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呪いのニワトリ転生  作者: 黒服先輩
第二章 ケリティカ山攻略戦
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決着


 瓦礫の中から立ち上がる地獄族の男シュッツ。先程までその姿は異形であった筈だが、今は最初に姿を表した時のように、一見して人間の姿に見受けられる。

 しかし一行は彼の、その姿に目を疑っていた。


 その姿を始めて目にするウェーガン達は、その異様さに唖然とする。男の身体は無傷であることだ。状況から察するに爆発と瓦礫に巻き込まれたであろうに、傷が何一つ見当たらない。


 その姿を知っているララは、目の前で起こっている光景に呆然としていた。魔力を使い果たすまでしたというのに、シュッツの顔は依然にやけていて、なんとも余裕そうであった。


 シュッツに対する二つの考えが渦巻く状況。

 ただ一つ、どちらも余裕そうに振る舞うシュッツに対して同様の認識があった。『この男は危険だ』というただ一つの認識。それが必然的に、シュッツが初見のガンダル達に戦闘態勢をとらせた。


「………あぁ、まだこんな居るのか」


 シュッツはなんとも気だるそうに言い漏らす。すると、


 ダッ

「あ………?」


 背後から聞こえる、上から何かが落ちてきたような音が複数。シュッツがそれを気にして振り向くと、そこにはララの攻撃の被害に遭いまいと遠ざかっていたジャッカルとレリーシア、そしてその他の隊員が居た。隊員たちは肩を抱えあって居るが、ジャッカルとレリーシアはまだ戦えそうである。

 前方後方、両方を囲むことに成功した一行。その裏で、ウェーガンはある変化を気にかけていた。その変化とは、リリィのことだ。シュッツの姿を見てからというもの、僅かに垂れる冷や汗。そのせいかウェーガンを抱き締める力も自然と強まる。


「………おい、大丈夫か?」

「………えっ、あっ、はい………」


 心配して声をかけたウェーガンに返ってきたのは、今にでもこの場から逃げ去ろうとしている子うさぎの様に頼りない声。

 そんな中、シュッツは二人を視界に捉えた。

 しかしシュッツはすぐさま視線を離し、再びガンダル達の方を向いた。

 どちらも身動きを取らない膠着状態が続く。ヒシヒシと強まるガンダル達の緊張感。しかしその終わりは、突然とやってきた。

 シュッツがダラリと下げていた手を気だるそうに持ち上げたのだ。その様子を見て、ガンダル達の足腰に力が込められる。…………が、


「降参。降参だ」


 シュッツの口からは、先程まで圧倒的な再生能力でララ達を翻弄していたのとは別人のような言葉だった。

 これには流石に困惑するガンダル達。数人はその言葉が罠だと思い力を緩めずいるが、シュッツのその様子からは、殺し合いをするという気概がどうも感じられない。するとその様子を察してか、シュッツは続ける。


「そう固くなるな。俺はもうやり合う気持ちなんてさらさら無いよ」

「何故だ?」


 ガンダルが問うた。


「何故?そりゃあ、確かに儂は不死身だがよ、それで確実に勝てるとは限らんだろ。何より人数差だ。こっちが一人に対してそっちは沢山。螺旋の騎士に調査隊と冒険者にその他諸々、それに…………」


 シュッツは再び、リリィの方をジロリと向いた。

 当然ながら怯え、一歩後退るリリィ。しかしそれを気にも止めずに、シュッツは続ける。


「ともかく、ここは幕引きとさせてもらう。何よりそっちの用は、別にあるんだろ?」

「…………ああ」

「だったら、ここで戦うのは得策じゃねぇ。ただそれだけの事だ。分かるだろ?」


 シュッツの問いに、一行は反論出来ずにいた。

 反論の材料ならある。攻撃する権利ならある。それは仲間を殺されたことだけではなく、それを挙げればシュッツを攻撃する正当な理由になるだろう。

 しかし皆、それをしない。わかってしまっているからだ。魔力を使い果たしふらふらなララを見て、この男がどれだけ高い戦闘能力を持っているかを。

 動きたくても動けない。そんなもどかしい葛藤が、一行の胸に抱かれていた。


「分かればよろしい」


 一行の心情を察してかシュッツはそう呟くと、挙げていた手をまた下げて、ガンダル達が来たのとは別の通路へと歩き出した。

 去り際、レリーシアとジャラックの間を通った際シュッツは口を開いて、


「ああそうだ、君への誤解を謝らないとね。儂はテッキリ君だけが実力者なのかと思ってたけど、どうやら違ったようだ。実力不足は、君も含めてみたいだね。隊長♡」

「っ…………!!!」


 馬鹿にされることに流石のレリーシアも怒りを抑えきれておらず、剣を握り締める手に力がこもる。だがそれでも、彼女はシュッツを攻撃しなかった。出来なかったのだ。知ってしまったからだ。シュッツの強さを。自分の弱さ、脆さを。だからこそ彼女は動けない。自分では戦ったら負ける。そう分かるからだ。

 彼女だけでない。手を出したくても出せない者は沢山いる。シュッツはその様子に嘲笑うかのような表情を浮かべながら、通路の闇へと消えていった。

 一行はその後ろ姿を、親の仇を見るような目で見送ったという。

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