地獄族の男 ②
この世界には、幾多もの種族が存在する。
エルフ、ドワーフ、リザードマンなど、人間と共存する者からそうでないものまで、様々だ。
そんな数ある種族の中で、特筆した実力を持つ種族が存在している。それが、『天界族』と『地獄族』だ。
『天界族』とは、人間とあまり関わりを持たぬ神聖な種族で、神より力を授かったことから、神の使いとされている。魔力が非常に高く、人間とは基本のスペックが桁違いなのだ。
対し『地獄族』は、同じように人間とあまり関わりを持たない。しかしそれは、彼等が人間だけでなく、あらゆる種族から非常に嫌われている種族だからである。
悪魔の使いと呼ばれ、同時に気性の荒い者が多く、古くから多くの戦争を行ってきた。
現に、今レリーシアとジャラックと相対するシュッツも、その一人である。
「その地獄族が、何でこんな場所に居る?」
ジャラックがシュッツにそう尋ねた。
シュッツは顎に手を当てて何を言おうかと考え出すと、
「まあ、ちと人探しをねぇ………と言っても、どうも隠れるのが上手なお姫様なことで、三日三晩探しても見つかんねえんだわ。いやいや、困っちまうよなぁ」
「………だったら、何で他の隊を壊滅させた?」
事情をペラペラと語るシュッツに、レリーシアはそう睨みつけながら尋ねた。
「あいつらは無害な奴に戦いを挑もうとはしない。なら、アンタからあいつらに仕掛けたんだろう。何でだい?」
するとシュッツは、
「………あれ、何でだろ?」
「………は?」
思いがけぬシュッツの発言に、レリーシアは自然と口から声を漏らした。
「いやぁ………確かにこっちから仕掛けたけど、別に殺す必要なんて無かったしなぁ………あっ、そうだ思い出した!ずーっと同じ事ばかりしてて人探し飽きてきててさぁー、丁度暇潰してか気分転換って感じでやったんだった!」
シュッツはペラペラと語り出した。とても軽い口調だ。罪悪感は、間違いなく無い。
「………そんな身勝手な理由で、アタシの仲間を殺したのか………?」
そんなシュッツに、レリーシアがそう問うた。その口調からは、彼女の内心に湧き出て居る怒りが目に見える。
レリーシアは再び、剣を力強く握り締めた。
「へ?そうだけど………」
「ああそう、じゃあさ、さっさと死んでよ」
ヘラヘラとしているシュッツに、レリーシアは冷たい視線と共に言葉をかける。
「アンタみたいな奴見てると、虫唾が走る」
「ハハッ、酷い言われようだな………なら、さっさと始めようじゃん」
そう言って、シュッツは肩に手を当てて、腕を回している。運動前のウォーミングアップとでも言ったところだろう。
冷たい視線のレリーシアとジャラックはゴクリと唾を飲み込んで、今すぐに始まる先頭に備える。
先頭開始の合図は、突然だった。
シュッツは一歩前に踏み込み、そのまま一向に向かって勢い良く走り出した。
「来るぞ!!」
「総員構えろ!!」
その場に居る全員が、戦闘態勢をとった。