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白百合の姫は紅薔薇の庭で舞う  作者: 月代麻夜
第一章 檻の屋敷と紅薔薇の庭
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第四話 転生者とゲームとBLと

 今回は少し明るめのお話です。



 ――リオン=スプリンディア。

 ワイズレット王国の四大公爵家の一つ、騎士の名門スプリンディア公爵家の長男である。

 溶かした縞瑪瑙オニキスを流し込んだサラサラの黒髪と蒼玉サファイヤ見紛みまごう深い蒼の双眸を持ち、ともすれば冷淡と感じられる切れ味のある顔立ちを更に冷たい態度で完成させた氷の剣のような男。次期当主として膨大な量の勉学に励み、厳しい戦闘訓練を耐え抜き――そして血反吐を吐く努力が自身の才能と結びついた結果、超ハイスペックとなった。

 その性格はクールの一言。だが裏での鍛錬を怠らない努力家で、その事を隠しつつ常に完璧に振る舞っている。

 そんな彼が抱える闇は、幼い頃に一目惚れした婚約者が死んでしまった事。

 ただ死んだだけではない。婚約の為の顔合わせとして自領の屋敷に招待した時に、一番お気に入りだった庭で婚約者が肉片の薔薇に変えられてしまったのだ。

『お前が馬鹿だったからコイツは死んだ。お前が幼稚だったからコイツは死んだ。可憐な白百合が芸術的な紅薔薇になったのは、全てお前の所為せいだ』

 婚約者を殺した者が言い放ったその言葉が彼の心に深く突き刺さり、決して抜けなくなってしまう。

 それから彼は薔薇が嫌いになり、赤色が嫌いになり、自分が好いた何かを失わない為に常に完璧であろうと努力を重ね、自分の所為で死後の肉体すら冒涜された彼女の為に――彼女に許してもらう為に、弱い己を殺して生きていくと決断する。

 そんな彼の心の傷を癒し、彼を縛る完璧でなければならないという強迫観念の鎖を解き放ち、そしてヒロインとの間に芽生えた新たな愛を大切に育てながら世界崩壊の元凶を倒す事でトゥルーエンドへと到達する事が出来るのだ。

 それが、乙女ゲーム版である『世界を愛で救う為に True Love // World End』のリオンルート。

 こちらでは解決していない婚約者を殺した者の問題は、リオンを主人公として物語が紡がれる美少女ゲーム版『世界は愛に崩れゆく Angel // Fall in Love』で取り掛かる事になるのだ。

 ――だが、どちらにせよ、婚約者が幼少期に死んでしまう事に変わりはない。

 ない――はず、だったのだが。


   ◆ ◆ ◆


「ててて、転生者って……は、え、ど、どういう事ですか!?」

「いや、どういう事って、そのままの意味だぞ? 俺はリオン=スプリンディアでありながら、秋里あきさと春斗はるとっていう地球に住んでいた男の記憶を持っているんだよ。つまり記憶を引き継いでの生まれ変わり、って言っても思い出したの最近だけどな。あ、輪廻転生って分かる? 生まれ変わりの事」

「いえ、それは分かりますけど……って、そうじゃなくてですねっ!?」

 ぜーはー、と肩で息をするフローラ。その原因を作ったリオンはあくまでにこやかに会話に応じている。どこか楽しそうに見えるのは気のせいだと思いたい。

 一度深呼吸をして心を落ち着かせると、フローラは一つ一つ謎を解消する為に質問を口にした。

「……まず、貴方が転生者という事は、本当ですか?」

 フローラにとって、それが一番気になる事だった。

 真剣に、一世一代の問いを投げるかのような表情を浮かべるフローラに対し、リオンは何でもないかのように軽い調子で答える。

「ああうん本当。俺、転生者。太陽系第三惑星地球で生まれた日本人。あ、でも人生の半分くらいはロンドンで暮らしてたけどな」

「いえ別にロンドンとかどうでも良いのですが。……それ、本当なのですか?」

 容易に信じる事は出来ない。例え地球に住んでいなければ知る筈のない単語が紛れ込んでいたとしても、何らかの理由から鎌を掛けているだけかも知れないのだから。疑い深いと言われてしまえばそれまでだが、自分に転生の経験があっても簡単に転生などという眉唾な現象を誰彼だれかれ構わず言われた通りに認めてしまうと頭の可笑おかしい人だと思われかねないので、慎重になる事に越した事はないのだ。

 しかし、次に発せられたリオンの言葉で、フローラは信じる事になった――いや、信じざるを得なくなった。


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「――――」

 一瞬、時が止まったと錯覚した。

 今、彼が発した言葉は、流暢な日本語だった。生粋の外人では真似出来ない、奥底に根付いた言語だからこその滑らかさ。後から学んだのではなく、生まれて最初に聞いた言語なのだろうと理解出来る。

