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異世界新婚旅行  作者: 柳沢 哲
13/26

異世界に行ったら初恋の人と夫婦になりました⑬

「王子、あの、殴らないと約束してくれるかい? 」

「分かったなら速やかに言え、殺すぞ。」

二回目の処刑宣告をする王子に、言いづらそうにファルが言った。

「オンスは城にいる。おおまかな位置だけど、間違いなく、城にいる。」

「ふざけんなよファルさん。透視までポンコツならなにができるんだよ。」

「君を手のひらサイズに変えることができるよ。」

ヨシヤは怒っているが、王子は殴らなかった。

「リッカ、起きろ。」

「はぇっあ、王子っ。」

「兵を集めろ。全員だ。」

 リッカは慌てた。

「あの、でも、オンス様は? 暗くなると、きっと、とってもとっても、寂しくなってしまいます。至急、見つけて差し上げないと。」

「彼女は森にはいない。急げ。」

「は、はい。」

 リッカが杖を奮うと、赤い光が空に登って光った。

「なんだい、城にいることも予想してたのかい? 」

「最悪だ。森の窪みにはまってくれていれば一番良かった。」

 リッカはわけがわからず不安げに杖を握る。

「王はオンスが見つからなければ、ディンバァを全員召還しろと言った。」

 ヨシヤが振り返ったので、リッカが怯えて悲鳴を上げた。

「全員捕えるつもりかい? 」

 ヨシヤが何か言いかけたが、ファルが手で押さえるようなしぐさを宙ですると、顎を掴まれたように押さえつけられてもがいた。

 ルツコもヨシヤの顎を触るが、何もない。見えず触れないのに顎を縛られているようだ。

「オンスを攫ったのが王の寵愛に嫉妬した者か、ディンバァの立場を悪化させようとした者か、それとも愉快犯か。どちらにせよディンバァは全て保護する。」

 ヨシヤの口がわずかに開いたが、ファルがぐっと拳を握るとまた閉じた。

「ヨシヤ、君が喋ると私の弟子が不安定になるのでやめてくれたまえ。王子、保護と言ったな。捕えるのではなく。」

 王子はまた、うっとうしい者に絡まれたような顔を一瞬した。

「あの、ディンバァの人たちを傷つけるのですか? 」

「そうならないように保護をする。貴方がたはオンスの友人か? 」

 ルツコが尋ねるとまともに答えてくれた。

「私たちはオンスさんの、叔父さんにお世話になっています。グラムさんの大事な人なら私たちにも大切な人です。」

 ヨシヤも同じ気持ちだったのだろう、口を開けるのをやめた。

「捕まえるのはディンバァだけならドラゴン夫妻は解放かい? 」

「今ならまだグラム殿と彼らの存在は知られていない。」

ファルがふふっと笑った。

「いや、申し訳ない。どうやら遅かったようだ。」

 ヘディトが何かを察したように駆け出した。

「リッカ、兵が集まったら森に待機させろ。」

 うろたえるリッカを置いて、行ってしまった。はっとして、ファルと同じように手を組んだ。

「あ、あれ? どうしてコディト王子が? 」

「ヨシヤ、グラムが危ないから急ぐぞ。」

 ファルの一言でヨシヤは翼を広げた。

「乗れ。」

 ルツコとファルが乗るとヨシヤは飛び立った。集落は一飛びで着き、舞い降りると兵士たちがいるのが見えた。ディンバァが集められている。

 兵士の中で大きな人影が動いた。ずらりと並んだ牙に長い顎、人というよりはワニのような頭に大きな尻尾が見えた。周りの兵士も似たような身体付と顔付きだった。舞い降りたヨシヤを見て、一歩踏み出した。

「ディンバァを守れ! 」

低い唸り声を上げて叫んだ言葉に、ファルが手を振った。

「コディト王子。落ち着きたまえ。」

 王子と言ったファルを見て、彼の目がいっそう怒ったように見えた。

「貴様はこんなところで何をしている! オンスを攫ったのは貴様か! 」

 耳がびりびりとするほどの大きな声に、ディンバァたちも耳を抑えた。

「悪ふざけもたいがいにしろ! 」

 普段の行動がよく分かる言葉だった。

「兄上。」

 一歩遅くやってきたヘディトを見てコディトは叫んだ。

「ヘディト! ディンバァの集落に兵を向けるとは何事だ! 」

 怒りで我を忘れているのか、コディトが今にも口から炎を吐く怪獣のように見えた。

 乗り物から降りたヘディトとコディトの距離が縮まると、彼らの体格は兄弟というよりも同じ生き物に見えなかった。唯一服装以外で似ているところがあるとすれば、ヘディトがモヒカンで、コディトの頭部の同じ位置にたてがみが付いているところだろうか。

