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呪いのニワトリ転生  作者: 黒服先輩
第二章 ケリティカ山攻略戦
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獄化と呼ばれる外法


「えっ、地獄族?」

「はい。地獄族です」


 ウェーガンとリリィは、ランタンの灯りを頼りとした小穴の中で会話をし、誰かが近くに来ることを待って居た。

 そこでリリィの口から出たのが、今現在上の階層でララ達が戦闘を繰り広げている、地獄族と呼ばれる種族のことだった。


「彼らは、エルフやドワーフのように他の種族と友好を築くことが無く、寧ろ争いばかり続けて居て、とても嫌われた種族です。知らないんですか?」

「えっ、あっいやーちょっと記憶が無くてねー……」


 ウェーガンの回答は絵に描いたような棒読みだ。

 リリィはそれを素直に受け取り、


「そうですか……」

「あっ、ああ、そうなんだよ………」

(………でも、そんな種族に追われてるなんて、この子一体何者だ………?)


 自分が転生者であることを誤魔化そうとする一方で、ウェーガンの頭にはそんな、素朴な疑問が浮かんで居た。


「………ニワトリさんのお友達は、大丈夫でしょうか………」


 リリィはそう口にした。

 その言葉の真意を知ろうと、ウェーガンは問いかける。


「………それってどういう意味だ?」

「地獄族は皆、ある共通の能力を保持しています。その効果こそ違えど、等しく脅威となり得る危険なものです。もしも遭遇してしまったら………」


 リリィのその口調からは明らかな不安が読み取れ、それはウェーガンの不安を煽る。

 仲間への心配は、より大きくなっていた。それと同時にウェーガンは、


(………いや、あいつらが簡単に負けるはずがない。俺はまだ短い間しかあいつらと一緒に居ないが、全員が実力者のはずだ。地獄族とかいう奴だって、きっと………)


 というような安心があった。

 自身はまだ知らない、仲間の実力の底。それが存在する以上、ウェーガンの思考を不安が埋め尽くすことは無かった。


「……その能力ってのは、どんなんなんだ?」


 ウェーガンがリリィに問いかける。

 リリィはそれを聞き入れると、少しの間を置き、


「………能力の名前は、『獄化(ごくか)』。人体に溜めた魔力を解放し、悪魔の力を手に入れる、穢れた外法です」



 ■□■□■□



「ぐっ………う、うぅ………」

「………おいおい、こんなもんか?」


 時を同じくして上層では、地に倒れ込む一行の姿。

 その一行の中心に屹立する、獄化によって禍々しい姿へと成り果てたシュッツの姿があった。


(くそっ………何が起きた……!?)


 退屈そうに呟くシュッツを、倒れ伏せているレリーシアが睨み付けていた。

 シュッツに対し思い浮かぶのは、疑問の数々。


(奴の姿が変わったと思っえば、途端に動きが良くなった。これは一体…………!?)

「…………それが、獄化か……?」


 レリーシアの疑問に答えるかのように、シュッツに向けてジャラックが問うた。

 ジャラックは続ける。


「地獄族の者に伝わるという、悪魔の力を手に入れる外法。噂に聞いていたが…………それがか?」

「………ああ、その通りだ」


 ジャラックの問いに、シュッツは余裕そうに回答した。


「かつて魔王により禁じられた外法だが、俺たち地獄族にとってこの能力は宝そのもの。生まれつき保持し、何百もの時を掛けてその効力を伸ばす!