 いや、何よりも衝撃的だったのはその内容で――。

「ゲームの事……知っているのですか……?」

「ああ、まぁな」

 あっけらかんとした調子で答えるリオン。彼はその軽い雰囲気を保ったまま、内容は酷く重い会話を続ける。

「通称『セカアイ』シリーズ――第一弾の乙女ゲーム『世界を愛で救う為に True Love // World End』を中心に、第二弾のノベル『世界に愛を捧げる Blood World // Apocalypse』、第三段の美少女ゲーム『世界は愛に崩れゆく Angel // Fall in Love』、第四弾のアニメ『世界を愛で救う為に Love and Peace // Extinction』が製作された。主人公はルーシー=フルーム男爵令嬢、庶子で産まれてからずっと市井で暮らしていたが、母親が死んでから男爵家に引き取られたっていうお決まりのパターンだな」

「…………」

「悪役令嬢はレティーシャ=セルディオン公爵令嬢。美少女ゲーム版ではヒロインだった子だな。御約束の金髪縦ロールに吊り目のキツメな美少女。彼女、悪役令嬢の設定だけど性格が悪い訳じゃなくて、色々理由があっての行動だったし、ルートによっては力を貸してくれたりもしたから、逆に『セカアイ』シリーズの人気投票ではいつも上位に食い込んでいたな。一回目は堂々の一位だったし…………って、どうした?」

 つらつらとゲーム情報を語ってみせるリオンだったが、反応をしないフローラを不審に思い、顔を覗き込んだ。

 対してフローラは、あまりに衝撃的な内容に呆然としていた――訳ではなく、何かに耐えるようにその端正な顔を引き攣らせている。

 やがて――ストッパーの決壊を迎えた精神が、浮上した問いを口にした。


「リオン様……何故、それほどまでに乙女ゲームについて詳しいのですか? え、BL(そっち)に興味のある男の子だったのですか?」


「――――」

「あ、いえ、別に否定する訳ではありませんよ? BL、大いに結構です。むしろ見たいです、ご褒美なんです! あ、わたし的にはメルウィン様とのカプを見てニヤニヤしたいので、いつかお願いしますね」

「……は、」

「でもルドルフ様も捨てがたい……いえ、リオン様のショタが見られるのは今だけですから、現時点で十七歳のヴィンス先生とのカプも良いですね。ああ見たいです、写真撮りたいです! カメラが無いのが悔やまれますよーっ!」

「は、はぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああ――ッ!?」

 ついに耐え切れなくなったリオンが魂の叫びを放った。

 そのあまりの大音量を隣り合う距離で浴びせられたフローラは、驚きのあまりビクッと体を浮かび上がらせてしまう。お陰で興奮は冷めたが、病み上がりの体に響くのでやめてもらいたい。

「ちょ、リオン様五月蠅いですよ」

「うっせえ! おまっ、なに勝手に人で気持ち悪い事想像してやがる!? 俺はノーマルなんだ、男同士なんて絶対しないからな!」

「嫌も嫌も好きのうち。一度ヤッてみれば、きっとリオン様も虜になると思いますよ」

「なりたくねーよ!? つかなに、お前ら女子ってそんな事ばっか考えてんのか!?」

「いえ、全員がそうと言う訳ではありませんが……まぁ少し齧った事が有る子なら、二人の美男子が並んで歩いている姿を見た瞬間に『あの人達……どちらが受けでどちらが攻めなのかしら』と考えるくらいはするかも知れませんね」

「嫌ぁぁぁあああああ聞きたくなかったぁぁああああああ――ッ!!」

 己の女子への夢が儚く崩壊していくリオン。血の滲む叫びは酷く空しく木霊した。

 イケメンに生まれてしまったが為に女子の脳内で他の男と薔薇色の愛を育まされるなど、彼にとってはおぞましい事この上ないのだろう。全身に鳥肌を立てて悲鳴を上げるリオンの姿を見て、フローラは少しだけ哀れに思った。

 なので一言、慰めの言葉を掛けてやる事にする。

「大丈夫ですよ、リオン様。貴方ならきっと、受けも攻めもイケますから!」

「がはァッ!」

 クリティカルヒットし、床に突っ伏すリオン。どうやらフローラの言葉は、彼にとどめを刺してしまったらしい。

 しかしどうしてリオンがダメージを受けてしまったのか本気で分かっていないフローラは、頭上に疑問符を浮かべ、首を傾げるのであった。



 私はBLについてあまり詳しくないので用語の使い方が間違っているかも知れません。もし間違った使い方をしていたら、ご指摘頂けると有り難いです。

 そしてなかなか話が進まない……私の技術不足ですね、すみません。

 次回も宜しくお願いします。

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