「耄碌した父の命に従いディンバァを捕えるなど恥を知れ! 」

 コディトが掴みかかろうとした瞬間、ヘディトは交わして後ろに回り頭を背中から掴んだ。さっきファルにしたのと同じ技だった。

「兄上落ち着いてください。」

 落ち着くと言うか、そのうち落ちる。

「ヘディーチャは表情にはまったくでないが短気だからな。」

ファルがしみじみ言った。

 しかしコディトはファルよりも首が太いせいか頑丈なせいか、なかなか落ちずに、ヘディトを外しにかかっている。

「ヘディト王子、コディト王子、二人とも落ち着いて。誤解を解きましょう。」

 そこにグラムがやってきた。ヘディトが腕を緩め、二人は離れた。

「コディト王子、オンスをさらったのはファルじゃありません。ヘディト王子も僕たちを連行するために来たのではありません。逃がすためです。」

 コディト王子は深呼吸をし、立ち上がった。

「すまなかった。」

「いえ。私も気が短くてすみません。」

 二人がすぐ仲直りした。熱しやすく冷めやすいのだろうか。

 よく見るとディンバァたちは集められたというより、炊き出しをしているようだった。野菜を焼いているその姿は、バーベキューパーティーをしているようにも見える。仲直りをした二人に落ち着き、ふたたび作業を始めた。さっき子供たちが集めた薪はそのためだったのかと納得した。

「ヘディト王子、森に待機させた兵士たちを集めてください。僕らを襲う者はいないでしょう。ハシェルの二大部隊とドラゴン族がいる場所を襲うなんて頭の悪い山賊でもしません。」

 グラムが言うと、ヘディトが籠手に触れるとボウガンのようになり、上に向かって光る何かを撃ちこんだ。さきほどリッカが放ったのと同じ、赤い光だった。森からぞろぞろ兵士たちが出てきた。

 コディトの連れてきた兵士たちは鎧に傷がついている者や眼帯を付けている者、包帯を巻ている者がいた。

「戦帰りですか。」

 グラムの言葉にコディト王子は浅くうなづいた。

「元スダーンの兵が山賊になり西側で商人たちが襲われていた。周りの山賊を取り込み一部隊になっていたのでな。」

「ご苦労様です。」

 キャッキがお茶を持ったディンバァと一緒に来た。

「ヘディト王子、オンスは森におりませんでしたか? 」

ヘディトがうなづくと、キャッキは肩を落とした。

「お疲れでしょう。お茶と今朝がた採れたばかりの山菜があります。召し上がってください。たくさんあるのでハシェル兵の方々も。」

 キャッキのそばにいたディンバァたちがお茶を出した。よく見ると、大人のディンバァたちは怯える様子はなく、子供達もその様子を見て安心しているのか、盾や兜を見せてもらっている。身体の大きなコディト王子の兵士も、子供たちを肩に乗せていた。

 この集落は兵に包囲されているのかと思っていたのに、一緒にバーベキューパーティーが始まっているような和やかさだった。

「あの子は、ついつい駆け足になってしまうクセがなかなか治らないのです。転んでしまうのに、急がずにはいられないのでしょうな。それでよく、道の外れの窪みに引っかかってしまうのですが。森でないとすれば、お城の近くの溝に落ちているのやもしれません。」

 和ませようとしているのか、キャッキは朗らかに言った。

 ヘディトは拳を握ると言った。

「長、話がある。」

 キャッキの目が、大きく瞬きをした。

「ならば私の家へどうぞ。少し外れですので。」

 何かを察したように歩きはじめる。

「貴方がたも。」

 ヘディト王子に言われてルツコはついヨシヤの足に手を伸ばした。敵意なのか、悪意なのか、それとも招かれざる余所者に対する苛立ちか。彼からはまだ信用されていないのだと感じた。

 ヨシヤがそっとルツコに頭を寄せた。

「大丈夫だ。俺が守る。」

 ヨシヤの声に、ルツコはうなづいた。同時に頬が紅くなるのを見られるのが恥ずかしくて、気合を入れる意味もこめて両頬を叩いた。

「リッカお前も来い。兄上にもお伝えしたい。」

 エリザはヨシヤと一定の距離を置いて、ヘディトに続いた。

 ヨシヤが家に入れないので、キャッキはテーブルを置いてその上にお茶を出した。

「オンスは城にいる。」

 キャッキとグラムは目を大きく見開いた。

「この魔法使いの透視が間違ってなければ。」

 じろりとファルを睨む。コディトも無言でファルを睨んだ。

「ファルはこういった時に冗談を言うような魔法使いではありません。」

 グラムが弁解して言った。

「オンスは、姪は城の誰かに誘拐されたと言うのですか? 」

グラムは慎重に尋ねた。

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