 俺の獄化は、およそ三百年の熟成を経て出来上がったものでな、凄いぞ。再生速度は飛躍的に上昇!身体能力の強化!神経はより研ぎ澄まされ、先程とは比べ物にならぬ程の戦闘力!」


 呂律を回し、テンションを高めて語るシュッツ。

 ジャラックは苦笑しながら身体を持ち上げ立ち上がる。


「そうベラベラと語るってことは、自分が負ける事なんざこれっぽっちも思っていないようだな」

「ああ、あいにく死なない身なんでね。それにそっちにはもう、まともに動ける奴は居ないみたいだ。さっきのララとかいうガキだって、そこで転がってる」


 シュッツが指差した先には、皆と同様地べたに転がるララの姿があった。


「それでもまだ勝機があるってんなら、教えて欲しいなぁ」

「………レリーシア、立て」


 ジャラックは自分の横にうつ伏せで転がるレリーシアに声を掛けた。

 反応するレリーシア。

 ジャラックは続ける。


「他の隊員達をさっさと避難させろ。できるだけ距離を取る」

「………無茶難題だな。アタシもあんたも大分消耗している。隊の奴らはまだ動けるだろうが、コイツから逃げるのは不可能だ………」

「大丈夫、隙は出来る。もっとも、その隙が俺らにとっての命の危機だけどな………」

「…………?」


 ジャラックの冷や汗を垂らしながらの地震に満ちた言葉に、レリーシアは首を傾げた。

 ジャラックの言葉の真意は不明だが、レリーシアには長年の付き合いか、それとも単純に直感なのか、その考えに賛成し、首を縦に振ってから立ち上がる。


「おっ、何だまだやるのか。いいぞ。儂が満足するまでなら付き合ってやるさ」

「そうかい。そいつはどうも………だがなぁ、戦うのは俺らじゃねぇよ」

「………なに?」


 ジャラックの言葉に疑問を抱くシュッツ。

 同時に、ジャラックとレリーシアはシュッツの居る方へと駆け出した。

 構えもせず、突っ立ったままのシュッツ。死なない自信があるのだろう。

 しかしここで、シュッツの想定が外れた。

 二人はシュッツを無視して通り過ぎ、倒れ込む隊員達の方へと向かう。


「あぁ?どういうつもりで――」


 シュッツの視線が、背後へと駆けて行った二人に釘付けになった直後、前触れ無くシュッツの身体を業火が包み込んだ。


「!?」


 炎はどんどんと勢いを増していき、シュッツ変貌した肌を焼いていく。


(この炎は………さっきのガキのか!?だが、込められた魔力が段違いだぞ!?)


 シュッツの予想通り、炎の主人はララだった。

 しかしその業火の火力は、まるでシュッツの記憶に無い、殺意の乗った灼熱の業火。

 内臓すらも焼き、呼吸を封じるその炎は収まることを知らないのか、いつまでもシュッツの身体にまとわりつく。しかしそれも、長くは続かなかった。


「………いい加減に………しろ!!」


 その怒鳴り声と共に、シュッツは自分にまとわりつく炎を勢いよく引き剥がした。

 炎が止み、辺りが再び見えるようになった時、既にこの場にジャラックやレリーシア達の姿は無かった。あの炎がシュッツを足止めしている間に、逃げ出したようだ。

 しかし、その場には誰も居ないわけじゃない。皆が居なくなった代わりに、そこにはただ一人、背丈の低い少女が、青髪をたなびかせたララが立っていた。


「………ああ、なるほど」


 シュッツは何かを察したのか、ララに視線を移す。


「その魔力、どうやら先程のは本気ではなかったようだが………なら、お前は何者だ?」

「あはは、何者だなんて強く言わないでよ。私はただの魔法使いだよ」


 ララが適当にシュッツの問いをあしらう。

 シュッツは口元に笑みを浮かべた。耐え切れずに出てしまったような、自然な笑いだ。


「ほざけよ。その魔力はただの魔法使いの物ではないだろ。歴戦の猛者すら泣いて逃げ出す、特殊な物だ。もう一度聞く。お前は何者だ?」


 今度のシュッツの問いは、今までよりも低く、真剣なのだとうかがえるものとなっている。

 ララはその真剣さに答えるかのように、自分の体内の魔力を、より強くしていく。それはもう、地獄の業火のように、熱く、強く、強大なものへと。

 そして幼さが残る真剣な目つきで、口を開いたのだった。


「『螺旋の騎士』が一人、《業火のララ》。推して参ります」


 『螺旋の騎士』……….その単語を聞いたシュッツは笑った。今までになく、ご満悦な笑みだった。

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