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異世界新婚旅行  作者: 柳沢 哲
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異世界に行ったら初恋の人と夫婦になりました①

 ルツコには好きな人がいた。同じクラスの柏木ヨシヤだ。彼が校庭にいても、廊下にいても、近所のショッピングモールにいても必ず見つけた。

 それは愛の力もあるが、彼が日本人離れした長身の持ち主だったからだ。

「柏木って待ち合わせの目印にいいよな。」

 昼食を食べる友人たちに言われて、柏木はサンドイッチを頬張って言った。

「この前駅前で立ってたら知らんギャルに今すっごいでかい人の近くって目印にされた。」

 周りの男子を笑わせている柏木。その話に聞き耳を立てているルツコに友人たちは言った。

「柏木って、でかいだけだよね。スポーツ得意じゃないし。」

「ブサってわけじゃないけど、イケメンってわけでもないよね。」

「どこがいいの? 」

 目の肥えた友人たちには理解しがたいらしいが、ルツコはそれでもかまわなかった。地味でクラスメートの中の一人でしかない自分が、彼に告白する勇気もない。そのうち可愛い女の子が彼の隣を歩くのかもしれないと思うと、悲しくなるが。

 同じクラスでもなかなか声のかけられないルツコだったが、その日祖母のお使いで柏木家が営む花屋にはなしばを買いに行くことになった。

 なるべく髪の毛をとかして、スカーフにしわが寄っていないか確認して、眼鏡も念入りに拭いて、可愛いエコバックを用意して駆け出した。土砂降りの中、泥はねが靴下につくのに気を配りながら水たまりをよけた。

 花のかしわぎ、はこのあたりでは人気のある花屋だ。可愛いブーケを作ってくれる奥さんと、不器用だけどイケメンの外国人の旦那さんが接客をしてくれる。彼は母にそっくりな切れ長の一重だが、よく見ると肌が白い。

普段は誰かいるが、今日は来店を告げる音楽が鳴るばかりで誰もいない。

「ごめんください。」

 呼ぶと店の奥から足音が段々近づいてきた。

「はい。」

 出て来たのは柏木だった。

 ルツコは思わず固まった。柏木は散髪中のように、てるてる坊主のような恰好だった。

「明海、どうしたんだ? 」

「あ……あの……散髪中、だった? 」

 柏木は後ろに向かって叫んだ。

「母さんっお客さんっ。」

 それでも彼の母からは返事がなかった。

「明海、悪い。」

 彼が歩くとビニールのがさがさという音がした。

「何が欲しい? 」

 カウンター越しにあこがれの人がてるてる坊主姿でいる。でもときめく。だって好きな人だから。

「はなしばを。一束お願いします。」

「わかった。」

 柏木が手を伸ばした時、ルツコに手が触れた。その瞬間、電気が走った。

 比喩ではなく目の前に雷のような光の線がいくつも見えた。二人の手が触れた場所が、光を放って消えていく。

「明っ……。」

 柏木の手がルツコの手首を掴んだように感じた。消えているのに、手首にはっきりと柏木の手の感触を感じる。一際大きな光がルツコの目に見えて、触れた場所から痺れたような痛みが走った。

 身体が粉々になる、というのはこんな感覚だろうか。ルツコは倒れこんだ。

「明海っ大丈夫か? 」

 大きな何かに抱きかかえられている。大好きな人の胸が広く感じるのは恋をしているからだろうか。いや、本当に大きい。腕が回らない。

 眩しさで開かない目で見ようとする。やけに顔が大きい気がする。

「……柏木君? 」

 手で撫でると、感触が固い。すべすべしている。並んだタイルを撫でるような不思議な感触がする。

 抱きしめられていると思っていたが、実は壁にすがっているだけなのだと気づいてルツコは自分が恥ずかしくなった。

「だ、大丈夫……ごめんね、なんか、立ちくらみしちゃって……。」

 足に力を入れて離れようとすると、腕を何かが支えた。

「無理するな。」

 優しい声と腕を支えられる角度から、やはり抱きしめられている気がする。

「ヨシヤ、何を騒いでいるの。」

 女性の声が背後からした。

「あなた……。」

「シェリア、何か着るものもってきてくれ。」

 若い女性の声は、柏木の母とは違う。やっとはっきり見えるようになった目で、ルツコは顔を上げた。

 恐竜がいた。

「あ、あ……あれ? 」

 恐竜にしては目が大きく優しい、気がする。なんというか、犬のような、くりっとした可愛さがある。

 自分が今まで抱き着いていたもの、さっきからすぐそばでした声。

「え? か、柏木君? 」

 これは夢か何かだろうか。もしかして家で昼寝でもしているのだろうか。

「あなたも妻を連れて来るようになったなんて、皆が知ったら驚くでしょうね。」

 優しい声に振り返ると、白い髪をした女性がいた。

背が高く、豊満な胸をし、キャミソールにパレオという真夏の視線を一人占めしそうな格好とボディラインをしている。ファーのついた耳あてをしているのか、耳の所にふさふさした毛があった。

「はい。」

「あ、ありがとうございます……? 」

 差し出されたのはワンピースのような、水色の服だった。思わず差し出した手から自分の身体を見るとさっきまで来ていたセーラー服がない。それどころか、下着もない。

「……あ、あああああああああああ!??」

 思わずしゃがむ。貰った服をとにかく着ようとするがしゃがんでいるのでもたつく。

「あなたたち、閨はまだなの? 」

「そういうこと言うなっ。」

 柏木の声が背後でする。つまり、見られた。死にたい。

「あ、明海、見てないから安心しろ。」

 優しい、でも見えないはずがない。だってあんなに近くにいたんだから。

 頭を抱えながらルツコはふと気になった。振り返ると、さっきの恐竜がいる。柏木の姿はない。

 馬の二倍の大きさの恐竜。襲い掛かってくる様子は一切ないせいか、恐怖はなかった。柏木がその背後にいるのかと見るが、壁が見える。

「柏木君? 」

「……はい。」

 恐竜が応えた。

「柏木君。……恐竜? 」

「あなたたちの世界にはドラゴンはいないんだっけ。」

 女性を振り返ると、彼女の腰のやや下に、ふさふさの毛が生えた尻尾が見えた。左右に揺れているそれは、散歩を喜ぶ犬のしっぽのようにふわふわと揺れていた。

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