。
『みぃとサリーの後書き無駄使いコーナー』
サ「こんにちは死ぬなら井戸の中へ」
み「何サラッと怪しい勧誘を……」
サ「まぁ、そーいうのはいいから、そろそろ始まるぞ。いよいよ来るのだ」
み「自分から振っておいて…………で、なにが始まると?」
サ「作者の最後の夏の大会。最後の青春が、泣いても笑っても最後の高3の夏が始まる」
み「あ〜長いようで短かった二年半でしたね」
サ「そうです。負けたら泣きますよ。主に作者が」
み「でも本人は早く引退したいという気もあるようですが?」
サ「半々らしいですね。」
み「でもやっぱりやりたい気持ちもあると」
サ「どっちゃねん」
み「さぁ?」
はい。作者のロード14/14です
仲間はいいもんですよ、悔いのないよう頑張らな!!