町への道筋 その③
ウェーガン達一行は、岩肌などで自然と出来たトンネル状の道を進んでいた。上からは日差しが差し込み、所々薄暗くともそれほど困ることもない。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
四人は息を潜めて進んでいた。それもこれも、この辺り一帯の主に出会わぬ為のことである。
一見、順調に進んでいると、ガンダルがその逞しい足をピタリと、一時停止したように止める。それに釣られ、ララとジャラックも足を止めた。
「………静か過ぎるな…………」
ガンダルはボソリと、そう呟いた。
「動物一匹いやしねぇ…………」
「こりゃ、近くには魔物は一匹も居ないなぁ………」
「えっ?それって良いんじゃないの…………?」
ガンダルとジャラックの、あまりよろしくない表情から発せられる言葉に、ウェーガンはあるかないかも分からぬ首を傾げて聞く。するとララが、
「それがそうもいかないんだよねぇ………森に向かってた時は、ここ結構な数の魔物が居たんだぁ………」
「それが全く見当たらねぇ…………ここまで言えば、分かるだろ?」
そう、ジャラックがウェーガンに聞く。
「ああ。少なくとも、不自然過ぎる状況だってことは良く分かったよ………」
この世界に来たばかりの彼には、現状を察することは出来た。それとほぼ同時に、三人は止まっていた足を早送りするみたく素早く動かし、その場から走り出す。
「うおおぉぉ!?どしたぁ………!?」
全力で走るララの腕の中で、自体を把握し切れずに手をバタつかせてそう声に出すと、
「さっき分かったって言っただろ!?」
「こうなるのは分かんねえよ!!」
ガンダルが怒鳴るように問うと、ウェーガンも同様に怒鳴るようにして言い返す。
「いいか、普段大量に居るはずの動物や魔物が見当たらないってこたぁ、大抵隠れてるってことだ!!俺らみたいな絶好の餌が歩いてるっつうのに、何で隠れてなんている!?」
「そりゃあ……………あ」
ガンダルにそう言われて考えてみると、ウェーガンは、彼らが何故焦りながら全力で走っているのかを察した。
「そいつらが恐れるような奴がすぐ近くに居るってことだよ!!」
「おいおい、それって…………」
「あっ、トンネル抜けるよ!」
二人のやり取りにララの言葉が割り込む。彼らが進む先は、差し込む程度の日差しが満面に浴びせられる、トンネル状の道の出口。
少々薄暗かった道を抜けると、彼らは再び、その足を突然と止めた。そして同時に、頭上を見上げている。
そこには、一際大きな身体があった。胴体はロープのように長く、その胴体には無数の鱗が敷き詰められている。胴体の先には、髭のようなものが生え、刃物のように鋭くザラついた白い牙を禍々しい口から覗かせている。そしてその上にある血のように赤黒い目が
、彼らをジロリと見下ろしていた。
ウェーガンには、到底身に覚えの無い生物。絵本や小説、漫画でしか見たことの無いその肉体。それを同じく視界に捉えた三人は同じような回答を浮かべ、それを代表するようにガンダルが口を開く。
「間違いねぇ………主だ!」
「グギャャャァァァァァア!!!!!」
主、バジリスクの鋭い咆哮が、辺り一面に響き渡った。地べたは軋み、皆の肌はビリビリと震える。そしてそんなものを見たウェーガンは悟る。少なくとも今自分の目の前にいるこの生物が、自分を襲った大トカゲとは比べ物にならぬ程に恐ろしく強い存在であると。