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呪いのニワトリ転生  作者: 黒服先輩
第二章 ケリティカ山攻略戦
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地獄族の男 ④


「ゴホッゴホッ………」


 遺跡内を爆煙が包み込み、咳き込むジャラック。

 視界は爆煙の所為で晴れず、爆発が直撃したであろうシュッツの生死を確認することは出来ない。


(………魔力弾……弾丸に込められた魔力に衝撃を加えることで様々な効果をもたらす。貴重であまり使いたくはなかったが、仕方ないだろ………)


 自分の抱える銃を見ながらジャラックは思った。

 頭には、リザードマンの男から弾丸を取り引きする光景が思い起こされる。


「はぁ………結構いい値段するんだけどなぁ………」

「おっと、そいつは残念だ………」

「!?」


 ボヤくジャラックの耳に届いた、シュッツの声。

 声は爆煙の中から送られているようで、ジャラックは咄嗟に立ち込める爆煙を刮目した。

 ジャラックが見ると、立ち込める爆煙の中に、こちらへと向かってくる人影が見える。


「あいにくと………その高値は無駄になったらしい」


 爆煙の中から悠々とシュッツは現れて、そう口にした。

 シュッツの身体に一切の傷は無い。服こそボロボロになってはいるが、その胴体は綺麗なままである。

 ジャラックはタラリと冷や汗を垂らし、


「おいおい、聞いてたんなら大人しく倒れといてくれねぇかね?死んだふりの一つでもしてくんねーと、おじさん傷ついちまうわ」

「はっはっはっ、それは失礼だった。だが、そんな余裕なことを口にしていて良いのか?」


 苦笑を浮かべるジャラックに対し、シュッツは意味深な口調でそう問いかける。先ほど通り、憎たらしい笑顔で。


「そっちはもう切り札を切ったみたいだが、こっちはまだまだ本気じゃないぞ?」

「へっ、存じてるよ。地獄族っつう種族には『獄化』とかいう大変便利な能力があるってな」

「ほう、知っていたか………だが、悪いな。冥土の土産としてそれを見せてやることは出来ない。疲れんだよ、アレさ〜」


 相変わらず緊張感の無い口調。正しく余裕ということだろうか。

 隙だらけにしか見えぬが、それでも何ら問題は無いということを証明する彼は、ジャラックにとってはいつかは登り切る山などではなく、どこまで見上げてもそり立つ壁に見えたに違いない。


(ああ、こいつはもうダメだな………)


 ジャラックは死を確信していた。

 もしもシュッツの気が変わり見逃されることがあっても、その期待は薄い。

 ジリジリと迫るシュッツ。それに対し体重を背後に向けるジャラック。そこへ、


「ハアッ!」

「むむっ?」


 ようやく晴れた爆煙の中から、剣を握りしめたレリーシアが走り込む。

 そのまま繰り出される斬撃。


 ガキンッ

「なっ!?」


 シュッツは剣の刀身を片手で握り締めて受け止めた。

 レリーシアが決して弱い訳ではない。ただ、相手の方が上手なのだ。


「無理だと分かっても幾度となく斬りかかる。俺はそういうの好きだぜ。だども、もう飽き飽きだ」


 そう落胆した一言で、シュッツ剣を握る力を強くして、レリーシアが持つ剣の刀身を折った。

 折られた刀身は一旦宙を舞い、音を立てて地面に落ちた。


「そっ、そんな………」


 力の差を理解してか、レリーシアは手に持つ剣を地面に落として、力無く座り込んだ。


「団長ってんで、もう少しはやると思ったがなぁ、悪い、期待外れだ」


 さらにシュッツは落胆の声をかける。

 レリーシアの表情は、暗くなるばかりだった。

 そんなレリーシアを見下ろすシュッツは、


「………ん?」


 ふとレリーシアの後方に目をやる。

 そこには、同様に力の差を理解していてもなを剣を持って戦おうとする隊員たちがいた。

 彼らの手は震えている。恐怖だろうか。しかしそれでも、彼らの目は眼前のシュッツを捉え続けている。


「…………」


 シュッツが次に背後に目を向けると、一度は死を確信したジャラックが再び、銃口を向けていたのだ。


「立て、レリーシア。死ぬにはまだ早いみてーだよ」


 座り込むレリーシアに向けて、ジャラックはそう言う。

 その言葉はしっかりとレリーシアに届いており、レリーシアは刀身の折れた剣を再び拾い上げた。


「そうね、仲間が立ってるのに、アタシが立たない訳にはいかない………!」


 再びやる気を取り戻したレリーシア。

 その目は燃え滾り、闘志を剥き出しにしている。


「………はぁ」


 そんな彼らに向けて、シュッツは嘆息を吐いた。


「まったく、勇気と無謀を履き違えているね。君らのことを、蛮勇と言うんだよ」


 シュッツは隊員たちに向けて語り出した。

 落胆した口調、やる気をあまり感じられぬ、気だるさを感じ取れるものだ。


「………しかしそうだな、その蛮勇に応えて、一つ良いことを教えてあげよう。儂の身体は完全な不死身ではない。しかし、ダメージを負ったのと同時に再生が始まり、気がつけば元どおりになっている。だから儂を殺したきゃ、剣よりも炎とかの方が有効だよ」


 シュッツはペラペラと語り出した。それは当然、彼自身の慢心からきたもの。

 事実この場において強者はシュッツであり、ジャラックやレリーシア達は彼に喰われる側、言わば餌だ。

 なんと言うことはない。ただ単に今この場に、弱肉強食という言葉が発生しているだけのことだ。ただそれだけの、自然の摂理であった…………


「………だったら、私の出番だね!」


 その場に突然と届いた、少女の声。

 元気の感じられる、幼い声だ。


「なに………?」


 シュッツが声のする方へと向いたその時、魔石も無く暗い遺跡内を一瞬にして明るくしてしまう程の業火が、シュッツ目掛けて放たれた。

 炎はまるで生き物のように動いて、シュッツに絡みつく。


「グガァァァ!?」


 不意に声を挙げるシュッツ。

 不死身と豪語するその身体が、ジワジワと燃え剥がされていく。

 同時に、シュッツを包むのは底知れぬ痛みの数々。

 シュッツのその姿に、困惑する一行。

 そして遂に炎は剥がれ、辺りはまだらに燃え上がり、既に治り始めているシュッツの焦げた身体からは多くの湯気が立ち上る。ここで始めて、シュッツは跪いた。


「ぐっ、ぐぅぅ………!」

「ご忠告通り炎で攻撃してみたけど、どうかな?」


 炎の来た方向から歩いて来た少女の声が、苦しむシュッツに浴びせられた。

 シュッツは自らの肺を片手で抑えながら、その身体を起こし少女の方を見て一言、


「………テメェ、何者だ………?」


 シュッツは笑いながら、少女にそう尋ねた。

 しかしシュッツの笑いは余裕そうなものではなく、まるで面白い物を前にして興奮するような笑顔だ。

 そんな顔で問いかけられた少女は一言、


「ふっふーん、ただの魔法使いだよー」


 シュッツに負けじと、緊張の感じられない少女の声が届いた。

 その少女は小柄で、青白い髪を伸ばし、ローブを改良したような服を来ている。

 皆さんご存知、ララ本人であった。


「さっ、勝負だよ。地獄族のお兄さん!」


 戦闘はまだまだ続く。

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