ようやくの集合
コツンッコツンッコツンッ
「ん?」
遺跡に反響しながら近寄る複数の足跡に、洞穴の中のウェーガンとリリィは気がつく。
数は七、八人程だろうか?流石に足跡だけでそれが何者かを察することは難しいが、少なくともその足跡は魔物の足跡などではなく、人のものだ。
「なあリリィ、聞こえたか?」
リリィの腕の中から、ウェーガンはそう尋ねた。
リリィはウェーガンの顔を見下ろし、
「はい。聞こえました」
「もしかして、例の地獄族か?」
「多分、違うと思います」
リリィは否定する。するとウェーガンは首を傾げ、
「どうしてだ?」
「アレは他人と連むのを嫌いますから」
「ああ、そういうことね………」
納得するウェーガン。
二人は一旦会話を慎み、耳を澄ませて足音が一旦通り過ぎるのをジッと待つ。
コツンッコツンッという複数の足音は少しすると、ウェーガン達の居る洞穴の前を通り過ぎていった。それを確認した所で、二人は洞穴から顔を出して足音の主を覗く。
そこに歩いていたのは、床が崩れた際に逸れた仲間。遠目ではあったが、彼等が松明を持っていたお陰でその顔を伺える。ガンダルとハルム、そして調査隊の隊員が五人だった。
「おーい、ガンダルー!」
「ん?」
ウェーガンがガンダルに呼び掛けると、その声の方にガンダルは振り向いた。そして洞穴から顔を出すウェーガンとリリィを視界に捉えた。
「おっ!アレは………」
視界に捉えたとは言っても、流石に灯りが魔石だけではイマイチ姿を確認できないようで、駆け足でウェーガン達に近寄ろうと来た道を戻る。
ガンダルの行動を見て、他の皆も来た道を戻る。
「おぉ、やっぱりウェーガンだ!」
少し戻って来て、洞穴から顔を出すウェーガンの姿を確認した。
何故だろう。逸れたのは数時間前なのに、再開するのに数ヶ月かかった気がしてならない。
「……んで、そっちの子はどちら様だ?」
ガンダルはリリィを視界に入れると、当然の疑問をウェーガンに尋ねた。
そう聞かれて、ウェーガンは返しに困る。
「えーっとな、追われてるらしくてな、誰かに。それでここの穴に隠れて居たらしくて、俺もそこに入れてもらってたんだよ」
「初めまして。リリィと言います………」
「おっ、おうどうも………俺はガンダル。そこのニワトリとは冒険の仲間でな、よろしく」
「よろしくです………」
リリィはガンダルと話している間も、若干の警戒心を抱いているようだ。比べてみればウェーガンと話している時とではその差が一目で分かるほど。
なにはともあれ、ようやく合流できたウェーガン。
リリィは自分の荷物をまとめると、洞穴の外へと出る。洞穴から出たのはとても久しぶりのようで、硬くなっていた身体をグッと伸ばしている。
「んで、これからどうするんだ?」
そう尋ねたのはウェーガンだった。
「そうだな………とりあえず、他に逸れた奴らと再開したいんだがなぁ………」
「まあ、どこいるか分かりませんがね」
ガンダルとハルムはそう話し合う。とどのつまり、どうしようもない状況下なのだ。するとそんな彼らの耳に、
ズドドォォォォオンン
と、何かが派手に崩れたような音が遺跡中に響き渡った。当然そんな音聞き逃す筈もなく、一行は一斉に音のした方へと身体を向けた。
「おいおい!何だぁ今の音は!?」
「結構大きかったけど、ひょとして………」
「………行ってみるか」
音を聞いた瞬間皆の行動は刹那に合致し、直ぐさまそちらに向けて駆け出した。
皆が早々に走り去る中で、リリィはおどついてその場を離れようとしなかった。いや、しなかったと言うよりは、出来なかったと言った方が正しそうだ。足が僅かに震えている。
「………大丈夫か?」
リリィが心配でその場を動かなかったウェーガンは不安そうに、俯くリリィを見てそう尋ねる。
「あっ………はい、大丈夫です………」
「行きたくないなら、ここに居ても良いんだぞ?」
「いえ、大丈夫ですから………行きましょう」
分かりやすく無理をしているリリィ。よく言えば、頑張っていると言うのだろう。
リリィはリュックを背負い、ガンダル達の走っていった方へと向かって駆け出した。その後ろ姿を追いながら、ウェーガンもその小さい身体で必死に走る。
「………あ」
ちょっと進んだところで何かに気がついたのか、リリィ再び逆方向へと振り返りウェーガンへと駆け寄ると、両腕でウェーガンを抱き抱えた。
「なっ、なんかすまねぇな………」
「いえ、大丈夫です」
無理をして居ながらも気遣いを忘れない。やはり彼女はとても良い娘のようだ。
ウェーガンを腕から落とさぬようシッカリと、しかし優しさは忘れずに、そうして再びガンダル達の進んだ方へ駆けていく。
二人がガンダル達に追いつくと、そこに広がっていた光景は恐るべきものだった。
周囲は高熱に覆われ、崩れた天井の岩は熱を直に受けたせいか若干溶けている。そしてその崩れた物が障害となって、道を塞いでいた。
(おいおい、なんだこりゃ…………ってか暑い……。焼き鳥になっちまうぜこんなの………)
心の中でそうして愚痴を吐くウェーガン。
しかし彼自身を抱きかかえるリリィを見ると、彼女は自分よりも暑さの被害を受けていた。あまり暑さに強くないのだろう。既に額から汗を流し、手で押してしまえば倒れてしまいそうだ。
するとそこに………
ダンッ
と、上から落ちてきた少女が瓦礫を伝ってガンダル達の元まで勢い良く降りてきた。
「んな!?ララちゃん!」
「んー………アレ、リーダーだ〜………」
ガンダルに呼ばれて始めて彼らの存在に気がついたようだ。しかしそんなことも当然のこと。彼女は体内の魔力を大量に使い、一時的な魔力不足となっていたのだ。
ララの足はふらついていて、今にでも倒れそう……というか、もう既に倒れた。
「おっと!」
遂に立ち姿のキープすら出来ずに姿勢を崩し、咄嗟にそれをガンダルが支えた。
既にララの視界はボヤけているのか、ガンダルの腕の中からしばらくララは動きそうにもない。
「おい、大丈夫か!?」
「あはは、ゴメンねー。敵が強くてねー…………でも大丈夫、もう倒したから………」
気のせいか声も掠れているようだ。これはしばらくの間寝かせておくべきなようだ。
するとそこに………
「誰が倒されたって?」
そんな一言が投げ込まれた。
声の主は瓦礫の中。間違いなく下敷きになれば助からぬ量の瓦礫の中から、シュッツは難なくとその姿を現した。
どうやら慈悲というのはないようで、既にその身体は完治していた。
そうしてまだ、ケリティカ山での探索は終わらないのだ。




