獄化
暗闇の中に、チリチリと明るく燃える炎が点々としている。
相対するのは焼け焦げた肌を再生していくシュッツと、彼に向かって炎を放った張本人であるララだ。
「魔法使い………それもなかなかの手練れか……あの齢の癖して、よくやるもんだ」
「えへへ〜、ありがとー」
「いいってことよ。子供は褒めてやるもんだからな!だが、今はちと訳が違う訳よ」
シュッツはそう言って、既に治りきった右腕をララへと突き出す。その拳は力強く握られ、ララを倒すということを体現しているようだ。
ララはそれに答えるように、炎で作り出した剣の切っ先をシュッツに突き出す。
「コイツら先に殺るのもいいけどよ、やっぱり強い奴を倒したいよな――」
シュッツが言い切りかけたその時、ララの背後から突然と出現した火球が、シュッツ目掛け降りかかった。
「うおっ!?」
咄嗟に背後にステップをとって火球を避けた。
しかし同時にシュッツの周囲を爆煙が包み込む。
「チッ、またこの手――」
その時だった。
爆煙に穴を開けて、ララがシュッツ目掛けて斬りかかった。
「なっ!?このガキ早――」
そして状況を察する間も無く、シュッツの胴体はララの持つ炎の剣で真っ二つに切り裂かれた。
切り裂かれたシュッツの胴体は新たに焼け焦げる。
ヒュドラという怪物は、切った首を焼くことで、再生しなくなるという。がしかし、目の前の男は違った。
「ハハッ、まったくどうしてこうも………」
気がつけばシュッツの身体は再び元に戻っていた。
そして背後に立つララに振り返って、
「面白いものかねぇ!!」
シュッツはララに殴りかかった。
ダァァアン
「チッ、またか!?」
シュッツの手首に撃ち込まれた弾丸。それがシュッツの攻撃の射線をそらした。
当然銃を撃ったのはジャラックだった。
「ナイスジャラックさん!」
「いいってことよ!」
ララとジャラックは短い時間でそのやり取りを済ませると、ララは再びシュッツに斬りかかった。
胴体に大きめの切り傷を作っなララ。しかし、当然そんな一撃では終わらず、ララはそのまま幾千もの斬撃でシュッツにダメージを与えていく。
切り傷は焼け焦げて、再生する時間が少し遅れているようだ。
(やべっ!再生が間に合わん………!)
シュッツは時間に危機を感じると、ララから距離を取ろうとステップをとった。しかし………
グサッ
「!?」
シュッツがその音に視線を下に落とすと、足には一本の剣が刺され、シュッツの身動きを封じていた。
剣をシュッツの足に刺したのは、冷や汗をかくシュッツにニヤリと笑みを浮かべたレリーシアだ。
直後、ララは大振りの一撃をシュッツに放った。
ゴロゴロとシュッツ勢いよく地面を転がって、遺跡の壁に叩きつけられた。
「ガッ……ハッ…………ッ」
シュッツは苦しみながら立ち上がる。
しかしその足は覚束ず、かなりのダメージを受けているご様子だ。
「ハハッ、恐れ入ったよ。まだ出会って1分経ってないというのに、この有様とは、最近のガキは恐ろしいな」
シュッツはそう呟く。
その時の彼が一行に向けたのは、どうしようもなく憎たらしくなるような満面の笑顔だった。
「ああ本当………完全に舐めていた。だから今から、本気で潰しにいくわ」
そう言うシュッツの最後の声はどうも低く、まるで先程までのが茶番だとでも言うようだ。
シュッツはその一言と共に、
「………獄化……」
と、小さく呟いた。
途端シュッツの身体がミシミシと音を立て始める。
傷つけられた胴体はみるみる内に治り、その次にその身体がどんどん肥大化していった。
「なっ、なにこれ!?」
「聞いてなかったのか?地獄族だぞ。だったらアレもあるだろ」
レリーシアとジャラックのやり取り。
ララはそのやり取りを横耳で聞くと、
「………みんな、早く離れて」
「………え?」
「早く離れないと、危ないよ」
訳も分からず居るレリーシアにララがそう言うと、レリーシアとジャラック達はシュッツから少し後ずさる。
その頃、シュッツの身体の変異が終わった。
そしてその場には、身体の部位全てが一回り大きくなり、最早人とすら呼べぬ姿となったシュッツだった。
「…………さあ、第二ラウンドだ」
その声は鈍く、まるで………いや、間違いなく怪物である。